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【リレー談話室・JAの現場から】「ブラックアウトの教訓」大災害への備え急げ2018年10月4日

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【高橋勇・浜中町農業協同組合参事】

 北海道地震の震源地である北海道胆振東部から数百キロも離れ、震度2だった道東の当地区がなぜ2日間も停電になってしまったのだろうか? 報道で説明されたが、今でもすっきりしない。
 9月6日は夜明けとともに好天でいつも通りの朝を迎えたが、普段と大きく違ったのは、停電だったことだ。当JA管内の組合員はほぼ酪農家である。酪農家の搾乳時間は早朝と夕方の2回である。搾乳の時間に電気が止まっているとミルカーを稼働させることができないのである。搾乳してもらえるはずができないとなれば、乳牛にとっては一大事である。
 お乳はパンパンに張ってウシ自身ではどうしようもない。では酪農家ができることは何か。昔のように数頭の規模であれば手搾りという技が残っているが、何十頭あるいは百頭単位の手搾りは絶対ありえないことである。
 穀物類を給与すると乳房がまた張るので控えるか、牧草と水のみを給与するか、戸外に放牧しそっと見守ることくらいしか思いつかないのである。ましてやJAができることはほぼ皆無。早く停電が解消してほしいと蛍光灯を見つめるばかりである。電力会社に問い合わせしてはと言ってはみたものの、電話もいつの間にか通じない。
 せめて前日までに搾乳してバルククーラーで冷やされている生乳を集荷できないかと運送業者と打ち合わせを始めたが、乳業工場の受け入れが停電のため不可能とのこと。この日に限って気温が上がり、日中には25℃を超える。前日の夕方搾乳後に一度は4℃以下に冷やされているとはいえ、電源を失ったバルククーラー内の生乳は、徐々に温度は上がり始める。限界は7~8℃。
 昼ごろには停電からすでに9時間は経過している。生乳は生もので栄養価が高いため、環境が整えばあっという間に傷んでしまう。午後2時、停電から11時間後に当組合は組合員の生乳全量廃棄を決断した。この時期毎日270tほどの集荷が6日はゼロとなった。金額では2700万円に上る。生乳の廃棄処理は夜10時ごろまで要した。
 7日朝になっても復旧せず、酪農家はこのままでは「乳牛が壊れてしまう」と地域にある少ない発電機を融通し合いながら搾乳を行っていた。まさに協同組合の相互扶助の精神であり、頭が下がる思いである。午前中には町内でも行政の所在地や病院のある地区は通電し、もうすぐ酪農家の地区も復旧するだろうと期待したが、結局夜9時すぎまでお預けとなった。
 停電が始まってから42時間ぶりに回復したのである。ところが電気が回復ですべて解決とはいかないところが生き物相手の奥深いところだ。ほぼ2日間の停電の影響で搾乳が通常どおりできなかったため、乳房炎を罹患した乳牛が続出したのである。飼料給与の内容も大きく変わったため、乳量もガタ落ちとなってしまった。6日の集荷量ゼロも含め17日までの10日間で当JA管内の生乳生産量の目減りは、1084tとなった。現在の取引価格に換算すれば1億円以上となる。生乳廃棄は北海道全体で20億円以上と報道されている。
 東日本大震災や熊本地震で酪農家が停電や断水で大変な思いをされていたのを新聞等で確認できていたはずだが、結局当JA管内で発電装置を備えていたのは20%以下である。「明日は我が身」、「備えあれば憂いなし」のことわざがあるがその通りである。JAとして酪農家にシグナルを送る機会が、ここ数年で何度もあったが、結果的に手当ができていなかったことは大きな反省材料である。
 当組合の理念に掲げている「組合員の営農と生活を守り、地域社会の発展に貢献する」の一番大事な組合員の生活と営農の維持に関わる根幹のことである。自分に火の粉が飛んで来なければその熱さを理解できないようでは、リスクヘッジなどできるはずがない。北電の対応が適切かどうか検証するとのことだが、エネルギー源を他に依存した時点で自己防衛を考える必要があったのだ。
 北海道東部は、今後の予想では大きな地震が想定されている。今回は停電のみであったが、大きな地震の震源地付近は断水や道路の損壊、建物の倒壊なども同時に発生するため、それらの対応も迫られる。さらには町内の乳牛大小合わせて2万3000頭は、地域産業の根幹として守らなければならない。
 今回の「ブラックアウト」から3週間余りが経過し、酪農業界全般では、少し落ち着きを取り戻してきたが、ほっとはしていられない。大きなダメージを受けたことを教訓として、今後予想されるもっと大きな災害に対応できる体制整備が急務である。

 

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