【森島 賢・正義派の農政論】米中の体制間抗争を煽るな2019年1月7日
新年おめでとうございます。
さて、今年も激しい年になりそうである。世界の政治が大きく変わろうとしている。この激変は、昨年、トランプが中国からの輸入品に対する関税を引き上げたことで始まった。
これは、単純な貿易抗争にとどまらない。米中両国の体制間抗争に続くだろう。
体制間の抗争だから深刻で、容易には解決しないだろう。また2大国の間の抗争だから、世界中に大きな影響を及ぼすに違いない。
日本は米中のはざまで、いったいどんな役割を果たせばいいのか。あいまいな態度は許されない。
トランプの中国への不満は、中国の国営企業や合弁企業に対する政治の介入である。いわゆる知的所有権についての不満もある。これは、中国の経済政策にとどまらず、国家体制に対する不満である。
習近平は、譲ろうとしない。経済に対する政治の支配は、社会主義国家を目指す国家として決して譲れない。また、知的資産の私的所有についてもトランプの考えをそのまま認めるわけにはいかない、と考える。
つまり、これは米中両国の体制間の抗争である。
◇
トランプの考えは、政治は経済に介入すべきではない、というものである。これは、資本主義の基底にある考えである。その現代版が市場に絶対的な信頼をおく市場原理主義である。市場に一切を任せるべきで、政治が介入すべきではない、と考える。
トランプは、これを資本主義国家でない中国に押し付けて市場原理主義を広げ、搾取の場を広げようとしている。
しかし、習近平は拒否する。市場には信頼できないところがある、と考える。その最も先鋭なところが、格差の拡大である。無政府的な市場を信頼していたのでは、格差は解消できない、と考える。だから、政治が経済に介入すべきだ、と考える。これは、社会主義である。
つまり、いまの米中間抗争は、資本主義と社会主義との間の抗争である。新冷戦と名付ける人もいるが、それは、まことに当を得ている。
◇
農政をみてみよう。
米国などの欧米の先進国は、資本主義国といわれるが、農業に、多額の財政資金を投入している。政治が経済の一部門である農業に、深く介入している。
その目的は、農業者と非農業者との間の格差を縮めるためである。農業者に農業を続けてもらい、食糧自給率を高めるためである。そうして、食糧主権を守り、国の独立を保っている。
つまり、欧米の資本主義国の農政は、資本主義からは遥かに遠く、社会主義に極めて近い。
ひるがえって日本をみると、日本は食糧自給率が38%しかないのに、政治は平然としている。危機感は全くない。資本主義の優等生のような顔をして、市場原理主義のもとで、安倍一強の官邸農政が横行している。自由経済の名のもとで、昨年末にはTPP11を発効させたし、来月には日欧EPAを発効させる。また、日米FTA交渉を今月から本格的に始める。そうして、日本の食糧自給率を、さらに引き下げようとしている。
こうした日本の農政は、資本主義に疑問を持っている欧米の資本主義国の多くの人たちの目には、異様に映るだろう。軽蔑の目で見ている人たちは少なくない。
◇
主題に戻ろう。
いまの米中間抗争は、どちらかの片方が屈服して敗退することで決着するのだろうか。そうはならない。
資本主義対社会主義といっても、現実の政治では、それは水と油のように混じり合わない関係ではない。中国は社会主義市場経済と自称している。市場に社会主義的な規制を加える一方で、市場原理の一部を取り入れている。また、米国ではサンダースのような民主社会主義者を自称する人が増えて、資本主義の社会主義的な修正を主張している。
◇
だから、こんどの米中間抗争は、一部のマスコミが煽り立てるように、どちらが覇権を奪うか、などというキナ臭い覇権闘争ではない。どちらの体制が、格差を解消しつつ、より高度な経済発展を果たせるか、どちらがより高度な社会を実現できるか、という争いである。そのための切磋琢磨の機会にすべきである。
◇
知的所有権について、ひとこと言っておこう。
ここには、資本主義的な私有か、社会主義的な公有か、という原理的な争いがある。
米国は、知的資産を私有にし、有償にして、搾取の手段にしている。
中国は公有にして、誰もが無償で使えることにしよう、としている。
いったい、どちらがいいのか。
たとえば、ピタゴラスの定理のような知的資産ができたとき、それを使うたびごとに、ピタゴラスさんに使用料を払うのがいいのか。それとも公共財のように、誰でも無償で使えるのが、科学の進歩にとっていいのか。社会の発展にとっていいのか。
米国で〇〇の定理を教わってきて、中国で勝手に使うことを窃盗の罪にするのがいいのか。
ここにも米中間での妥協の余地は、充分にあるだろう。
キナ臭い覇権闘争などといって、両国を煽ってはならない。
(2019.01.07)
(前回 弱者の戦勝記念日)
(前々回 国会が静かに終わった)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日
-
厚木・世田谷・北海道オホーツクの3キャンパスで収穫祭を開催 東京農大2024年11月22日
-
大気中の窒素を植物に有効利用 バイオスティミュラント「エヌキャッチ」新発売 ファイトクローム2024年11月22日
-
融雪剤・沿岸地域の潮風に高い洗浄効果「MUFB温水洗浄機」網走バスに導入 丸山製作所2024年11月22日
-
農薬散布を効率化 最新ドローンなど無料実演セミナー 九州3会場で開催 セキド2024年11月22日
-
能登半島地震緊急支援募金で中間報告 生産者や支援者が現状を紹介 パルシステム連合会2024年11月22日
-
徳島県産食材をまるごと楽しむ「徳島食の博覧会2024」30日から開催2024年11月22日
-
総供給高と宅配が前年割れ 10月度供給高速報 日本生協連2024年11月22日
-
森林の遮断蒸発 激しい雨の時より多くの雨水を蒸発 森林総合研究所2024年11月22日