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【リレー談話室・JAの現場から】原発事故から8年ー避難先で立派な家庭菜園2019年3月28日

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【茨城大学研究員・JAふくしま未来総代・川又啓蔵】

 東日本大震災と福島第一原発事故の発生から8年目を迎え、農地をはじめ、農業用施設・設備等の「物理的復旧」が進んでいる。一方、昨年末、福島相双復興官民合同チームが原子力災害12市町村における被災農業者を対象に行った調査によると、「(営農)再開済み」と答えたのが25%だったのに対し、「(営農)再開意向なし」との回答が45%、「(営農)再開未定」を合わせると全体の60%に達した。
 全体の6割を占める「営農再開意向なし・未定」について、その回答理由をみると、「高齢化・労働力不足」(78%)、「雇われてまで農業はしない」(86%)、「草刈りや用水路管理など地域共同作業への参加はしない・できない」(65%)、「農地の出し手になる意向あり」(74%)となっている。「歳もとったし、担い手もいない。人に使われてまで農業はしたくないし、故郷に戻らないから草刈りや堀払いには出られない。でも、農地を貸してもいいとは思っている」ということだ。被災地で生活する一人として、実情をリアルに表現している結果であり「事実」だと感じているが、その事実にはどのような「真実」が存在しているのだろうか。
 震災翌年から、筆者は原発事故による避難住民を取材・調査する業務(原発事故被災町からの委託事業)に従事し、これまで、現地訪問面談方式で1000件近く行ってきた。うち半数以上は農家(主業的とは限らない)で、筆者との面談時、ほとんどの方が「営農再開意向なし」と答えており、前記調査と大差のない結果だ。
 この業務を開始した当初、多くの訪問先(避難先住居)は賃貸住宅だったが、ここ数年、その多くは持ち家になっており、よほど敷地が狭小でない限り、庭の一角には必ずといっていいほど「家庭菜園」が存在し、面積は小さくても耕作状態は「プロ仕様」になっている。訪問時は、新築のためカーナビや地図に当該家屋の表示が無いことも珍しくない。
 しかし、分譲地に同じような住宅が並び、表札が出ていなくても、その「立派な畑」が目印となる。また、敷地が狭小あるいはマンションの場合でも、自給目的にもかかわらず近隣に畑を借りるケースも少なくない。これは、集合住宅形式の災害公営住宅でもみられる現象だ。多少極端なことかもしれないが、「営農再開の意向はない」という「事実」には、「農業への意欲は失っていない」という「真実」が存在しているのではないかと感じている。
 これまで面談した人の中には、避難先で営農を再開したため帰還しないと決めた人や、帰還して営農再開を果たした人がいる一方で、前記したような「農業への意欲」が避難生活の中で思わぬポジティブな結果を生んでいることもある。
 例として、都市的な地域の郊外にあり、近年、定年退職した団塊世代の住民が比較的多く生活している住宅地で、同様の現象が複数発生したケースを挙げる。比較的高齢(その団塊世代)の避難者夫婦(かつては兼業農家)は、避難当初、周囲に知り合いもなく、孤独を紛らわすため庭で家庭菜園を始めたことがきっかけで近所づきあいが始まり、今では有志で「畑作サークル」を組織するまでになった。なかには、住宅地周辺の遊休農地を借り受け、生産物を販売した収益が地域活動(自治会活動)の一部原資にまで至ったものもある。
 高齢化や避難先での生活再建、農家の独立経営意識など、さまざまな要因によって被災地での営農再開が困難な状況にあり、風評被害同様その解決には長い道のりを要することは事実だ。しかし、「農業者としてのアイデンティティー」まで消えてしまったわけではないであろう。
 災害における農業の復興を考えたとき、直接的で一義的には「被災地における農業生産の回復と発展」であろうが、被災農業者の全てがそれに参画することは困難ともいえる。そうした農業復興や生産に関わることが難しい被災農業者でも、少子高齢化や環境保全などへの活用が期待される「農業の多面的機能」の分野に、長年、農業で培った経験を生かし活躍できるチャンスはあるのではないか。

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