【森島 賢・正義派の農政論】シラケの参院選2019年6月24日
参院選が1と月後だというのに、選挙の争点が定まらない。
党首討論が19日に行われ、注目されたが、多くの国民はシラケて聞いていたようだ。
党首討論で、野党が大きく取り上げた問題は、2000万円問題、つまり老後に2000万円の貯金がないと普通の暮らしができない、という審議会の報告書についての問題である。
野党の攻撃の焦点は、2000万円ではなく3500万円だ、とか担当大臣が報告書を受け取らなかったことへの批判だった。
だが、国民が聞きたかったことは、2000万円かどうか、ではない。審議会の報告を尊重するかどうか、でもない。そんなことではない。
国民が野党に聞きたかったことは、1と月後の参院選で野党が勝ち、安倍一強政権が瓦解し、野党が政権を奪取したら、いまの政治を、どんな政治に変えるのかである。
2000万円問題についていえば、審議会の有識者が指摘する事実を真正面から見据え、貯金がゼロの経済的弱者たちも、老後に普通の暮らしができるような政治に、野党が改めるのかどうかである。
なぜ野党は、国民の心を揺さぶるような追及ができなかったのか。それは、国民が悲痛な状況のなかで発する悲鳴のような声に耳を傾け、それに基づいていないからである。
その3日前の16日には、香港で200万人のデモがあり国会を取り巻いた。香港の人口は748万人だから、人口の27%が、このデモに参加したことになる。
これと比べて日本はどうか。2000万円問題で、どこかでデモがあったか。報道をみるかぎり、そうしたデモはなかった。
◇
2000万円問題も重要だが、多くの国民は、それよりも緊急で重要な政治課題がある、と考えている。それは何か。野党の幹部たちは分かっていない。分かろうともしない。そうして、国民から遠い国会の中だけで、シラケた議論をしている。
このように、党首討論を聞いていると、参院選を直前にした野党の政権批判が、いかに国民から遊離しているかが、象徴的に分かる。国民から遊離したままで、まばらな観客のなかで、一人芝居をしているようにしか見えない。
このままでは、参院選に勝てないだろう。その結果、弱者たちの苦難が続く。
◇
ここで想起したいのは、10年前の総選挙である。野党の民主党は主な公約として農業者戸別所得補償制度の創設を掲げ、それを選挙の主要な争点にした。それが農村で喝采を浴びて選挙に勝ち、政権を奪取した。
それまでの与党の自民党は、大規模農家だけを農政の対象にしていた。大規模農家だけを「意欲ある農家」とか「農家らしい農家」などといって、手厚く優遇していた。そうして、農家の大多数を占める、兼業農家や高齢農家を冷遇し、侮蔑していた。
これを、野党の民主党が激しく批判した。そうして、「規模の大小を問わず」、また、「年齢の如何を問わず」、食糧自給率の向上に少しでも貢献する農家は、全て農政の対象にするといって、自民党農政を真っ向から否定する新しい農政を公約した。
この政策が、「意欲のない農家」と軽蔑され、また、「農家らしくない農家」と蔑視されていた大多数の農家の熱烈な支持を得て、それが原動力になって、政権交代を果たした。そうして、大多数の農家が、積年の鬱憤を晴らした。
◇
ひるがえって、いまの主要な野党をみると、こうした意気込みがない。政権を奪取しようとする熱気がない。いまの政治を根本的に改めようとする気がない。そうして、一部のマスコミに受けようとして、根なし草のように軽薄な政府批判を、くりかえしている。
これでは、国民を苦しめているいまの政治の何を、野党は批判し改めようとしているのか、国民は理解できない。
いまの主要な野党は、国民に、ことにその大多数を占める弱者に目を向けていないのではないか。私利私略、党利党略だけを考えているのではないか。
それゆえ、つぎの選挙で落選するかもしれないから、内閣不信任案さえ提出できないで、無様に右往左往している。
◇
今からでもおそくない。野党は、弱者を苦しめている現政権を、その根元から批判し、それを改めるには1と月後の参院選で勝ち、現政権を倒すしかないことを、国民に示さねばならない。
そうして、倒した後の現野党の政権が、どんな政治を行うのかを示し、国民に支持を求めねばならない。
(2019.06.24)
(前回 米中体制間抗争のもう1つの争点)
(前々回 立憲党消滅の危機)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日
-
厚木・世田谷・北海道オホーツクの3キャンパスで収穫祭を開催 東京農大2024年11月22日
-
大気中の窒素を植物に有効利用 バイオスティミュラント「エヌキャッチ」新発売 ファイトクローム2024年11月22日
-
融雪剤・沿岸地域の潮風に高い洗浄効果「MUFB温水洗浄機」網走バスに導入 丸山製作所2024年11月22日
-
農薬散布を効率化 最新ドローンなど無料実演セミナー 九州3会場で開催 セキド2024年11月22日
-
能登半島地震緊急支援募金で中間報告 生産者や支援者が現状を紹介 パルシステム連合会2024年11月22日