【森島 賢・正義派の農政論】参院選は農村の1人区が正念場2019年7月16日
参院選の勝敗は、1人区の勝敗で決まる、といわれている。だから4野党は、32ある全ての1人区で統一候補を立てて、与党との一騎打ちの勝負にした。
はたして、うまくいくだろうか。一騎打ちの勝負にしさえすれば勝てるのだろうか。そうはいかない。
4野党が勝つには、そこに国民の魂を揺さぶるような旗印を立てて、必勝の信念で奮闘しなければならない。勝って政権交代の足場を作る、などと迂遠なことを言っていたのではだめだ。参院選に勝ち、その勢いで一気に内閣を倒す、という意気込みがなければだめだ。
1人区の全ては農村部にある。農業者や農村人の魂を揺さぶることができれば、必勝は間違いない。
上の図は、過去10回の参院選で、自民が獲得した議席数を、1人区と、それに複数区、比例区を含めた全選挙区について示したものである。
この図から分かることは、1人区での変動が激しく、それがそのまま全選挙区の変動になっていることである。
これが、参院選の勝敗は1人区の勝敗で決まる、といわれる根拠である。
上の図は、前の図のデータを使い、横軸を1人区での自民の議席獲得率、縦軸を全選挙区での議席獲得率にしたものである。
この図をみると、1人区での自民の議席獲得率が90%を超えたときが、1992年、2001年、2013年の3回あった。そのときの全選挙区での自民の議席獲得率は、50%を超えた。つまり、自民の圧勝だった。
逆に、1人区が20%程度以下のときが、1989年と2007年の2回あって、そのときは、全選挙区では30%程度以下になった。つまり、自民の惨敗だった。
さて、今度はどうなるだろうか。
◇
1人区の結果が全選挙区の結果を左右するということは、1人区が農村部であることを考えるとき、農村が参院選の結果を左右していることを意味する。このことは、同時に、農政公約の重要さを意味する。
しかし、いまの参院選では農政が与野党の対立点になっていない。お座なりの農政公約があるだけで、対立点が鮮明になっていない。
◇
1人区の結果が、全選挙区の結果にとって決定的に重要である状態は、今度の参院選でも続いているだろう。
では、1人区の結果はどうなるか。
ここで重大な影響をもたらすのは、4野党の選挙共闘である。4野党は、全部で32ある1人区のすべてで統一候補を立てた。それが形だけのものになるか、それとも魂が入るか、それが勝敗の分かれ目になる。
4野党の共闘が成功すれば、1989年と2007年のように、自民を惨敗に追い込むことができる。しかし失敗すれば、1992年、2001年、2013年のように自民の圧勝に終わる。
1人区はすべて、農村部にある。そこでの有権者の心を動かすほどに、共闘に魂が入るかどうか。
◇
野党が大勝し、与党が惨敗したときは、野党には農業者戸別所得補償制度を創る、という新鮮で明快な旗印があった。食糧自給率の向上に貢献する農業者なら、経営規模の大小を問わず、年令の如何を問わず、全ての農業者の所得を補償するという農政である。
この公約が、小規模経営を営む兼業農業者や高齢農業者から熱烈に支持された。農業者だけでなく、農村の人たちの心を奮い立たせた。そうして野党が大勝し、政権を奪取した。
野党には、こうした成功体験がある。
◇
いまはどうか。
政権が自民に戻ったあと、兼業農家や高齢農家などの小規模農家を冷遇する農政が復活し、いまも続いている。また、日本の農業を米国に売り渡す交渉をしていて、参院選の選挙中は隠しておくが、選挙が終わった直後に結論を出す、という密約があるようだ。そうなれば、食糧自給率はますます下がる。
こうした今の農政を、野党はどうみているか。農村は今の農政に対する鬱憤で満ち溢れている。
にもかかわらず、野党は与党と同じように、市場原理主義にもとづいて、小規模農家を冷遇する効率一辺倒の農政を是認するのか。また、対米従属を続け、農業を米国に売り渡す農政を容認するのか。
野党は、今の農政に対峙する新鮮な旗印を掲げているか。そして、政権奪取の強い意気込みがあるか。それが、農村の人たち、つまり1人区の人たちの魂を揺さぶっているか。
(2019.07.16)
(前回 ■ 梶井さんを偲ぶ ■)
(前々回 G20は お祭りだ)
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