【森島 賢・正義派の農政論】万年野党からの脱出2019年7月29日
こんどの参院選の比例区での得票数をみると、与党は2425万票で、野党の2582万票よりも少なかった。これは、日本の政治状況を考える上で、最も基礎的で、最も重要な数字である。
この数字は、投票した国民の半数以上の人たちの、安倍晋三政権に対する不信任を意味している。つまり、政権交代の要求である。
この数字は、表層からは見難いが、日本の政治の深層にある重大な潮流を忠実に表現している。しかし、ここに注目する評論は、ほとんどない。
表層にある当選した人数だけをみると、たしかに野党は半数以下だった。つまり、野党が敗けた。
しかし、深層をみると、野党の支持者のほうが、与党の支持者よりも多かったのだから、野党が勝っていた。
つまり、野党が負けたのは、国民から見放されたからではない。選挙戦略に失敗したからである。
だからといって、見過ごせるような軽微なことではない。失敗の結果、野党は過半数の国民の要求を裏切ったのである。そうして、独裁的な安倍一強政治を続けさせることになった。野党の責任は重い。
どこに、その責任があるか。誰が、その責任を負うべきか。

この表は、こんどの参院選の結果のうち、比例区での政党別の得票数である。5007万人の国民の投票結果である。せいぜい十数万人を対象にした出口調査の結果とは、正確さがまるで違う。もしも誤りがあれば、選挙のやり直しになる、という重大な数字である。
この表で指摘したいことは、野党の得票数のほうが、与党の得票数よりも多かった、という厳粛な事実である。
◇
さて、選挙直後のことだが、野党の党首たちは、わが党は議席を増やした、と誇らしげに語っていた。それを聞いた多くの人たちは、違和感をもっただろう。
いったい、何のための選挙だったのか。自分の党だけが勝てば良かったのか。他の野党は、敗けても良かったのか。そうではないだろう。
他の野党と協力して与党を半数割れにし、安倍政権を窮地に追い込み、衆議院を解散させて、自分たちの政府を作ろうとしたのではなかったか。そうした国民の要求に応えるための選挙ではなかったのか。
しかし、それが出来なかった。その責任は、自分にはないと言いたいのか。
これでは、党利党略のための選挙、己利己略のための選挙だった、と言われてもしかたがない。そうして、過半数の国民を裏切った。
◇
問題は単純である。野党は過半数の国民の支持を得たのに、半数以下の議席しか得られなかったのである。これは、まぎれもなく野党の選挙戦略の失敗である。
野党の幹部たちは、政策の基本理念が違う政党とは協力できない、という。潔癖といえば聞こえはいいが、そうではない。党利党略、己利己略をむき出しにした考えである。
これと比べて与党はどうか。与党は、したたかである。自民は自衛隊を普通の軍隊に格上げしようとしている。だが、公明は平和の党、と公言している。つまり、自民と公明とでは、基本政策がまるで違う。水と油の関係にある。
しかし、この2つの党が協力しあっている。もちろん、選挙でも万全な体制をとって、協力しあっている。そして、選挙で勝ち続けている。
つまり、政策の基本理念は違っているが、当面する政策で共通する政策を確かめ合って協力している。そうして、国民の半数以下の支持しかないのに、国会では多数派を占めて、政権を握り続けている。
こうした与党を手本にして、野党も協力体制を作ればいいのだ。そうして、過半数の国民の要求に応えればいい。政党は思想団体でもないし、宗教団体でもない。具体的な政策を実現するための、政治団体なのだ。
◇
では、野党はなぜ与党のような協力体制を手本にできないのか。
それは、野党が、ことに幹部たちが、国民をないがしろにして、党利党略、己利己略に走っているからである。つまり、自分の党だけが安泰ならいい、自分だけが幹部として居座り続けられればいい、と考えているからである。
こうした幹部が野党を牛耳っているかぎり、いまの野党は、万年野党と揶揄され続けるだろう。それは、揶揄というだけでなく、弱者の非難である。
そこから脱出するには、過半数の国民、ことに弱者の支持があるのだから、その立場に立って、現場で日夜奮闘している党員たちが決起するしかないだろう。
そうすれば、安倍政権を倒したいが、それに代わる野党らしい野党がない、という野党に対する否定的な評価は、影をひそめるだろう。
そうして、いまや与党の得票率が半数を割るような、国民と政党との間のねじれた政治状況が、正常に戻るだろう。そうなれば、健全な民主主義が回復する。
また、そうなれば、政治への信頼が回復し、史上2番目に低い投票率、というみじめな政治状況から脱出でき、良質な民主主義が復活するだろう。
過半数の国民は、それを期待している。
(2019.07.29)
(前回 野党の弛緩した選挙協力)
(前々回 参院選は農村の1人区が正念場)
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