【森島 賢・正義派の農政論】農業の可能性を摘み取る政治2020年1月27日
農業は衰退産業だ、とする俗説がある。長い目で見れば、そうかもしれない。
歴史をみると、生産力が高まるにつれて、生存のための食糧を生産する時間を減らし、それ以外の生活を楽しむための物やサービスを生産する時間を増やせるようになった。
そうなると、経済活動の中に占める農業生産の割合は小さくなる。つまり、農業は衰退産業になる、という訳である。まことに、もっともらしい説である。これは誰もが逆らえない歴史法則だという。だが、そうだろうか。
いまの日本のばあい、そうではない。農業の衰退の主な原因は、このことではない。それは、食糧自給率が37%にまで下がったからである。
では、なぜ37%にまで下がったのか。それは歴史法則でもないし、自然現象でもない。人為が原因である。つまり、政治が原因である。下がったのではなく、下げたのである。
食糧自給率が37%にまで下がり、その結果、農業が衰退した原因は、農産物の輸入自由化政策である。
もしも、農産物の輸入自由化を止める政策を採れば、どうなるか。
いまの食糧自給率は37%だから、国民が必要とする100%の食糧を生産するには、いまの生産量を2.7(100÷37)倍にしなければならない。農業の前途は洋々と開けている。
日本農業には、それだけの可能性がある。その可能性を奪っているのは、農産物の輸入自由化政策である。つまり、政治である。農業が衰退することは、歴史法則だ、などと誤魔化してはならない。そんな俗説に惑わされてはならない。
◇
食糧自給率が37%などと低い国は、日本以外の主要国には、どこにもない。だから、日本は世界中から嘲笑されている。日本は、やがて来ると予想される地球規模の食糧危機のときに、どう対処するのか。そうなったとき、日本が、食べ物を売って下さい、と物乞いのように哀願しても、売ってくれる国は、どこにもない。
地球規模の食糧危機になれば、世界の各国は食糧の輸出を禁止するに違いない。国内で食糧が不足しているのに、国内の食糧を外国に売って儲けようとするのは悪徳である。だから、それを禁止するのは、政治として当然なことである。
そうならないように、各国は国民が必要とするだけの食べ物を得られるようにしている。そのために、食糧の国内自給を、政治の最重要課題にしている。そして、その責任を、農業者に委ねている。
だが、日本の農業者は、その責任を果たしていない。政治が妨害しているから、責任を果たせないのである。つまり、農産物の輸入自由化政策である。
◇
日本の政治が、農産物の輸入自由化政策を止め、心を入れ替えて、世界の普通の国のように、国民が必要とする食糧を自国で生産する政策を採るとどうなるか。
耕作放棄地を再び利用して増産するしかない。そこへ都市部にいる人たちに戻ってもらい、農業生産をしてもらうしかない。そうすれば、耕作放棄地を抱える農村は、再び活気を取り戻すだろう。農業者は、この政策を待ち望んでいる。
また、そうなれば、都市部が労働者不足になる。それを解消するには、賃金を上げるしかない。だから、この政策は、都市部の労働者の支持も得られるだろう。
◇
何故、このような政治を行わないのか。農業者や労働者などの弱者に支持される政策を行わないのか。
それは同義反復だが、強者のための政治を行っているからである。
それは、政府と与党だけではない。多くの野党も、この点では同じ穴の狢である。彼らが貿易を語るときには、必ず「自由貿易に賛成だが...」と枕ことばのように言う。そう言って踏み絵を踏むようにして強者に媚を売る。そうして、弱者からは顰蹙を買う。
国民の大多数である弱者の支持を得たいのなら、猛省して、食糧自給率の向上による、前途洋々たる日本農業の可能性の実現を、農政の基本に据えることである。
(2020.01.27)
(前回 野党の離合集散劇は見飽きた)
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