米:農業倉庫火災盗難予防月間2019
【現地ルポ・JA新みやぎ 栗っこ地区本部南部倉庫】消費者と実需者ニーズにスピード感を持って対応2019年11月20日
農業倉庫火災盗難予防月間スタート(令和元年11月15日~令和2年1月31日)
近年、中食・外食向けなど業務用向けの米の需要量が増加し、実需者のニーズに応えた米の生産・販売の取り組みが求められている。実需者が必要な時に必要な量と需要に応じた品質の国産米を安定的に供給していくことが不可欠であり、カントリーエレベーター、ライスセンターなど大型乾燥調製貯蔵施設とともに農業倉庫の役割がますます重要になっている。
JA全農と公益財団法人農業倉庫基金は、施設の重要性に鑑み、毎年11月15日から翌年の1月31日までを「農業倉庫火災盗難予防月間」として防火・防犯意識を高めることや、JAでの保管管理体制の再点検などを徹底するよう呼びかけている。
今回、予防月間の運動にあわせて、全国有数の米産地である宮城県のJA新みやぎ栗っこ地区本部の「南部倉庫」を取材した。
南部倉庫全景
取材の直前、10月12日から13日にかけて台風19号が関東地方や甲信地方、東北地方などで記録的な大雨をもたらし甚大な被害が発生した。南部倉庫に直接の被害はなかったものの、倉庫敷地前の道路に水と土砂が押し寄せたという。
また、JA新みやぎ管内では、台風19号の豪雨で吉田川の堤防が決壊し、組合員と地域住民が甚大な被害を受け、避難生活を余儀なくされた人も多い。栗っこ地区管内だけでも2600haの浸水被害が発生し、瀬峰支店が浸水し営業休止になったほか、みどりの地区管内の涌谷支店でもATMが浸水する被害が生じた。
改めて、被災された方々にお見舞いを申し上げるとともに、一日も早い復旧を心から願っています。
◆担い手が高評価 フレコン化でコスト削減
清潔感がある南部倉庫の荷捌き場。奥には受入ホッパーや均質化装置などがある。
受け入れた玄米はフレコン袋に封入してから、左の扉の中にある低温倉庫に保管する。右に見えるのがレーザーセンサー付き電動フォークリフト
JA新みやぎは、令和元年7月1日に、宮城県北部の5つのJA(みどりの・栗っこ・南三陸・あさひな・いわでやま)が合併して誕生した。合併後は地域の特色や組合員の意思を事業運営に反映させるため、地区本部制をとっている。
南部倉庫は、栗っこ地区本部管内にあり、旧JA栗っこが「米の品質向上物流合理化施設」として平成28年度に国の産地パワーアップ事業の補助金を活用して整備した低温倉庫で、29年度から稼働している。設備は、「米の品質向上」のための「均質化装置」や「物流合理化」のための「ラック保管装置」を設置した。
施設内には25t/時の処理能力の「均質化装置」がある。宮城県では米の均質化が一般的に行われており、農家や法人から南部倉庫に、フレコン、紙袋、樹脂の通い袋の3タイプで入ってくる玄米をすべてバラで荷受けし、荷受ホッパーに投入する。ただし、南部倉庫では、より高い均質性を確保する観点から、品質が一定基準以下の玄米は受け入れておらず、荷受け時に担当者が丹念に品質を確認している。
他の施設と異なり南部倉庫の荷受ホッパーは、地下ピットではなく地上部に設置(ピットレス)している。これは、原料投入時の異物混入や、地下の湿気による品質の劣化防止と衛生管理を徹底するためだ。
集荷した玄米は、粗選機で異物を除去したのちに計量し、4本の玄米タンクに投入される。タンクの下には機械的に排出量を調整できるロータリーバブル方式を採用し、品質の均一化を図っている。その後石抜機で異物を除去し均質化装置で混合調製し、施設内ですべてフレコン袋に封入してから保管する。紙袋保管は精米原料として指定された管内地区から集荷した一部だけである。なお、庫内の温度・湿度や穀温は毎日「管理日誌」に記録して適正な管理を行っている。
栗っこ地区本部の栗っこ営農部の菅原盛昭部長は、この施設は「農家が安心して出荷できる施設であり、担い手はフレコンによるバラ出荷が可能となり、新たにフレコン用の計量機を設置する必要がなく、設備投資の圧縮と作業効率の軽減につながっている」と話す。
なお、南部倉庫は、主要品種「ひとめぼれ」のみを受け入れているので、コンタミのおそれがない。それ以外の品種の米は周辺にある別の施設が受け入れている。
南部倉庫は、敷地面積9876.70平方m、建物面積4800.02平方mの施設で、収容能力は、低温倉庫2室とラック保管装置付き低温倉庫1室の合計3室で8万5000俵。ラック保管装置には、A列からO列までの15間口×25奥行き×4段のシャトルラックがあり、パレットに載せた1tのフレコンを1500袋収容できる。ラック保管は、フレコンを直接重ねることがないので期間が長期になっても圧着による品質低下が生じることはない。また、玄米の先入れ先出しが可能となり、製品のトレースができるよう個体ごとにバーコード管理され収納効率が向上し、消費者と実需者のニーズにスピード感を持って対応できる。
左・4段のラック保管装置は1tのフレコンを1500袋収容できる。右・低温倉庫の室内。防湿のビニールシートを敷いた上にパレットを置き、フレコン袋に封入した玄米を積んでいる
◆まず職員の意識改革 精米HACCP認定取得の職場風土
また旧JA栗っこでは、平成29年度の産地パワーアップ事業(生産支援事業)を活用したリースで精米設備を併設し30年度から稼働している。荷受けから精米、精選工程で流下式選別機、石抜機、フルカラー光選別機、金属探知機などの選別機で異物除去を徹底している。空気の流れや作業動線にも配慮し、衛生的な環境で製品を製造するため施設と機器をレイアウトしている。
旧JA栗っこは、精米も一般の食品と同様の衛生管理が求められるため、安全安心の担保や販路拡大を目指す上で、HACCP手法による製品の生産は不可欠だと考え、平成31年3月末に精米HACCP工場の認定を取得した。
精米HACCPは、工程を文書化したマニュアルを作成して、重要管理点を管理、監視し、安全な精米の製品化を図る取り組みだ。認定には「まず働く人の意識改革がポイントとなる」と三浦栄課長はいう。施設全体を統括する事業所長のほか、管理業務の3人、精米専属の2人の計5人が取り組みを進める中で、安全性に対する意識や5S(整理・整頓・清掃・清潔・習慣)の意識が向上したことで、認定の取得ができた。「HACCPの取組みは当たり前のことを日々積重ねることが重要で、そのことで働く人の意識も変わる。その結果、品質管理の徹底や製品に対する誇り、製品ロスの減少に伴う利益確保につながる。お客さんがついてくるのは取り組みが定着してからだ」と三浦課長は確信している。
HACCPの認定は「精米エリア」が対象だが審査の対象は、同じ建屋内の「倉庫エリア」も一体とされ、5Sが徹底されているかなどのチェックがなされた。このため南部倉庫の施設全体で要所に清掃用具置き場を設けるなど清掃が行き届いている。また、南部倉庫では、作業員も含めて毎朝、「総指揮者」がリードし、その日のスケジュールはもちろん安全安心の徹底と衛生管理に関するミーティングを行い情報の共有を図っている。
栗っこ営農部の菅原盛昭部長(右)と三浦栄課長
◆ ◇
最後に火災盗難への備えについて記しておこう。施設周辺の水道本管の管径が小さいことから、独自に井戸を掘って消火用水を確保し、防火水槽も設置している。消防署との連携を図りつつ火災に備えている。なお、南部倉庫の施設内は全面禁煙で喫煙場所は設置していない。
また、防犯対策としては、敷地内に出入りする車の車番を記録するほか、警備会社に委託し夜間の機械警備を行っている。パトライトを設置するなど、不審者の侵入防止の措置も講じている。
【特集:農業倉庫火災予防月間2019】
・農業倉庫火災盗難予防月間にあたって【公益財団法人農業倉庫基金理事長 長瀬仁人】(19.11.20)
・火災盗難予防対策の確認を【JA全農米穀生産集荷対策部】(19.11.20)
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