【現場から振り返る2018年】JAいわて花巻・阿部勝昭組合長に聞く 総自由化急ピッチ 災害も続発(1)2018年12月25日
・自給力強化と国民理解が重要
・さらなる市場開放を懸念
・手を緩めず水田守る
TPP11が12月30日に発効して日本は新年を迎える。2018年はTPP11協定に加え、年末の臨時国会で日EU・EPA協定も批准、さらに9月の日米首脳会談で来年1月から日米物品貿易交渉(TAG)の開始に合意した。いずれも日本の農業、農村への影響が懸念され、わが国の食と農はかつてない国際化、グローバル化に巻き込まれる。2018年は、後にどのような年と評価されることになるのか。一方、国内では今年も自然災害が続発し農村部に被害をもたらした。農産物生産にも大きな打撃を与え、生産基盤の弱体化が懸念される。今回は「現場から振り返る2018年」として岩手県のJAいわて花巻の阿部勝昭組合長に聞いた。
◆さらなる市場開放を懸念
―岩手の農村の現場から見て2018年はどんな出来事が印象に残りますか。
やはり12月30日発効するTPP11と12月8日に国会が承認した日EU・EPA協定です。年末ぎりぎりになって2018年はさらなる市場開放の幕開けの年になったということだと思います。
TPP11については捉えどころのないまま、日本人全体があまり関心のないなかで決まってしまったような感じがします。日EU・EPAも議論が深まったとは思えません。EUから本格的に乳製品が輸入されるようになれば、中小の酪農家への打撃が心配です。メガファームもありますが、日本の生乳は小さな酪農家が底辺を支えています。その底辺が崩れることにならないか。TPP合意で政府は総合的なTPP関連対策大綱を決めるなど対応したわけですが、そのときの議論を忘れずにきちんと対応する必要があると思います。
同時に8月に発表された食料自給率は38%でした。食料の海外依存がさらに進んでいるというなかで、市場開放がまた進むということになりかねません。
各地で自然災害が頻発した年でもありました。温暖化の影響と言われていますが、異常気象や自然災害は当たり前になってきたと感じますが、農産物の国内供給が不安定になっていることが心配されます。
夏に東京の大田市場に出向きましたが、いつもなら青果物の段ボールが高く積み上がって行き交う買参人など関係者の姿は隠れてしまうほどなのに、段ボールの高さが低く顔が見えました。実際のところは分かりませんが、いつもより品薄だという印象を受け、やはり国内の供給が不安定になっているのではないかと思いました。
ただ、高単価にはなりましたから生産者の手取りは比較的良かったということにはなりますが、販売店は品薄になって棚が空くのは困るので棚を埋めるために輸入に頼ります。野菜の輸入量が最高になっているとの報道がありましたが、市場開放がさらに進みそうなか、産地の生産力を上げる努力が問われていると改めて感じています。
(写真)JAいわて花巻・阿部勝昭組合長
◆手を緩めず水田守る
―30年産は米政策見直しの初年度でした。米の主産県として、改めて何が問題だと考えますか。
昭和45年からの米の生産調整が見直されたということですが、現場の農家にとっては戸別所得補償制度で導入された米に対する直接交付金が完全に廃止されたということで、やはり米づくりのモチベーションは下がっているという感じです。一方で生産数量目標というタガははずされたので、作り過ぎになって対応が難しいかもしれないと思っていましたが、実際は、今以上にいい米をしっかり作っていこう、と農家に声をかけていくことが大事だと分かりました。われわれのJAについていえば、需要先ときちんと結びつきはあり生産の継続が求められています。とくに中山間地域で生産を続けていくことが必要です。
自然災害が多発していますが、日本の国土は急峻で水田や畑を保全することが国土保全につながる。そういう地域で生産が行われなくなれば国土保全も心もとない状態になります。ただ、生産のモチベーションをどう高めるか。手を緩めれば担い手はいなくなる。法人化や作業受委託など支援していますが。東北では平場でも担い手確保は厳しい。
政策要求として現場で思うのは産地づくり交付金をもっと自由に使えるように工夫できないかということです。水田の持つ国土保全機能を発揮できるようその土地、その土地に合わせた品目作付けの支援に使えるようにしてほしい。
日EU・EPAではワインの輸入関税が撤廃されヨーロッパワインの輸入が増えることが予想されますが、これを機に逆に日本からの農産物輸出を、と叫ばれます。そのために日本酒の輸出には力を入れるべきだと思います。ただし、国内の水田でしっかり原料米を作付けをしていく。それが水田機能を維持し、国土保全にもつながっていくんだ、という考え方で進める必要があると思います。
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