【座談会・今年の動向を振り返る】日本の農業協同組合の活力ある内発的発展へ(3)2018年12月28日
【座談会 出席者】
・全国農協中央会副会長 金原 壽秀 氏
・新世紀JA研究会特別相談役 名誉代表 萬代 宣雄 氏
・参議院議員(自民党参議院幹事長) 吉田 博美 氏
・司会=東京農業大学名誉教授 白石 正彦 氏
◆中国の購買力が脅威
金原 その通りです。非常時には農産物の直売所が大きな役割を果たすことになるでしょう。ただ、銀行やガソリンスタンドが引き揚げ、コミュニティが崩壊したところでは、そうはいきません。地域のありようで農協の対応も違ってきます。いま農協はなにをやらなければならないかについて、全中で事例集をつくっています。そのなかから拾って、自分の地域、農協に合うタイプを探し、実施していただきたい。
38%の食料自給率は本当に怖い。38%しかないという現実と、隣は経済大国だということを認識すべきです。佐賀牛を食べに、香港を中心に佐賀牛レストランへ年間2万5000人も来ます。これが自由な貿易になったら、はたして日本人が十分食えるだけの食料が確保できるのでしょうか。外国で天変地異があって食料輸入ができなくなった時どうするのか。こういう事態を視野に入れて、しっかり食料を確保する食料安保を考えなくてはなりません。
(写真)新世紀JA研究会特別相談役 名誉代表 萬代 宣雄 氏
◆安心できる農業政策
萬代 本年度から肉用和牛飼育については経営安定対策による価格保障制度(牛マルキン)が確立されました。このようにして農家が安心して取り組める環境づくりが大事です。農家が一番心配しているのは、将来とも安心して農業で食えるのかということです。
例えば、今のところ転作作物として飼料用米の主旨に賛同して耕作面積が増えています。ところが作付面積の増加による助成金増に対し、財務省などから横槍が入ろうとしています。これらについても安心して取り組めるよう法制化を願うものです。
いつまで交付金が続くか分からないのでは、安心して飼料用米をつくることはできません。
吉田 政策が次々変わるのではなく、基本は安定した収入をどうしたら得られるか、農政でしっかりフォローしなければなりません。
萬代 専業農家をめざす農家には、それぞれ地域にあった営農の形、基準をつくって、その人が専業できる環境をつくることが大事です。
吉田 私の地元は中山間地で、農業の規模拡大をしようと思ってもできません。しかし、そういう人たちが地域を守り、水資源を守っているのです。特に中山間地の水田はダムの機能を果たしています。それをお金に換算すると大変な額になります。国民のくらしや国土の保全に大きな貢献している農業・農村を守ることは大切なことです。
白石 1993年に導入された認定農業者制度は、生涯にわたって他産業並みの労働時間で、同等の所得が得られるようにするのが目的です。それなのに今は何人確保できたかという数字だけが一人歩きしています。認定農業者を日本の持続的農業のためどのように位置付け、拡充するのかを議論するべきです。
金原 最近、九州の雨はまるで熱帯のスコールです。そのために様々な災害が多発しています。米は単に経済作物ではありません。治山治水の歴史そのものです。規制改革推進会議の理論からすると、山の中の田んぼを守ることは犯罪に近いかも知れませんが、棚田は、1本でも木が生えるとやがて崩落します。インフラの修復のため、税金を使って整備しなくてはなりません。棚田を守ることとインフラ整備どちらがいいのかと聞きたいものです。
白石 日本の水田は小農民が弥生時代から営々と管理してきたものです。
金原 農業のあるところは治水ができています。それがないと中山間地はとんでもないことになります。いい例が山林政策です。戦後、スギやヒノキを山頂まで植えましたが、材木の輸入自由化で手入れが行われなくなり、荒れ放題です。植えた人が悪いのか、国策で植林を勧め自由化した政府が悪いのか、どちらの責任か、問いたいです。材木が容易に切り出せるところを整備すれば、林業をやりたいという人も出てきます。ちゃんと論理が成り立つ政策であってほしい。
白石 JAはいま大変重要で、難しいところにあります。来年3月にはJA全国大会、10月から公認会計士監査に移行、さらに2021年4月以降に、准組合員の利用規制について、そのあり方を検討するという5年後条項が控え、協同組合原則からの逸脱回避が大きな課題です。
金原 JAは地域を支えることと事業で健全経営を実現する。この2つを果たさなければなりません。農協をとりまく環境もずいぶん変わってきました。JAのこれまでの歴史を総括し、新たなステージへ向かって自己改革に取り組んでいます。その努力を政府や規制改革推進会議がどこまで認めるか。こちらが十分やっていると言っても、「まだまだ」と言われたらどうしようもありません。振興議連の先生方に今の改革を正当に評価していただき、支援を期待したい。われわれJAグループも広報やメディアに対し、全国連でも県域でも懸命にPRをやっています。国民の理解を求めて、これからもいろいろやっていくしかありません。
萬代 島根県のような田舎では、点々と光っている農作物はありますが、それを輸出産業にするというわけには、なかなかいきません。基本的には農協が地域での使命を果たし、地域で頑張ることが大事だと考えています。これからの農政は、熱心に前向きに取り組むと何とか農業で食べていけるという世界を実現していただきたい。マルキンのような仕組みを水稲でもできないものか。飼料用米など、食べていける環境をつくっていただきたい。
重要な記事
最新の記事
-
【提言】農業をもう一度基幹産業に(2) 武道家・思想家 内田樹氏【2025新年特集】2025年1月16日
-
鳥インフルエンザ 千葉で国内29例目 殺処分対象約489万羽に2025年1月16日
-
能登半島地震 農林水産被害 3658億円 東日本大震災に次ぐ額2025年1月16日
-
鳥インフル 米ジョージア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月16日
-
鳥インフル 英アンガス州など2州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月16日
-
ドイツ産偶蹄類由来製品等 輸入を一時停止 農水省2025年1月16日
-
ある「老人」のこの春【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第324回2025年1月16日
-
市場価格は「ないと高いがあると安い」【花づくりの現場から 宇田明】第51回2025年1月16日
-
大学生が調査、体験もとに地域づくりを提案 JA共済連の寄附講座でシンポ2025年1月16日
-
王秋梨、あたご梨を台湾で販促 シャリ感と甘み好評 全農とっとり2025年1月16日
-
米の裏作に秋冬ねぎ 無選別出荷で手間軽く JAくまがや2025年1月16日
-
栃木県産いちご「とちあいか」試食イベント 東京スカイツリータウンで開催 JA全農とちぎ2025年1月16日
-
「冬土用未の日フェア」直営飲食店舗で17日から開催 JA全農2025年1月16日
-
石井食品『地域と旬』シリーズ 三浦と東近江の野菜使ったハンバーグ発売2025年1月16日
-
「いちごフェア」期間限定で3種類のケーキが登場 カフェコムサ2025年1月16日
-
ロングセラー精米機「ミルモア」新モデル発売 サタケ― 精米品質・生産性・操作性を追求した新モデル発売 ―2025年1月16日
-
水稲用殺菌剤「リガ―ド」剤 新規登録 クミアイ化学工業2025年1月16日
-
謎解きしないと食べられない 岡山県産いちご「晴苺」フェア開催 岡山県2025年1月16日
-
東邦ガス 根域制限栽培によるシャインマスカット生産を支援 日本農業2025年1月16日
-
地域活性化農業・観光・教育 新たな発電所づくりへ クラファン開始 生活クラブ2025年1月16日