JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
あるべき姿の設計を 国民・地域的課題視点に【元食糧庁長官・弁護士 高木 賢 氏】2017年6月30日
◆全中についての基本的スタンス
農林水産省在職中、JA全中とはさまざまな局面で論議を繰り広げた。時には愉快でない経験もしたが、農政推進に当たっての重要なパートナーであったと思っている。
今日、JA全中は一般社団法人化という事態に遭遇している。私は、農業界のナショナルセンターであり農政のパートナーともいうべき、JA全中の存在意義を十分認める者である。社団法人化しても、JA全中には果たすべき役割を自主的に果たしてもらいたいと思っている。これが私の基本的なスタンスである。
◆「特別民間法人」と「一般社団法人」の法的枠組み
「特別民間法人」は、その設立根拠を個別の法律に置き、法律に規定された特別の役割を果たすべき法人として位置づけられているものである。他の例としては農林中央金庫や日本商工会議所がある。現在のJA全中は、農協法にその根拠規定がおかれ、事業、会員、設立認可、行政庁の監督等の規定が設けられている。
「一般社団法人」は、一般社団法人および一般財団法人に関する法律に根拠を置き、設立自由(認可は不要で設立登記によって成立)で、名称、事業内容等は定款において自由に当事者が決定するものである(「定款自治」)。
◆改正法により一般社団法人全中にはめられているタガ
一般社団法人は自由な設立・管理を特徴とする法人であるが、農協法の改正内容を見ると、一般社団法人全中にはタガがはめられている。改正内容は、現在の特別民間法人JA全中の解散と一般社団法人全中の設立という手順を要せず、「組織変更計画」の総会決議により、一般社団法人全中になることができるというものであるが(附則22条1項)、同時に、一般社団法人全中は、(1)社員である組合の意見を代表すること、(2)社員である組合相互間の総合調整を行うこと、をしなければならないこと、「主たる目的」とすることを内容とするものでなければならないとの規定がある(同条3項)。
現在の農協法においては、目的は「組合の健全な発展を図ること」と規定されており、かなり幅広い。なお、一般社団法人の場合、「事業」については、「目的」の条項の中に狭義の目的とともに事業内容が書かれるのが一般的である。
この規定は、一般社団法人全中がJAグループの意見の代表者であり、JAの中の総合調整者であるという存在意義を法的に明確にしたものという評価をすることができる。一方、それ以上のことはやるなとタガがはめられたとも言える。しかし、これは「目的」に関する規定であり、「事業」を定めたものではない。
◆正当な手続き踏んで
(1)一般社団法人全中が、ナショナルセンターの役割を果たしていくべきことは全く疑いがない。同種のものでいえば、全漁連、全森連、日本生協連があり、全国中小企業団体中央会がある。農業の発展を図る上で国政や他の全国団体とのかかわりが不可避である以上、ナショナルセンターの存在は、農業界にとっても農政の側にとっても、必要不可欠なものである。経験上も、全農林と並んで緊張感の源泉であった。ナショナルセンターとしての具体的内容の設計をしていく必要がある。
(2)しかし注意すべき点がある。附則22条3項において、JA全中の主目的が「組合の意見を代表すること」および「組合相互間の総合調整」とされていることである。これらの規定には押し付け的・能動的なものを禁ずる趣旨が含まれているように解されることである。いちゃもんをつけられないよう、デュープロセス(正当な手続き)を踏む必要がある。
(3)一方、一般社団法人としては、事業、会員、管理等については、法律上何らの縛りはない。定款自治の下で、定款の中にどのように規定していくか。また現実問題としては、事業規模(人員規模)と経費調達をどうするかの問題が大きいと思われる。
(4)以上述べた法的枠組みの下で、一般社団法人全中のあるべき姿をどう描き、設計していくか。「期待」は、第三者から見たあるべき姿でもある。
期待の第一は、ナショナルセンターとしての機能の発揮であるが、私としては、一般社団法人全中への「期待」という視点から、突飛かもしれないが、個人としていくつか「期待」に関する提案してみたい。
(ア)国民生活の安定と今日の地域的諸課題への対応の視点を含め、「食料・農業・農村」を事業範囲とすることを明確に打ち出したらどうか。基本法もあり、JAの範囲外ということはない。これは単協の事業との関連もあり、単純にはいかないが、定款上はっきり打ち出したらどうか。
(イ)意見のとりまとめや総合調整に当たっての大前提として、情報関係事業を中核的事業として位置づけたらどうか。
(ウ)食料関係の連携強化のため、組合以外の会員または准会員として、一定の要件をクリアした生協などの消費者代表を認めることとしたらどうか。
◆ ◇
いずれにしても、一般社団法人全中のあるべき姿については、「大所高所的視点」と「実務的視点」の双方からの突っ込んだ検討が必要である。そして、それをいかに定款や組織構成の中に定式化して書き込むか。この際、災い転じて福となすべく、農協人の知恵と度胸の発揮が求められている。
※高木賢氏の「高」の字は正式には異体字です。
※このページは新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日