JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
共済の強みはメンバー制 メリット実感できる組織に【農水省経営局協同組織課長 日向彰氏】2017年9月27日
規制改革会議の「農業改革に関する意見」(平成26年5月)では「単協は全共連の統括の下で窓口・代理業を実施し、契約に基づいた業務に応じた報酬を得る」とあります。その後、与党のとりまとめで代理店化は削られましたが、共済事業展開の環境が厳しくなるなか、政府の基本姿勢は変わっていないと考えるべきです。新世紀JA研究会の第10回の課題別セミナーで討議した「JA共済事業の代理店化の是非を問う」における農水省の報告と協議内容を紹介します。
◆黒字継続の保証ない
ここ数年、私はTPPやEUとのEPA交渉などについての国内対策を担当してきました。畜産のマルキン、加工原料乳、園芸(野菜・果樹)、コメの備蓄対策などです。今後とも関税は、上がることはなく下がって行きますので、それに対応した強い農業、競争力のある農業をつくっていくことが農業対策の基本になります。予算についても、単年度だけでなく、数年にわたって使えるような工夫もしてありますので、是非活用して下さい。
直近では、小泉進次郎前農林部会長のもと、肥料・農薬・エサ、段ボールなどの生産資材の引き下げに全力で取り組んできました。まず全農改革についてですが、全農は肥料で50%、農薬40%、エサ30%、販売30%のシェアをもつ大きな存在ですが、取り組みの基本は1円でも安く資材を調達して供給していくことにつきます。いうまでもなく、農協は農業者の農業者による農業者のための組織ですから、そのことによる農業所得の最大化が目的になります。
これまで役所も、農業生産資材の引き下げや、ましてや流通加工分野については何も手を打ってきませんでした。今回の農業競争力強化支援法については、こうした分野や、とりわけメーカー・工場の稼働率向上のための集約・効率生産体制の確立にまで踏み込んでいます。全農も新しい体制のもと、数値に基づく年次計画、中・長期計画の実現に取り組まれていますが、われわれとしてもしっかりバックアップしていきたいと思っていますし、農協も農業者に対して安く資材が提供できるよう選択肢の幅を広げていってもらいたいと思います。
それから、農水省では、生産価格引き下げの一環として、ネット(ホームページ)で「まる見えアグリ」を開設し、生産資材についてどこから一番安く購入できるかの検索ができるようにしました。すでに利用者が増えつつありますが、活用頂けたらと思います。
次に農協改革については、すでに34の農協について優良事例を紹介しています。多くの農協ではすばらしい取り組みをされています。半面でそのような優良農協のためにも、不祥事件を起こすような農協には厳しく対処していきます。
信用・共済事業については、多くの農協がその収益で営農経済事業の赤字を補填しています(一方、全国平均で2割、北海道では6割の農協で営農経済事業が黒字)。マイナス金利のもと、信用組合・信用金庫などでも経営状況は極めて厳しくなっています。農協でもこのまま信用・共済事業の黒字を続けていける保証はありません。農協の目的は農業者の育成・強化にあるので信用・共済事業の収益に依存する体質を改め、経済事業でも黒字が出せる体質に転換してもらいたいと思っています。
それから、担い手農業者1万人に対して行った農協の事業活動に関するアンケート調査でも、農協の皆さんは7~8割が営農経済事業にしっかり取り組んでいると答えていますが、残念ながら肝心の農業者からは3割程度の評価しか受けていません。この差をどう縮めていくかが課題です。
農協は農業者・農家がメリットを実感できる組織でなければなりません。農協は協同組合ですから、メンバーが事業を利用することで利益を得る組織であり、株式会社と違います。この点、農協はメンバーのニーズを把握することが容易にできますので、農業者・農家が農協に何を求めているのかをしっかり把握していくことが重要であり、そのことで一般の会社に対して優位性を発揮できると思います。
(写真)農水省経営局協同組織課長 日向 彰氏
◆10年で35%の減収に
本題の共済事業についてですが、農協共済については、農協と全共連が共同元受けで生・損保を兼営し、大手保険会社並みの大きな契約高を持っています。しかし、平成10年に比べて共済保有高は3割減少し、付加収入も年々減少してきています。そうした中で共済部門の職員数は横ばいで、全職員に占める割合はやや増加しています。共済事業の利益は安定してきているものの、10年で35%減少しています。
農協共済事業の規制については、それまでの指導中心の監督行政から、平成16年に保険会社と同等のものが法定化されました。内容は、ディスクロージャーの義務化・罰則導入、利用者への重要事項説明の義務化、共済金等支払い能力の基準(ソルベンシー・マージン比率)による経営の健全性判断、監督官庁による早期是正措置の導入等で、これにより、アメリカ等からの共済の特別扱いの批判に対応してきています。
この結果、農協共済と保険会社では、セーフティネットについて保険会社が契約者保護機構を持っていることや農協の法人税率が低いなどについて違いはあるものの、健全性の確保や契約者保護などについて同等の規制内容になっています。
また、全共連が抱えるリスクに関して、(1)資産運用リスクについては、積み立て型の長期商品(生命共済・建物更生共済)の比率が高く、市中金利の低下が経営に大きく影響すること、生命分野だけでなく損害分野でも積み立て型の商品(建物更生共済)を主力としている結果、生命保険会社に比べてその影響が深く、かつ長期に及んでいます。さらに、(2)地震保険リスクについては、全共連が保有する地震保障の保有契約高は約70兆円で、民間損保会社32社の地震保障の保険契約高の約半分を全共連が保有していること、民間損保会社は、政府の地震再保険制度によって自らの負担は低く抑えられるが、全共連は地震再保険スキームに入っていないので自ら負担する必要があることです(この点、全共連の子会社である共栄火災(株)は、地震保険制度の対象となっておりその活用が課題となっています)。
さらに、農協の共済事業を取り巻く環境変化としては、(1)人口減少と少子高齢化、なかでも農村部においてその影響が深刻であること、(2)長期積み立て型の商品を主力とする国内生保は低金利の影響で運用益が減少すること、(3)甚大な被害をもたらす南海トラフ地震が今後30年以内に70%の確率で発生が予想されることなど自然災害リスクの高まり、(4)あらゆるものがインターネットにつながるIoT技術の進展と、車・家・ライフスタイルがつながることによる保険商品(保険料)が変わっていく可能性、(5)自動運転技術の開発による影響(個人契約の保険市場での大幅縮小の可能性)、(6)保険会社は国内の人口が減少するなか、収益確保のため海外進出をはかっているが、農協共済は限界があること(すでに、東京海上は事業利益の半分を海外に依存している)などがあり、これらの環境変化に対応した事業展開が求められています。
◆事務負担軽減早急に
最後に農協改革について、平成26年6月の政府取りまとめでは、共済事業も農林中金や信連と同様に、「農協出資の株式会社への転換を可能とする方向」を検討するとなっていましたが、平成28年4月1日施行の改正農協法では、株式会社化は中長期の課題とされ盛り込まれませんでした。
一方で、「単位農協の共済事業は全共連との共同元受けとなっており、リスクは全共連のみが負っているが、全共連は単位農協の共済事業の事務負担を軽くするような改善策を早急に示すものとする」となっており、本セミナーの解題でもこのことに触れられていますが、この内容は記述の通りであり、それ以上でもそれ以下のものでもありません。
※このページは新世紀JA研究会の責任で編集しています。
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