JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
【覚醒】合併JAの憂鬱2017年10月18日
◆経営自立のJAへ
JA合併は、これまでJAが行ってきた唯一の経営政策といってもよいものでした。JA合併は行政の平成合併に先駆けて行われ、1980年代はじめに4000あったJAは今では650になりました。では、なぜ合併は関係者が一丸となって、かくも激しく進められてきたのでしょうか。
それは、第1には単位JAの力を盤石にして、JA運動の生命線である組合員の協同活動の基盤を確保することでした。小規模JAではヒト・モノ・カネの経営資源の確保が難しく、協同活動の場の確保には一定の経営規模が必要との判断からでした。
もう一つの合併の目的は、従来の系統3段階制を見直し、JA―連合会という2段階制によって組織全体の効率的な運営を目指そうというものでした。そして忘れてはならないもう一つの理由は、合併によってJAが総合JAの姿を堅持して行こうとするものでした。小規模JAでは独自の事業力が弱く、全国連の支店・代理店になりかねないという懸念があったからです。
ところが今の合併JAの姿はどうでしょうか。確かにJAは規模拡大によってヒト・モノ・カネの経営基盤が強化され、経営的には所期の目的が達成されたように思います。しかしその内実はどのようなものでしょうか。
一般的に言って、組織は規模が大きくなるにつれて組織の維持そのものが目的になってきます。また同時に組織の官僚化が進んでいきます。JAもその例外ではありません。合併で、合併前のJAの個性は失われ、せっかくの優れた合併前のJAのよい面が組織に埋没しているように思えます。
合併JAの執行部は多くの場合、組織維持優先が強いられ、合併前のJAの意見の調整に腐心し、事業はひたすらタテ割りが進められてきているのが実情ではないでしょうか。こうした合併JAの運営の矛盾、あいまいさが一気に噴出してきたのが、今回の信用事業代理店化の問題のように思われます。
農水省の奥原次官は、JAは合併など進める必要はない、小規模であってもJAは営農・経済事業に専念できる体制をつくるべきで、信用・共済事業などは一刻も早く農林中金や全共連を本店とし、単位JAを支店・代理店とする体制を構築すべきと主張しています。
JAは多様な事業を行っていますが、大きく分ければ営農・販売活動と生活(主に信用・共済事業)・購買活動に大別されます。前者は農家組合員の所得を向上するために、後者は農業農家の所得を獲得する手段、もしくは獲得した所得を有効活用するために行われます。そして営農・販売活動はJAが事業の起点になるのに対して、生活・購買活動は取り扱い規模優先の原理が働き、連合組織が起点になるという特性を持っています。
このように考えると、次官の主張は極めて明快であり、一面で誠に合理的なものと考えることができます。こうした事情を反映してからか、この問題に多くの学者研究者の皆さんは沈黙を守っていますし、ともすればこうした考えを容認する人もいます。
そして何より、当のJAの運営自体がリスク管理など面倒なことは連合組織に任せておけばよいとばかりにJAの事業権限を連合組織に移譲していっている実情があります。この事業の典型が、バブル崩壊後の困難な時期にJA経営を支えてきた共済事業です。多くのJAの役職員は、もはやJA共済事業は連合会の代理店になっていると認識さえしています。
こうした合併JAのタテ割り経営の原因は、合併JAの運営のあり方が研究されていないことにあります。一時期、JA合併が進められた当初にはJA全中から「大規模農協運営の手引き」が出され、大規模JAの運営のあり方に関心が寄せられたことがありましたが、内容の複雑さも手伝って今ではほとんど検討が深められていません。
2012年5月の第26回JA全国大会組織協議案では、「支店を核に、組合員・地域の課題に向き合う協同」が主題として掲げられ、支所・支店を拠点として「JA地域くらし戦略」に取り組むとされました。ここで提起された問題の本質は、本格的な合併JAの集中分権型の経営とは何か、その必要性を問うものでしたが、現実には、「1支店1協同活動」などという矮小化されたものに終わってしましました。
中根千枝氏が「タテ社会の人間関係」で指摘するように、日本社会はタコ壺型のタテ割り社会であり、一方で総合大学、総合病院、総合商社など総合が好きな国民性であるにもかかわらず、現実的にはタテ割り運営が貫徹される傾向にあります。したがって、総合JAたるJAだけがタテ割り傾斜の経営を行っているわけではありません。
今回の農協改革は反協同組合、反総合JA、企業農家育成という明確な意図のもとに競争原理一辺倒な考えで進められているのは言うまでもないことですが、一方で地域に根差した農業協同組合として、いかにJAらしい運営を行っていけばいいかの根本問題を提起しているものでもあります。
これまでJAは、2001(平成13)年の法改正でその存立目的が農業振興と明定されたにもかかわらず、産業組合の残滓を引きずる農協法10条の総合事業の規定で職能組合と地域組合のはざまでよいとこ取りの運営を行ってきました。いま求められているのは、農業振興のための新時代を拓く総合事業のあり方と、そのもとでの協同組合らしい経営のあり方です。その課題は今のJAの保守的な運営感覚からすればとてつもなく大きな課題といえるでしょう。
信用事業の代理店化はJAの自主判断であり、その道を選択しなければ何も問題はないなどという認識がJAにありますが、それはあまりにも安易に過ぎます。公認会計士監査への移行など、総合JA解体の地雷装置の設置はすでに完了しており、地雷原を踏まないで前進できるのは自立経営を実現したJAのみ可能であると考えるべきです。中央会制度の廃止によって制度としてのJAはすでに存在根拠を失っていることを肝に銘ずべきです。
※このページは新世紀JA研究会の責任で編集しています。
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