JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
大澤農水省経営局長が講演 改革は地域の特性生かして 2017年11月16日
新世紀JA研究会(代表=八木岡努・JA水戸組合長)が11月9、10日、宮城県仙台市で開いた第23回セミナーで、農水省経営局の大澤誠局長が「変化する環境の中で農協に期待すること」で基調講演を行った。特にJAの自己改革について、信用・共済事業の将来リスクを踏まえた対応の必要性を強調。農協への期待として、(1)多様な農業・農村に対応した農協のあり方、(2)新たな事業モデルの確立、(3)事業再構築による経営体質の確立、(4)コンプライアンス撲滅―などを挙げた。講演内容の要旨を紹介する。
【大澤誠・農水省経営局長の講演(要旨)】
いま、農業・農協に何が起きているのかを考えると、第1には高齢化で年齢構成が変わり、離農、准組合員が増え、地域全体の合意が取りにくくなったことです。このため農協の運営も難しくなりました。従来のシステムを支えていた前提が変化しつつあるのです。
そのため生産者と消費者の間が遠くなりました。ネット販売が普及していますが、まだ絶対的な数字とは言えません。だが過去には想像つかないことがさまざま出ています。
◆消費ニーズつかめ
農協の共販が足り立ったのは、作れば何でも売れた高度経済成長時代のこと。いまは消費者ニーズを細かくつかまないと、売れる物も売れません。そして今は人口減少です。これは消費が減るだけでなく、モノをつくり、運搬する部門にも影響が出ています。また、農業リタイアが増えて経営規模を拡大しても、労働力として雇う人がいなくなります。
そして信用・共済を巡る情勢の変化です。金利下落と運用益の減少、農村部の人口減少、技術面ではフィンテックの導入等、将来のリスクへの備えが必要です。メガバンクでも店舗縮小の動き、また農協の共済に関しては再保険に入っていない大地震のリスク、そして信用事業では「バーゼル規制」の強化が予想されます。
そうした情勢の中で、農協は同質的な多数の農家をまとめるという従来のやり方を続けることができるのか、また従来のモデルが不要になることはなくても、「困った時頼み」「いいとこ取り」によって農協の機能が低下する恐れはないか、個人的にはそれが心配しています。
農協は農業者が、農協を利用することでメリットを受けるために設立した協同組織です。
従って主役は農業者です。しかし、いま農業者も消費者との関係もだいぶ変わりました。変わってきた農業者のため、どのようなサービスができるかが、一番大事なところであり、それが農協の自己改革だと思います。
(写真)大澤農水省経営局長
◆消費者と関係性を
自己改革で願いたいことは、組織の変更ではなく、農業者と消費者の関係の中で農協がどのような関係を築くかが重要です。いま各地でいい動きが一杯出ています。各種のアンケート調査でも、農協に対してポジティブな評価が出ています。その場合、いい評価が100%でなくてもいいのです。それが増えていることが大事です。
購買事業についても、農協は、ニーズのあるものの銘柄を集約して一括受注、入札、自己取り、いろいろ工夫して価格下げており、全農も同じ方向に進んでいると思います。今年の10月には一般高度化成肥料で入札を実施しました。
販売事業も米の全量買い取り販売で目標を定めて段階的に拡大するなど、適切なリスクをとりながら、取り組んでいます。いつ、何を売るかを共有して、多様な消費者のニーズに応える事が大事で、それは同時に多様な生産者のニーズに応えることでもあるのです。
次に農産物の輸出ですが、JAグループ全体で取り組むことで、主力のビジネスモデルになるのではないかと思います。とにかく輸出は日本全体を売り出さなくてはなりません。そうでないと国内産地の安売り競争になってしまう可能性がありあます。それぞれの地域の旬のものを組み合わせ、JAがタッグを組んで、ジャパンブランドで周年供給できるようにすることです。政府も力入れています。
◆10年、20年先踏まえ
政府の農協改革では、農協の生活インフラとしての性格を認めたうえで、員外利用等の制約なく、事業が発展できるよう、組織のあり方について、さまざまなオプションを認めています。大事なことは、時代変化に対応して10年、20年先も生きていけるかということです。それには自己改革のなかで信用、共済事業の将来リスクに対応が必要です。
最後に、農協ごとに期待される将来像がいろいろあると思います。ただ地域の状況が違うと、答えが違います。政府は画一的な答えを出したり、押しつけたりしません。農家に迷惑をかけないように、改革されたな、という姿を組合員にどうみせるかが大事です。
現状の農家のニーズに合っているか、いいとこ取りされて組合員から不満が出ていないか、いろんな農家のタイプに応じたサービス、それに向けたは事業の再構築を進めていただきたい。
最後に、心配ごとですが、それはコンプライアンスです。特に食品を扱う農協です。あつかう品物も多く、表示などに注意してほしい。農水省としては、おかしなことがあれば厳格に対応します。変わる農村、農業者組合員の現実のなかで、農業者に迷惑をかけないよう、改革に取り組んでいただきたい。
◆准組合員の利用規制は白紙
なお、准組合員の利用規制については、今はまったく白紙です。これまで調査マニュアルを検討してきて、そろそろ本調査に入る必要があると思っていますが、農協でも議論し、農協のなかで、位置付けをはっきりさせ、こういう役目があるのだから、調査の結果をこうみるのだというようにすることが大切だと思います。
※このページは新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
(関連記事)
・総合JAの将来ビジョンを 新世紀JA研究会がセミナーで確認(17.11.13)
重要な記事
最新の記事
-
【令和6年度 鳥インフルエンザまとめ】2025年1月22日
-
【特殊報】チャ、植木類、果樹類にチュウゴクアミガサハゴロモ 農業被害を初めて確認 東京都2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(1)どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(2) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(3) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(4) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
禍禍(まがまが)しいMAGA【小松泰信・地方の眼力】2025年1月22日
-
鳥インフル 英イースト・サセックス州など4州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】消費者巻き込み前進を JAぎふ組合長 岩佐哲司氏2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】米も「三方よし」精神で JAグリーン近江組合長 大林 茂松氏2025年1月22日
-
京都府産食材にこだわった新メニュー、みのりカフェ京都ポルタ店がリニューアル JA全農京都2025年1月22日
-
ポンカンの出荷が最盛を迎える JA本渡五和2025年1月22日
-
【地域を診る】地域再生は資金循環策が筋 新たな発想での世代間、産業間の共同 京都橘大学教授 岡田知弘氏2025年1月22日
-
「全日本卓球選手権大会」開幕「ニッポンの食」で応援 JA全農2025年1月22日
-
焼き芋ブームの火付け役・茨城県行方市で初の「焼き芋サミット」2025年1月22日
-
農のあるくらし日野のエリアマネジメント「令和6年度現地研修会」開催2025年1月22日
-
1月の「ショートケーキの日」岐阜県産いちご「華かがり」登場 カフェコムサ2025年1月22日
-
「知識を育て、未来を耕す」自社メディア『そだてる。』運用開始 唐沢農機サービス2025年1月22日
-
「埼玉県農商工連携フェア」2月5日に開催 埼玉県2025年1月22日
-
「エネルギー基本計画」案で政府へ意見 省エネと再エネで脱炭素加速を パルシステム連合会2025年1月22日