JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
監査に耐える体制を 通用しない前例踏襲【井上雅彦・有限責任監査法人トーマツJA支援室】2018年1月11日
平成27年10月にスタートした「新総合JAビジョン確立のための危機突破・課題別セミナー」は、昨年12月のセミナーで14回目となり、「農協改革はどこまで進んだか」のテーマで、これまでの報告、意見交換をまとめた中間総括を行いました。監査法人からみた単位JAの改革への取り組み状況について有限責任監査法人トーマツJA支援室の井上雅彦氏が報告します。
平成28年4月1日の改正農協法施行から1年半が経過しました。改正農協法施行を受けた農協の自己改革の意義や、なすべきことを再確認するとともに、すでに取り組みを進めておられるJAの事例を参考に、ここまでの総括と今後の対応の方向性を共有することが必要です。
◆農協改革を取り巻く環境の理解
農業協同組合は総合事業を営んでいますが、総合事業は地域、農業のために不可欠であり、また、ビジネスモデルとしても優れた仕組みです。
信用事業の将来は極めて厳しい環境に晒されています。未曽有の低金利の継続、組合員の継続的減少に伴う一層の競争激化、フィンテック等の金融技術革新の一層の進展、バーゼル規制等の規制強化など、これまでの延長線上で対応していてはとても競争に勝てず、従前のような収益を確保し続けることはできないと思われます。
一方、総合事業の特性、シナジーを活かし、有効な打ち手を実践することで組合員のさらなる信頼を得て「攻めの総合事業」を推し進めれば、地域の競合に対して競争優位に立てる極めて有効で実効性のあるビジネスモデルとなっていくことが期待されます。
自己改革とは、農業協同組合として、外から言われなくても当然に完遂すべき取り組みであり同時に総合事業を守る戦いでもあります。改正農協法には、取り組み方を間違えれば総合事業解体にもつながりかねない「公認会計士監査の導入」と「准組合員利用規制の在り方についての継続的な調査・検討の実施」が組み込まれています。農協改革推進期間が終わる平成31年5月が一つの区切りとなり、この段階での「自己改革の成果」「経済事業の収支改善の成果」等が政府や政治が今後の展開を見定める試金石となる可能性があります。つまり、それまでに組合員アンケートにおいて、農協の価値を再認識したうえで農協の必要性を反映していただく取り組みを行うことが極めて重要です。
そのためには、組合員の所得向上等に資する具体的な数値目標を定め、当該目標を達成するために必要な施策を打ち、施策実施に向け必要な経営資源を確実に投入することが最低限必要です。役職員がこうした思いや前提を共有し、目標達成に向けた強い自覚と意思を持ち、時間軸を強く意識しながら実践していくしかありません。
前例踏襲でのんびり構えていては、結果が出る前に時間切れとなるでしょう。やるべきことは多いです。「守り」のための経営基盤の強化、「攻め」のための経営管理の高度化、さらに組合員の所得向上等のための具体的な打ち手の実行などを、スピード感をもって実行する必要があります。平成31年5月を一つの区切りとして、系統グループは役職員一丸となって全力を投じて成果を挙げていただきたいです。
◆経営基盤の強化
公認会計士監査への対応は、「守り」のための「経営基盤の強化」の最たるものであり、公認会計士監査に耐えられる体制をつくれないから、信用事業を譲渡せざるをえない状況を生まないようにすることが肝要です。
前述のとおり、現段階で公認会計士監査への対応準備が完了し、組合員の声にこたえるための活動に経営資源が向けられていることが望ましい状況です。しかしながら、公認会計士監査への対応準備は、平均的なJAでも来秋までかかると見ており、全国的に遅れが出ている状況と言えます。系統をあげて対応のスピードアップを図ることが必要ですが、具体的には3つのテーマがあります。
1つ目は、会計処理の根拠の整備です。昨今の会計は、さまざまな判断を行ったうえで会計処理をするわけですが、公認会計士に説明するに足る判断の根拠の明確化は、その整備の必要性の周知も乏しく、全国的に進んでいない印象です。
2つ目に、経済事業の内部統制の運用・整備です。指導機関のリードもあり、内部統制の文書化は進んでいますが、まだ現場への落とし込みや定着が途上である認識です。各JAで本店がリードして、現場への展開を早期に進める必要があります。
3つ目はIT対応です。特にJA自らが管理しているシステムが、公認会計士監査の対象になる場合には、JA自らがシステムの管理態勢を構築する必要があり、この対応には時間を要します。対象になるかどうかの判定をしていないJAがあるようであれば、早急に判定をするべきです。
(写真)農水省経営局長らと意見交換する新世紀JA研究会の役員ら(昨年12月14日、農水省局長室で)
◆経営管理の高度化
総合事業を守るためには「守り」だけでなく「攻め」の一手を打ち、「農協は必要だ」と組合員から認められなければなりません。
そのためには、まず道標として組合員の期待を汲み取ったJAらしい中期経営計画を策定することが必要です。右肩下がりの事業環境下では、「前例踏襲」「組合都合」の中期経営計画ではこれまでと同様の事業総利益を確保できません。将来から「逆算」し「組合員の声」を反映した中期経営計画でなければ、組合員から期待され、利用されることはありません。
また、中期経営計画を実現できる組織体制がないと中期経営計画は絵に描いた餅になってしまいます。そこで3つのテーマから組織体制を見直すことが必要です。
1つ目は人事制度の再構築です。中期経営計画を実現するために行動し、成果を上げた職員を評価しなければ誰も中期経営計画を実現しようとしません。
2つ目は、適正要員配置です。「戦略」「財務」「業務」の観点から要員配置を決定することで人件費削減はもちろん中期経営計画を実現する要員配置が可能になります。
3つ目は、拠点統廃合です。「拠点のあるべき姿」と「拠点整備基準」を策定することで組合員に対して説明可能な拠点統廃合を実現し、結果、中期経営計画を実現する拠点配置が可能になります。
◆打ち手の実行
経営管理の高度化とともに農業所得向上のためバリューチェーンごとに具体的に打ち手を実行することも必要です。流通・販売分野では、国内外を問わず農商工連携・産地間連携を進め販売先を確保しています。生産分野では、農家台帳の整備により組合全体として経営指導の仕組みをつくる、また、在庫管理の強化や相見積りの取得により生産資材等の価格低減をすることで減りゆく生産を維持しています。
先進的に取り組むJAではこのような取り組みが進められています。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
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