JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
格差・富の集中が加速【山本伸司・パルシステム連合会顧問】2018年2月12日
・日本の種子を守る会幹事長
・競争の価値観に限界
・協同の社会へビジョン共有
主要農作物種子法(種子法)が今年4月から廃止になります。国会でほとんど審議されず、報道もされず、いとも簡単に葬り去られた法律だが、これまでコメ・麦・大豆の主要穀物の在来種を国が管理し、各自治体に原種・原原種の維持、優良品種の開発を義務付けてきました。これが廃止されることは、日本の農業ひいてはJAの農業振興にも大きな影響が生じる。新世紀JA研究会は、第14回課題別セミナーでこの問題を取り上げた。3者の報告の要旨を紹介します。
私たちは経済と社会の大きな変化の中で生きています。いつも暮らしの中で急速な変化に翻弄されながら実感していますが、その要因をどう捉えるのかが大切だと思います。新聞やテレビの論調に流されず自分たちの事業や運動の中から捉えることが必要です。私は生協運動の中で感じていることを述べて見たいと思います。
経済ではやはり巨大企業の動きが変化をリードしています。その中でも世界の多国籍企業が問題です。代表的にはフォーチューン・グローバル500社。この中で本社のある米国で法人税を払っている企業は3割以下です。実態として71兆円もの純利益で1.6兆円(約2%)しか払わない。これはその国のインフラ(土地、エネルギー、水などと教育等)を使用していながらほとんど社会的貢献をしていないということです。
ところが巨大な資金と情報力を使って社会的影響力を行使し、議会へのロビー活動などで国の法体系などの制度設計には大きな関与をしているのです。その企業利益のために国が利用されるという逆転が生じているようです。本来国民のためにある法制度が大企業の利益のために従属させられている。そうわかってみると日本に本社があるからといって国民を豊かにできないということがわかってきます。種子法廃止はその一つです。
またその企業で働く人への賃金の割合を示す労働分配率も、実は1980年代より下がり、一人当たり実質賃金も低下していることがわかります。資本金1億円以下の中小企業は労働分配率80%ですが、10億円以上の大企業は60%と20%も低いことがわかります。またその企業で働く人一人当たり実質賃金も低下していることがわかります。つまり企業は巨大化し多国籍企業になるほど国や人々の富と幸せに貢献していない。それどころかますますその格差と富の集中に加速が付いてきているということです。
このことは日本の協同組合の創設者賀川豊彦が1936年にアメリカのロチェスター大学で講演し出版された「Brotherhood Economics」日本語訳「友愛の経済学」で、「今日の貧困は、富の偏在による」社会の構造の問題としてきたことなのです。現在はもっと問題が大きくなってきています。このように株式会社システムと金融システムの持つ競争と富の集中が拡大暴走することで社会や人々の暮らしを破壊する危機が迫っていると思います。
◆ 協同組合の使命とビジョン
社会の変化は世界を覆うのですが、これまでの企業の成長と発展が世の中を良くするといった事実は無いこと、むしろこうした資本主義の仕組みと競争の価値観が限界にきていることが明らかとなっています。この経済社会の仕組みを変革しうるか、未来への夢と希望を若者たちが持ちうるのかということが問われています。
こうした未来は協同の実現に可能性があります。この理念(哲学)が無いと協同とは名ばかりでほとんど株式会社と変わらない事業体に転落することもあります。理念とビジョンに真の「協同の価値」を据えること。その上で巨大資本の多国籍企業と対抗して、地域社会や人々の暮らしを守っていく。そうして世界を、自然と共生した戦争のない心豊かな暮らしに変えていけるかが問われています。
この理念の根本は自然に学ぶ農の哲学と、身体を生命体として学ぶ食の哲学こそがポイントになると考えています。それは現在の最先端の生命科学が解き明かそうとしていることです。例えば土壌の世界。これまでの土の成分分析を超えて、土壌とは細菌などの微生物の多様な働きによる有機物体で生きた構築物であることです。
ただの岩石細片の塊ではなく生命体。そこに植物は根圏と呼ばれる世界を構築し根の内外で微生物と共生して育っていくといいます。不思議ですごい世界が最先端の遺伝子解析技術で判明しています。人間に必要な栄養素と微量ミネラルを人は植物を通して土壌からいただくのですが、その根本に微生物の働きがあることは驚異的です。生命の連鎖なのです。
◇ ◇
人体も今までの常識を覆す発見が相次いでいます。放映されたNHKスペシャル「人体」で脳中心でない各臓器間の相互司令のネットワークや細胞自身の意志のような姿が映し出されています。骨すらも長生きの司令塔だといいます。このように自然と人の真の姿の解明によって人々の世界観や価値観が転換していかざるをえません。これまでのお金さえ手に入ればという価値観が、自然と生命こそが絶対という価値観に変わっていかざるをえない。
お金や利益、競争、増加、スピード効率、頭脳優先、肉体労働の軽視、といった考え方が、手仕事や働くこと、農業、自然、おたがいさま、もったいない、弱いことは強い、共に生きるといった協同の価値観に変わっていくのです。鋭敏な若者たちはすでにそうした動きになってきています。
これからの近未来は協同こそがキーワードになっていきます。シェアすること。共に生きること。この思想を実践していくために協同組合が専門性と垣根を超えて多様性と許容力と融通性を高めていくことを課題としたいと思います。英米の民主主義が非営利組織の多様な参加によってもたらされているように、日本では協同組合こそが地域で多様性と創造性、そして総合性を獲得し10年先、100年先のビジョンをつくり、共有したいと願っています。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
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