JAの活動:いま伝えておきたい-私の農協運動-
【床爪 晋・JA世田谷目黒相談役】相続対策で都市農地守る(1)2018年12月14日
JA世田谷目黒は典型的な都市農協で、正組合員の大半を土地(農地)持ち〝富裕層〟が占める。同農協はこの農地と農業を守るため課税・相続相談などの活動で、全国の活動を牽引してきた。床爪晋氏は一貫してこの、都市農業ならではの課税・相続問題に取り組んできた。同氏は「大都市だけの問題ではない」と、農協として全国レベルで取り組むことの重要性を強調する。
一貫して農家の資産を管理
◆"争族"をなくすこと
――JA世田谷目黒は大都市にありながら、農地を守る活動に力を入れておられます。
農協は高額の土地でダイコンを作っている東京の世田谷区と目黒区を管轄しています。大都市で農業を継続するために一番大事なことは農地の固定資産税と相続です。その対策が農協の任務です。これは都市計画法の改正から始まった宅地並み課税からです。
世田谷区は昭和48年、全国で最初にその対象になったところです。当時1反(10㌃)30万円の固定資産税がかかりました。標準の農業所得が30万、40万円だったころです。困った組合員が相談にきました。それがきっかけで宅地並み課税反対の運動が始まりました。
私は農協の指導課長に任命された時は、プロ級の農家が多かったなかで農協の営農指導はほとんど頼りにされていませんでしたが、篤農家を訪ねて回るなかで聞かれたのは、将来とも安心して農業できるように農地など資産管理の対策をしっかりやってほしいということでした。
その要望を受け、宅地並み課税の軽減、生産緑地制度の導入、相続税の納税猶予などを国に働きかけ、ある程度成果を挙げてきました。特に宅地並み課税に関してはその後、長期営農継続制度ができ、ほっとしましたが、その制度が平成3年に切れると同時に、生産緑地制度が30年継続に変更されました。また相続税の納税猶予も20年から終身になりました。つまり命と引き換えにこの制度に乗るかどうかという選択でした。
そうした取り組みの中で、農協の存在価値は農業や家の財産を次世代にどうつなぐかということだということが分かってきました。「田分け」(細かく分割相続すること)を避け、一生農業を続けることが農家の望みです。その後、農地の貸借が認められましたが、これは農業をやりたくなかったら他人に貸して賃借料をとってもいいよということでした。これでは不動産屋と同じで、財務省から、営農継続のための納税猶予は必要ないと言われかねません。基本は自分で営農することであり、歳をとったり、疾病で農作業が出来なくなったりしたら、やむをえず貸すという仕組みでないと、先人が苦労して勝ち取ったことが水の泡になってしまいます。
――JA世田谷目黒は、地域でどのような役割を果たしてきましたか。
管内では農業だけで食べている人はいません。生産緑地で野菜などをつくっていますが、不動産収入で農業を継続しているのが実情です。しかし農地は残すべきだという考えは浸透しています。農協は環境の国際基準であるISO14001を取得しています。農協の経営理念である「組合員とともに農地・緑地を残し、環境保全に努める」に沿ったものです。
いまもっとも重要なことは相続人の争いをなくすことで、日ごろから対応を考えておく必要があります。その相談に応じることができるのは農協です。銀行などは、資産をいかに運用して儲けるかを考えるだけですが、農協の対応は異なります。
組合員のためにどうやったら一番いいかをアドバイスしながら、一緒に考えることが基本です。次世代に対して「おれに万が一何かあったら農協へ相談するように」と言われるようにすることだと思っています。
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