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JAの活動:いま伝えておきたい-私の農協運動-

【床爪 晋・JA世田谷目黒相談役】相続対策で都市農地守る(2)2018年12月14日

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◆相続税は事前に対応

 ――相続で重要なことは何ですか。

 

 相続と相続税をイコールで考えている人がいますが、土地と家屋などの資産の名義を変更することが相続で、これは誰にも発生します。一方、基礎控除をオーバーすると税金がかかるのが相続税です。従って相続対策は、それが発生した後やるべきことを事前にやる。これに尽きます。最初に遺言書があるかどうか、そして相続人は誰か、資産がどこにどれだけあるか、その評価はいくらかを確認することです。それで初めて相続の話ができるのです。これができて初めて節税対策ができるのです。
 それは公正証書遺言を書くことです。それがあれば当人が亡くなってから10か月以内にやるべきことが楽々とできます。また土地に関して、たとえ価値が無くても相続には名義変更が必要です。境界の確定は大変です。大都市では1平方㍍でなんぼの世界です。兄弟に分けるとしても、ちゃんと測量し、その結果を遺言に明記していないと分けられません。隣地境界がマンションだと、入居者全員の印鑑が必要です。住んでいる人がいればいいが、賃貸にしたり、地方に住んでいたりする人もあり、印鑑をもらうのに何年もかかることも珍しくありません。

 

 ――地方ではそこまで問題になっていないように思いますが。

 

 それは間違いです。相続の問題は地方では関係ないという人もいますが、今日、相続対象となる遺産5000万円以下で、70%が"争族" になると言われています。最近、地方でも相続についての組合員の相談が増えており、地方の農協から講演の依頼が増えています。
 相続相談でつきあいのできた農協とは友好組合の協定を結び、研修のため職員を受け入れていますが、遺言書の書き方など相続への対応は実際にやらないと理解できません。このため半年くらいの研修に必要なアパートを用意し、経費を負担しています。これは相続が早くから問題になった都市圏の農協の役割であり、同じ組合としての「協同」だと思っています。
 協同組合の繋がりは農産物を売った、買ったという関係だけではありません。友好協定の農協の農産物を買い取り、手数料なしで、農産物のフェアを開き、販売しています。逆に都市圏で大きな災害があったときには支援してもらうこともできます。こうした内容のあるつながりが重要ではないでしょうか。
 また、農産物の固定の直売所はありませんが、窓口金融担当が年に何回か「○○フェア」を開いたり、管内の組合員に地方の農産物などを販売したりしています。その意味で資産サポート事業は自転車のハブ(スポークが取り付けられている回転体)のようなものです。こうした地味な活動を続ける事が貯金や共済に繋がっていくのです。

【床爪 晋・JA世田谷目黒相談役】相続対策で都市農地守る(写真)女性部の総会であいさつする床爪氏

 

◆勝ち取った生産緑地

 ――これまで農協との関わりと、そこから得たことは。

 

 東京に生まれて、最初、信用金庫に就職しましたが、妻の父親が農協の監事だったことから、農協で働かないかと誘われました。
 当時、新都市計画法で固定資産税の宅地並み課税が問題になっており、その担当になりましたが、篤農家が懸命に議員らと交渉していたのを見て、農政活動がどういうものかを学びました。その中では、単に陳情するだけではなく、農水省の幹部職員や議員など、交渉相手と真摯に話すことが大事だと感じました。
 都市計画に関しても、政府は何を目的としているか、腹を割って話さないと本当のところが分かりません。当時、新都市計画法の本音は宅地が欲しいということでした。農水省も当時「都市に農地は要らない」と言っていました。しかし、農家には先祖伝来の農地を守るのだという心意気があり、議員も理解してくれました。
 生産緑地は、われわれの運動の成果だったと思います。生産緑地は公共用地の先行取得がうたわれています。国交省がディベロッパーに安易に買われないようにするためであり、その後、緑地法の中に農地も含まれるようになりました。これも運動の成果です。われわれは相手の出方をみて対策を立てる必要があります。その基本は、組合員のためにどうかということです。
 JAグループは地域の活性化を重要課題の一つとしていますが、都市農協の貢献は緑地の確保にあると考えています。農産物の供給とともに、都市住民のための空間を提供することです。また祭りなどによる地域とのコミュニケーションは、農協でなくても、地域の農家が立派にやっています。それを守り、支援するのが農協の仕事だと考えています。
 都市圏の農家は、日常的に地域の人とつきあっておりコミュニケーション力があります。消費者の希望を聞いて、作る野菜を選んでいます。昔のような篤農家は少なくなりましたが、定年退職や家庭の都合などで就農する農家の後継者がおり、次世代の確保は心配していません。その絆となるのは農地です。それを守ることに農協の存在価値を見出さないと、組合員が必要とする農協になれません。
 農協の経営は右肩上がりの必要はなく、コンパクトにして組合員、職員をいかに食わすかです。農協改革は、いかに経済事業を効率化するかが重要だと思います。基本的に人は自分中心です。その要望を全て聞いて、農薬一つを即配達などの対応をしていては、経済事業の収支均衡にはなりません。
 肥料などの資材は年に2回斡旋していますが、それ以外の注文には運賃などが高くなります。東京農大と連携してすべての農地の土壌診断を実施しており、農家には自分で普及員と相談して作付け計画を立てるよう働きかけています。異論はありますが、甘えがサービスではないということを徹底して行く方針です。組合員は顧客ではありません。平成4年にJAマークを採用したころから、組合員が顧客になり、協同組合精神を無くしたのではないでしょうか。

 

 ――仕事の上で心掛けていることは。

 

 「組合員目線」ということです。組合員がアパートを建てるとき建築手数料、共済契約、融資という"三徳"のある農協が、できるだけ大きなアパートを建てるよう勧めても、それが組合員の利益になるとは限りません。
 相続対策も同じです。組合員の立場に立って、争族のないようにアドバイスすることで感謝され、後になって収益につながるのです。競争相手はメガバンクとメガ証券とメガ信託会社、メガハウスメーカーです。彼らにとって富裕層の多い組合員は垂涎(すいぜん)の的です。それに対抗するのが組合員目線です。
 今までお手伝いした相続は、平成4年からの統計をみると、資産額3174億1700万円の相続が発生し、その税金が1067億800万円。相続納税猶予が61件で96億円でした。つまりこれだけ組合員に寄り添っていることになります。

 

(とこづめ・すすむ)
 昭和45年世田谷目黒農協入組、60年資産管理課長兼指導課長、平成元年資産管理部長、14年常務理事、17年専務理事、20年代表理事理事長、23年特別顧問、30年相談役

 

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(シリーズ:いま伝えておきたい-私の農協運動-)
「人のために何ができるか」-協同の原点(1)【畠山勝一・JA秋田しんせい代表理事組合長】(18.11.08)
【須藤 正敏・JA東京中央会会長に聞く】新たな都市農業をめざして(18.06.11)

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