JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
最終決戦の地域金融 総合サービスで差別化を【谷山宏典・JAバンク中央アカデミー系統経営層・経営戦略研修会講師】2018年12月28日
・ペーパー・キャッシュレスの時代に
低金利政策、少子高齢化のもと、経営環境が悪化するなかでJAの信用・共済事業はどのように展開すべきか。新世紀JA研究会は11月に開いた第21回「危機突破・課題別セミナー」で、この課題について議論した。特に地銀や信用金庫など、同じエリアで営業する金融機関との比較で、いかに差別かするかなどが焦点になった。
国内金融機関の最新状況に目を向けると、地域金融は最終決戦フェーズを迎えています。日銀および金融庁は低金利での貸出競争を問題視しており、これらリスクに比べ低金利な融資による景気悪化時の損失拡大懸念を表明しています。
地域銀行は貸し出し利鞘の縮小を貸し出し残高の増加で補おうとしているものの、 資金利益は継続的に減少しており、また本業(貸出・手数料ビジネス) の利益は悪化継続、2016年度決算では地域銀行の過半数が本業赤字でした。過熱的な投融資の拡張は、将来の景気の下押しにつながりかねないとみられています。「地銀の7割は5年後に赤字」(金融庁)との調査報告もあり、地方金融機関のあるべき姿が問われているといえます。
そもそも、銀行業は資産規模が大きいほど経費率が低い、規模のビジネスという事業特性を有しています。国内において比較的競争優位を保っているいくつかの事例(富山第一銀行・香川銀行・北國銀行・南日本銀行・佐賀共栄銀行)を研究考察すると、規模の経済に起因するコスト削減は必要条件として、量や金利競争といった銀行本位の戦略からの脱皮を模索している点が特徴的です。
より具体的には、(1)徹底的なコスト削減努力に基づく店舗改革・事務効率改善・キャッシュレス・フィンテック活用、(2)中小企業の本業支援を強化すべく経営立案サポート・コンサルティング・協業、そして(3)顧客本位目線での個人ローンアドバイス・資産運用・預かり資産活用、などが特徴的でした。
コスト削減という必要条件に加え、十分条件として、全ては「顧客・利用者・組合員に役立つ、頼りになる、安心できる、拠り所になる」と強く感じてもらうことで初めて「無いと困る金融機関」と呼ばれる存在になるということであり、その結果、金融機関が生きるための収益を稼がせていただけるという発想を持つことが重要であると考えられます。
キーワードとしては、顧客中心主義、カスタマーセントリック、顧客本位、CSV(共通価値の創造)、顧客の購買代理(バイヤーズ・エイジェント)、フィデュシアリーデューティー(受託者責任)などが挙げられ、金融機関は勝ち残りのための本質思考が問われています。
(写真)谷山宏典・JAバンク中央アカデミー系統経営層・経営戦略研修会講師
◆脱皮できぬ蛇は死ぬ
では、このような時代において、JAバンクはどうあるべきか。革新への道としてどのようなものが考えられるか。その答えは「脱皮できない蛇は死ぬ」です。「失われた26年」と言われるように、日本経済がバブル崩壊の後始末やデフレで苦しんでいる間に、世界は先に行ってしまった。デジタルトランスフォーメーションによる競争環境の変化により業界を隔てる境界線が消滅し、あらゆる業界で技術のディスラプション(創造的破壊)が起きています。
各メガバンク共に店舗縮小・人員削減に着手しており、アマゾンやフェイスブックといったテクノロジー企業による金融業参入も時間の問題とみられるなか、我々が目指すべきは、他社では手に入らない違うものを作れる組織・企業となること、つまり、決して規模は一番ではないが、付加価値で勝負、差別化できる組織・企業となることです。規模のビジネスという銀行業の事業特性の中、コストリーダー戦略で戦えるJAは例外的であることを強く認識することが求められています。
「ピンチはチャンス」です。変化と言うのは断層のように突然、大きく現れるものであり、今まで通りではピンチの奈落に落ちてしまいますが、一方、このピンチも見方を変えれば、高齢者ビジネスや生きがい・高齢者就農、未病・健康が全て、食事と運動、健康安心安全の食消費者志向、田舎の価値向上など、我々にとっては千載一遇のチャンスといえるのではないでしょうか。
あくまで金融の面から最近のJAの状況を観察させていただくと、単協ごとに個体差がつきつつあると見受けられます。コスト削減の取り組み(店舗統廃合、ATM)、非金利競争への取り組み(非金利で成長)、ローンのクロスセルへの取り組み、相続の総合対策、賃貸住宅総合取引(稼働率アップ)、資産運用(資産形成層)対策への準備、部門間連携の当たり前化(TAC営農、生活)、地域住民の農業応援団化(シニア就農、直売所充実)、人材意識改革(CS、営業力強化、中央アカデミー、ブロックシンポジウムの積極利用)などへの取り組みレベル差異が結果として違いを生んでいる要因であると推測されます。
◆超おもてなし経営も
JAの付加価値、差別化を考える切り口としては、以下の3つ、つまり「お財布シェアの最大化」、「超おもてなし経営へホスピタリティ」「総合サービス提供」が考えられます。より具体的には、商品で差別化せずアドバイスや提案サービスで差別化、決済・貯金や融資・ローン及び資産運用・資産形成商品を軸としたクロスセルの徹底、お客様ロイヤリティの徹底追求、基本に忠実だが飛び抜けたサービス品質を志向、総合事業から総合サービスへ(情報の集約点である信用の機能拡張、発揮)などを提言させていただいています。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
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