JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
酪農専門の総合農協 各JAの経営理念明確に【石橋榮紀・JA浜中町代表理事会長】2019年1月29日
JA浜中町は、北海道東部に広がる根釧原野の釧路と根室の中間点の太平洋に面した海岸地帯にあります。夏期の冷涼な気候のため作物は牧草だけです。
そのため農業形態は酪農と肉牛の飼養に限られ、販売物は生乳と牛個体のみです。いわば酪農、畜産に特化した農業で組合員、地域のみなさんと地域社会を支えている酪農専門の小さな総合農協です。
【JA浜中町の概要】
○組合員戸数:
・正組合員208戸(生乳生産169戸)
・准組合員224
○機構:11課1室16係、1事業所1取扱所
○子会社・小法人:(有)コープ浜中、(株)酪農王国、(株)若牛の里、(有)就農者研修牧場
○草地:1万5000ha
○乳牛:2万2699頭
○生乳生産量:10万114t
○販売額:127億9600万円(浜中町予算の2倍)(うち生乳100億1600万円)
○資材扱い額:45億2500万円
農協改革は、政府の規制改革会議に言われて久しいですが、あの8項目の提言に関して、最後の金融事業の譲渡項目以外はJA浜中町で、すでに実施済み、あるいは取り組んで数年がたち、その一つひとつが成果を上げています。正直に言って、何をいまさらという感じでした。
農協改革で言いたいのはJA綱領についてです。農協や連合会の総会などで朗誦されるあの綱領は、国の仲間との連帯や協調あるいは環境を守ることなどについて謳っていますが、内容はともかく、どれだけの人があの条文を空(そら)で言えるのでしょうか。
いちいち書いてある冊子を取り出し、表紙をめくらなければ朗誦できないのでは、それが自分のものになっていないということです。少なくとも役職員くらいは空で朗誦できるものなければならないと思います。
そうでなければ日々の業務の中で組合員や地域のためになるかどうかの判断ができません。立地する環境も作物も違うので全国一律である必要はありませんが、それぞれの農協が地域で力を発揮するためには、農協独自にも「経営理念」が必要ではないでしょうか。
その思いで制定した浜中町農協の経営理念は「組合員の営農と生活を守り、地域社会の発展に貢献します」です。農業地帯の農協は地域の経済をけん引する力であり、地域のインフラである、との意識をしっかり持たなければなりません。
◆飼育技術全て数値化
経済事業改革として取り組んだ項目を時代順に列挙しました。いずれも組合員と地域の農業生産力・生産性増強のためにやってきことです。経済事業改革の目的は組合員の所得向上に貢献できるかどうかだと考えています。
【JA浜中町の経済事業改革】
・生産力、生産性増強のための取り組み
・草地の拡大
・家畜人工授精所の開設
・乳牛育成牧場の設置
・酪農技術センターの設置
・コントラクター事業開始
・生産資材価格低減への挑戦
・輸送事業のアウトソーシング
草地の拡大、家畜人工授精所の開設、乳牛育成牧場の設置、コントラクター事業などは組合員一人ひとりの生産力拡大につながり、ひいては地域全体の生産・販売力拡大になりました。
JA浜中町が全国初で取り組んだものとして誇れるものに酪農技術センターがあります。酪農の生産現場で利用されるあらゆる要素を分析し、従来の経験と勘でやってきたことをすべて数値化し、それに基づいて営農設計をすることができるようになりました。
このため、新規就農者でも大きな間違いをしないで営農に取り組むことができます。その上、品質改善やコスト低減にも役立ち、価格のアップや所得の向上にもつながります。
このセンターの数値は組合員へ供給する資材の扱いに大きな力を発揮します。つまり徹底的に無駄を省くことにつながります。草地に撒く肥料は、土壌分析の結果に基づいて設計するので不必要な成分は使わないため、それだけ価格を引き下げることができます。管内の肥料は農協の設計による独自の肥料であり、近隣地域では一番低価格になっていると思います。
牛の飼料も同じです。成牛用の配合飼料もセンターの飼料分析に基づく飼料設計で生産し、余分なものは入れないので、その分価格も抑えられています。この価格交渉も十数年前からやっており、その結果、組合員の生産コストを下げ、所得を向上させることができました。
現在では低価格が当たり前になっているものに、搾乳時に乳頭消毒に使うデイッピング液があります。30数年前、日本では1社独占の高価格でした。これを安くできないものかと取り組んだのが輸入でした。
そのためには日本の薬事法をクリアしなければなりませんでしたが、協力会社と3年の歳月をかけて取得し、価格を半分にすることができました。これは全国に販売して喜ばれました。今では多くの業者が扱っており価格も安定しています。
酪農は運搬業です。広大な草地に撒く肥料、牛が毎日食べる配合飼料、毎日生産される生乳、そして販売される子牛や親牛、牧草収穫時はもちろんですが牛舎の周囲で毎日動いているトラクターの燃料である軽油や暖房用の灯油などもあります。
しかし浜中町農協にはそれらを運ぶトラックは1台もありません。運搬事業はすべてアウトソーシングで、地域の運送会社2社に任せていますが、結果としてすべてを農協が抱えてやっていた時よりも効率や組合員の利便性はよくなっているのが実態です。
◆組合員が事業を評価
下記は経営改革の項目です。組織として取り組んできたものを列挙しました。JAの経営改革とは構成員・出資者・利用者である組合員のための組織として、組合員の経営・生活の向上に対する負託にこたえられる組織として活動できているかどうか、同じく利用者である地域住民にとって信頼に足るものとして存在しているかどうかの問題です。合理化や統合が改革ではないのです。
【JA経営改革】
・担い手講座、学習塾、英語塾
・酪農ヘルパー事業の開始
・就農者研修牧場の設立
・農協事業評価制度の実施
・地域生活インフラのコープ、コンビニなどの新設、拡充
・JA浜中デイサロン開設
・異業種連携事業への取り組み
この中で経営改革として最も効果があったものとして、農協事業評価制度の実施が挙げられます。平成15年度から取り組んできましたが、各セクションで10数項目の評価事項があり、それを組合員、女性部、青年部に重要度、満足度で五段階評価をしてもらい、加えて職員の自己評価とのギャップを分析し、それを総会時に「農協の通信簿」として冊子にまとめ公表するのです。
各セクションではその評価に基づいて改善点を協議し実施します。勘違いをしてやってないか、本当に必要なことなのかなどが明らかになります。かつて全農にこの取り組みを提言したことがあります。
(関連記事)
・担い手につくる誇り 組合員が求める自己改革を【仲澤秀美・JA梨北常務理事】(19.01.29)
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
新春特別講演会 伊那食品工業最高顧問 塚越寛氏 社員の幸せを追求する「年輪経営」2025年2月5日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】通商政策を武器化したトランプ大統領2025年2月5日
-
「2024年の農林水産物・食品の輸出実績」輸出額は初めて1.5兆円を超え 農水省2025年2月5日
-
時短・節約、家計にやさしい「栃木の無洗米」料理教室開催 JA全農とちぎ2025年2月5日
-
サプライチェーン構築で農畜水産物を高付加価値化「ukka」へ出資 アグリビジネス投資育成2025年2月5日
-
「Gomez IRサイトランキング2024」銀賞を受賞 日本化薬2025年2月5日
-
NISA対象「おおぶね」シリーズ 純資産総額が1000億円を突破 農林中金バリューインベストメンツ2025年2月5日
-
ベトナムにおけるアイガモロボ実証を加速へ JICA「中小企業・SDGsビジネス支援事業」に採択 NEWGREEN2025年2月5日
-
鳥インフル 米オハイオ州など5州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年2月5日
-
鳥インフル ベルギーからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年2月5日
-
JA全農と共同取組 群馬県産こんにゃく原料100%使用 2商品を発売 ファミリーマート2025年2月5日
-
「食べチョクいちごグランプリ2025」総合大賞はコードファーム175「ほしうらら」2025年2月5日
-
農業分野「ソーシャルファームセミナー&交流会」開催 東京都2025年2月5日
-
長野県産フルーツトマト「さやまる」販売開始 日本郵便2025年2月5日
-
佐賀「いちごさん」表参道カフェなどとコラボ「いちごさんどう2025 」開催中2025年2月5日
-
温暖化に負けない兵庫県新しいお米「コ・ノ・ホ・シ」2025年秋に誕生2025年2月5日
-
荻窪「欧風カレー&シチュー専門店トマト」監修「スパイス織りなすビーフカレー」新発売 ハウス食品2025年2月5日
-
伊勢丹新宿店で「徳島フェア」なると金時、すだち牛など販売 徳島県2025年2月5日
-
ポケットマルシェ「買って食べて復興支援!能登づくしセット」販売中2025年2月5日
-
「第7回本格焼酎&泡盛カクテルコンペティション」開催 日本酒造組合中央会2025年2月5日