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「見積もり」根拠文書に 業務引き継ぎにも有用【高山大輔・有限責任監査法人トーマツ JA支援室参事・シニアマネジャー・公認会計士】2019年3月22日
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◆はじめに
平成31年度からいよいよ公認会計士監査制度が開始されます。公認会計士監査対応のポイントは、(1)内部統制の整備・運用の徹底、(2)会計処理の根拠の整理が大きな柱になります。今回は後者の会計処理の根拠の整理について話します。キーワードは「役員による会計への興味と積極的な関与」と「会計監査人の活用」です。
◆会計上の見積もり
1.会計上の見積もりとは
JAにおける会計処理は多岐にわたりますが、公認会計士監査で特に重点的に監査される領域が「会計上の見積もり」と呼ばれる分野になります。主要なところでは、(1)減損会計(2)資産除去債務会計(3)退職給付会計(4)税効果会計といった会計基準が挙げられます。
これらの会計基準はJAで将来の見積りを行い、伝票を起票する点に特徴があります。つまり、ゆるぎない事実に基づく起票ではないため、その判断過程次第で伝票金額が大きく異なってきます。このため公認会計士監査では「決算書が誤るリスクが高い」と判断し、より重点的に監査を実施することになります。
会計上の見積もりに関する公認会計士監査は、その見積もりを行った根拠をJAから聴取し計算過程を確認することで行われます。そのため、JAでは公認会計士に対する見積もりの根拠を説明する準備が重要です。
(写真)高山大輔氏
2.対応のポイント
私はこの見積もりの根拠を説明するにあたり、予め文書を用意することをお勧めしています。その理由は大きく3つです。
(1)監査において想定外の決算修正を防ぐ
うまく説明ができないがゆえに公認会計士に根拠を理解してもらえず、決算を修正せざるを得ないという状況を回避できます。
(2)監査費用の発生を低減させる
公認会計士監査において会計上の見積もりの監査はそれなりの時間がかかります。公認会計士側も独りよがりな想定数値をJAに押し付けることはできず、ご説明いただいて初めて監査が成り立つからです。文書を活用したスムーズなやりとりは監査時間の削減効果が期待できます。
(3) 経理業務の引継ぎに役立てる
専門性の高い経理業務ひいては会計上の見積りに対して、人事ローテーションは非常に頭の痛い課題です。人が変わると知見がリセットされてしまう可能性があるためです。この点、見積もり根拠を丁寧に文書に残しておくことは、経理業務の引き継ぎに大いに役立つことでしょう。
このうち特に私は(3)が重要かと思います。といいますのは、公認会計士監査のために何か重い準備をすることは不健全だと思うのです。組合のために必要な取り組みをする、オマケとして公認会計士にも活用させて一石二鳥を狙う、この順番が重要だと考えます。そうしないと、職員の皆様のモチベーションが下がり続けると思います。(3)のために文書化を行い、あわせて(1)と(2)の効果も得るのです。
3.対応の仕方
会計上の見積もりを文書化するといっても、イメージがわかないかもしれません。いくつかの側面から説明します。
まず、会計上の見積もりでは多くのエクセルによる表をお持ちかと思います。その表の意味、行、列の項目の意味は説明できるでしょうか。また、1つめの表から2つめの表へ検討過程が移行する場合、その背景を説明できるでしょうか。後輩へ教えるように、後任へ引き継ぐように文書化されれば筆は進みやすいかと思います。
次に、役員のみなさんはこれらの見積もり会計基準にきちんと理解いただけているでしょうか。会計は経理担当者がわかればいい、というわけにはいきません。役員が興味を持つポイント、理解しておきたいというポイントを重点的に文書化しましょう。
最後に会計監査人からのアドバイスをもらいましょう。公認会計士監査で説明をしてほしい項目はだいたい決まっています。であればそれを会計監査人に教えてもらい、予め合意しておけば安心です。
◆収益認識基準への対応準備
2021年4月1日以降開始する事業年度から「収益認識に関する会計基準」が適用されます。この基準は一般事業会社だけでなくJAにも適用されます。
適用開始までまだ2年ありますが、一般事業会社での捉え方は「もう2年しかない」です。といいますのは、影響が大きい場合には、その仕訳の根拠となるデータ蓄積のため、システム改修を必要とする企業もあるためです。影響の範囲、準備の規模を把握する作業に一般事業会社は追われています。
ここでは詳細は省きますが、会計基準の対応にあたっては会計監査人を活用しましょうということです。実際に監査をする会計監査人と、会計処理の判断について目線を予め合わせておくことはかなり有用です。会計監査人を活用しましょう。
◇ ◆
本年1月に農水省から公表された「公認会計士監査の着眼点とそれへの対応について」では以下の記載があります。
「組合の役職員においては〝受け身〟の監査ではなく、組合の経営や業務の効率化などのために、様々な業種の監査経験を有する会計監査人の知見・ノウハウを積極的に活用する視点を持つことにより、費用対効果の面からみても公認会計士監査をより有益なものにできるといえます」。
ここで伝えた内容は決して経理ご担当者に押し付けることなく、役員主導で、そして会計監査人を活用して成就していただきたいと思います。
※この内容は登壇者本人の私見であり法人の見解ではありません。
※高山氏の「高」の字は正式には異体字です。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
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