JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
「人づくり」なくして 自己改革は完結しない【水谷 成吾・有限責任監査法人トーマツJA支援室】2019年3月22日
・トップの“思い” 職員・組合員へ
◆改革できない職員
2019年5月末に農協改革集中推進期間の終了が迫っても、依然として農協現場に改革の機運は高まらず、「組合員との結びつきを強化する」というスローガンを掲げる一方で、農協らしい職員が減少し、職員と組合員との結びつきは希薄化しています。
農協職員と話をしていて特に気になるのが、金融機関に勤めているというような意識で農業に対する知識が全くない職員がいることです。
そのような職員と話をすると「農業を知らなくても共済は推進できますよ」と、農業を知らないことを恥じるというよりも、むしろ農業を理解することの必要性がわからないという感じです。そのうえで、働き方改革を都合よく解釈して、地域住民との交流の場への参加を拒み、組合員とすれ違っても挨拶もできないという職員も少なくありません。
農協職員の仕事へのモチベーションは、「評価にかかわるため」「怒られたくないため」など自分勝手な理由が中心で、推進活動も「組合員に必要だから提案する」のではなく、「ノルマ達成のために推進する」というのが実態です。結局、多くの職員が改革の必要性は理解しても、短期的な数字をつくる癖から抜け出せていないのです。
(写真)水谷成吾氏
◆人事制度の影響が大
どのような職員が育つかは、農協が採用する人事制度に大きく影響されます。特に、「人材育成・教育制度」「キャリアパス・ローテーション制度」「人事考課制度」は職員の成長を方向付けます。
【人材育成・教育制度】
組合から提供される育成・教育の機会を通して、職員は知識や能力を蓄積し、成長していきます。そのため、組合から提供される育成・教育の機会が端末の操作方法や事務手続きに関するものだけの場合には、職員は事務処理能力には長けていても、自ら考え自律的に行動できるような人材には育ちません。
【キャリアパス・ローテーション制度】
農協は総合事業を運営しているがゆえに、職群をまたぐ人事異動によってさまざまな成長機会を与えられる(適材適所の実現)一方で、場当たり的なローテーションを実施すれば、キャリアがあいまいになるだけではなく、それまでの実績を台無しにすることにもなりかねません。
【人事考課制度】
職員は組合から評価されることに積極的に取り組み、評価されないことには関心を示しません。そのため、組合から評価されることが共済推進等の実績数字だけであれば、数字さえ獲得していれば問題ないと考える職員が増加します。
1.「求められる職員像」を起点にして一貫性のあるトータル人事制度を構築する
まずは、各農協において建前ではなく、役職員が納得し共感できる「求められる職員像」を明確に示すことが必要です。この「求められる職員像」は、役職員の想いがこもったものでなければ意味がなく、系統指針を焼き直ししただけのお題目やスローガンをいくら掲げても効果はありません。
そのうえで、「求められる職員像」を具体化した等級基準を作成して、人事制度の骨格を形成します。この等級基準が人事考課の基準になるとともに、報酬の基準にもなります。さらには、能力開発上のニーズ(成長目標)を明確化することにも貢献します。等級設定において大切なことは、組合として職員に期待する事項(能力、職務内容、役割、成果など)を明示し、それにもとづくキャリアパスを提示することで、職員にとって自らに期待される事項と成長段階が明確になることです。
次いで、組合が期待する事項に対して、職員個人がどの程度それに応えているのかを測定し、処遇、登用、配置、教育につなげるための人事考課の仕組みを作ります。前述のとおり、職員は組合から評価されることのみに関心を持つため、人事考課制度が職員の行動に重大な影響を与えることに留意しなければなりません。
最後に、等級および人事考課結果から提供された基準・根拠にもとづき報酬を支給するための報酬制度を作ります。ここでは、組合として何を認め、何に対して報酬を払うことが妥当かを判断します。
◆トップの意志明確に
人事制度の設計において何よりも重要になるのがトップの明確な意志です。人事制度の設計とは判断の連続であり、無数の見解の相違のなかで、トップダウンで組合の重要な価値観を示すことにほかなりません。わが農協は職員に対して何を求めるのかを明確にすることから始まり、職員の何(能力、情意、成績など)を評価して、何(年齢、能力、役割など)を基準に報酬を支払うのかを明確にします。
その際、人事制度に対して寄せられる様々な意見に対して玉虫色の答えを出すことなく、価値観が合わない職員には辞めてもらって構わないというほどの覚悟で人事制度の設計をやりきることが必要です。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
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