JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
【意見交換】組合員と同じ目線で 准組600万人の重い事実2019年3月29日
公認会計士監査対応や中期経営計画策定、人材育成など、JAはこれから取り組むべき多くの課題を抱えているが、それをリードするのは組合長を始めとする経営陣である。第23回課題別セミナーでは、JAの大きな転換期にあって、リーダーに求められるものは何かについて、報告と意見交換を行った。
【八木岡・JA水戸組合長】 JA水戸は早めに全組合員調査を行い、1月一杯で取りまとめました。そこで分かったのは、小規模農家からの要望が強くなっていることでした。これまでは認定農業者や担い手への対応を深掘りしようということですが、そうではなく、もっと裾野を広げて、組合員に寄り添って欲しいということだと思います。どちらを優先するかではなく、経営としてどう折り合いをつけるかということです。
【水谷・トーマツ・シニアマネージャー】 対話は、本当に改革につながる意見交換かということが重要です。要望の全てに応じることはできませんが、きちんと応え、何を変えたかを示さないと、対話だけで終わってしまいます。農業経営者に向き合うには、同じ目線に立てるかが重要です。市況がどうの、天候がどうのという言い訳はできません。農業経営者はそれを数字としてみているのですから。幅広く意見を聞き、必要であれは専門家に対応させるなど、少しずつ、着実に対応していくことが大事ではないでしょうか。
【石田・愛知県JAみどり参事】 公認会計士監査への対応では、リスクコントロールマトリックスを整備し、チェックリストも作成。ここまでやればまずいいだろうというところまでできたと思っています。水谷さんの講演にあった「人づくりなくして自己改革は完結しない」というのは、まさにその通りで、これからの農協を支える人物を育てたいと思っています。
中計も人事も自前で
【高山・トーマツシニア・マネージャー】 JAみどりの監査対応は進んでいる印象を受けました。監査対応が一定の水準に達したら、次には監査のためではなく、どうしたら組合員のためになるかを考えていただきたい。また監査対応について、JAの経済事業は内容が幅広く、規模も大小さまざまあるので、JA全中は600余りのJAをすべてフォローできるものではありません。そのJAに見合ったものが必要です。ただ全中の指針は、いわば最低限の及第点です。その水準に達していないJAはまずいと思います。
指針は示せても、監査の内容そのものは示されません。自分たちで考える事です。同じ愛知県でも都市農協のJAみどりと農業地帯のJA愛知みなみでは大きく違います。方針は示しても、手取り足取り連合会が指導できるものではありません。中期計画も人事制度も、上(県中央会)がつくったものではなく、自分がつくったものにといえるようになることが大事です。
【福間・新世紀JA研究会常任幹事】 改めてトーマツの二人にお聞きしますが、「自己改革」とはなんでしょうか。
【水谷】 「改革」と言う以上は、今とは違う姿になるということでしょう。農協改革については当初、外圧が必要と思いましたが、それではJAが本当にやりたいことにはならないということが見えてきました。何を変えるかも自分で考える。人に言われてやるのは自己改革ではありません。やりたいが、今までできなかったことを工夫しながらやる。これが自己改革だと思います。
【高山】 販売高300億円のJAの顧問をやっていますが、これまでのやり方を大きく変えていなくても、組合員はJAの事業に満足しています。そのようなJAもありますが、国民から見るとJAはひとつです。ただJA改革が進んでいますが、それがJA全体の底上げにつながっているのかという問題があります。
【宮永・神奈川県JAはだの専務】 政府主導でいろいろな調査が入っていますが、自分たちは販路拡大、所得増大などJA改革に取り組みました。しかし調査対象となった認定農業者の満足度は半分程度です。満足しているのはJA役職員だけというギャップをどう埋めるかが問題です。政府は調査結果で、准組合員の利用規制などを判断すると言っており、その意味でJAは、いま危険な状態にあると言えます。
【水谷】 改革と言いながら、仕事の延長でやっているのだと見られ、組合員はそれを改革とは認識していないように見えます。改革とは何かを実現することですが、それがいっこうに見えないのです。JAは伝え方が下手ですが、改革は、やっていることの質、量を十分考えなければ、組合員から「ああ、その程度ね」と捉えられかねません。
農家との勉強会などでは、JAが自己改革でやっていることは、これまでずっとわれわれが言ってきたことだが、国が改革だというと、すぐ動く。本音のところ「なぜ今までできなかったのか」という不満が聞かれます。
何のための農協か
【福間】 今年の5月に改革集中推進期間が終わり、どういう評価、総括になるか。中央会制度が改革で全面廃止となり、戦後の農協運動では最大の衝撃です。ひきかえは准組合員の利用規制です。自民党が、JAが自主判断すればいいと言ったことで准組合員問題は終わったかのような話になっていますが、農協から一定の距離を置く600万人の、農家でない准組合員がいるということを忘れてはいけません。一方で正組合員は400万人強。自民党が何を約束しようと、国民からは、農協はどういう組織かと問われます。
戦後70年農協を指導してきたのは全中であり、JAグループなのです。そこできちっと答えを出すべきです。調査で、どうすべきか組合員に聞いているようでは混乱するばかりです。JAのあるべき姿を問題提起して引っ張っていくのが上部団体であり、リーダーの役割です。すでに農業は農家だけで振興するのは難しい状況です。もっと広く、准組合員を含めて主体的に動くことで、発展の道があるのではないかと思います。
【八木岡】 准組合員を問題にする前に、農協は何のためにできたのか。使命は何かを議論することで、農協の使命、それを支える准組合員の立ち位置が見えてくるのではないでしょうか。食料だけでなく、種子、水、漁業の問題について、国民のコンセンサスとするための議論を起こすなかで、准組合員の立ち位置が決まってくるのです。
【佐藤・JA山形市専務】 自己改革といっても、今までやってきたことばかりです。改めて全中がいうようなことで、することはありません。組合員は自分の生活を守るため、したたかに生きています。農協はそれに対応していくべきで、中央会のいうことを聞いていればいいというのではなく、農協が自ら考えることです。
【宮永】 今さら何が徹底した話し合いかとも思いますが、多くのJAでそれができていないことが問題です。監査でクリアすべきタスクも示されています。それをクリアするにはどうすべきか、内部統制・自分たちでどうすべきか、石田参事の指摘のように、自分で取り組むべきです。しかし多くのJAでそのことが十分には分かっていないように思います。
【高山】 公認会計士監査では時間切れにならないようにしてほしい。会計士は活用してなんぼの世界です。何をどこまでやるかは交渉次第です。監査契約であり、「契約」ごとなのです。各種のセミナーにも出てこないJAもありますが、本当にそれでいいのでしょうか。中央会の法的な指導権限がなくなるということは、責任も取れないことになるのです。各JAに責任をもって頑張ってもらうしかありません。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
新世紀JA研究会のこれまでの活動をテーマごとにまとめています。ぜひご覧下さい。
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