JAの活動:姉妹3JAトップが意見交換
【農業と地域守り抜くJA自己改革着実に】姉妹3JAトップが意見交換(後半)2017年12月7日
・結論ありきの国の調査
・マイナス金利影響懸念
・農業・農村の価値を発信
・次期中計へスタンバイ
・食料確保の基本政策を
・改革リードするJAに
◆結論ありきの国の調査
黒田 JAの信用事業の譲渡について、政府は自由な選択というが、公認会計士監査でそうせざるを得ないように追い込んでいるように見えます。31年7月の参院選が終わった後、この際一気に農協改革を進めようとしているのではないか。この大きな力に対抗するには、真正面作戦は避けて力を蓄え、柔軟に対応する必要があると思います。
組合員1000万人調査を行い、それを世論にするのはいいことですが、JAえひめ南の正職員は約400人。約2万1000人の組合員を全戸訪問し、納得していただくにはどれだけ時間がかかるか想像がつきません。平常の勤務後、時間外でそれができるかという問題があります。これを機会に組織内に働きかけるのもいいことですが、世論にするには国民全体に働きかけることも重要ではないでしょうか。
(写真)黒田義人・JAえひめ南代表理事組合長
比嘉 金融庁は金融秩序の維持を第1に考えており、これまで経営破綻を出さなかったJAバンクの仕組みは評価されています。ただし、より一層の努力が必要だと思います。
清家 農水省とJAが、それぞれ自分に都合よく誘導するためのアンケート合戦に入っているようにも見えますが、それでいいのか。役職員が組合員のところを回ったらいい結果が出るだろうとの思いでしょうが、それは農協に有利な調査ではないかといわれるのではないでしょうか。
比嘉 農水省の調査は農水省が設問等を決めます。こちらも調査で対応せざるを得ないのが実情です。ただ、誘導的であってはいけないと考えています。だれがみても当然だと思われるように、質問の仕方で読者のモニター調査で実績のある日本農業新聞などの知恵を借りるつもりです。
久慈 国にいわれるまえにきちんとした対応ができるよう、正しい判断できるデータは必要です。JAとしても協力したい。
(写真)清家治・JAえひめ南代表理事専務
◆マイナス金利 影響懸念
浅沼 農林中金は25%くらいの自己資本を持っています。しかし農協はこれから系統利用奨励金を内部留保せざるをえなくなり、その水準にするには自己資本比率が4~6%下がることも予想され、経営が難しくなるのではないでしょうか。
比嘉 マイナス金利のもとで、JA全体の経営収支は厳しくなるとみています。次期の農協大会でも議論が必要だと考えています。
黒田 信用機関が信用機関に預ける、また出資することが「バーゼルⅢ」で規制され、自己資本比率を下げる方向になると思われます。営農・利用事業は、いわば農協の聖域ですが、減損会計で、周年稼働できないライスセンターなどが経営上の負担になっています。卵を産まない鶏はつぶせというのか。農家組合員のために農業所得を増大させようとすることに水を差すようなもので、制度をもって農協を締め上げようとしています。
生産法人や農業委員会、そして農協改革と、一連の政府の攻撃をみると、国境を開いて輸入農産物に耐える大型農業をやれということで、戦後一貫した家族農業からの脱皮です。しかしそれでは地方創生はできません。地方が元気になる条件は多数の家族経営の存在です。自立経営がたくさんあるのが本筋だと思います。
(写真)浅沼清一・JAいわて中央代表理事専務
◆農業・農村の価値を発信
比嘉 世論に訴えないと政治は動かないのが実情です。食料・農業・農村基本計画については、規制改革推進会議ではなく、農政審議会で本格的に議論されると思っています。それまでに環境をつくっておかなければなりません。
大内 JAグループとして広報活動の物足りなさを感じます。いまテレビCMで流れているJA共済やJAバンクはとても分かりやすくよい内容だと思います。自己改革についてもこうした広報活動が重要だと考えます。農村では堤防や水利の管理を、准組合員を含めた地域の人々が担い、生活環境を整備しています。このような取り組みが地域、ことに農村部の荒廃を防いでいるのですが、そうした取り組みが正当に評価されていないと感じます。
比嘉 全中は、もっと情報発信すべきだとの声がありますが、今年度、全中の補正予算10億円を上限にテレビで取り組んでいます。JAとしては画期的です。今回は3連の負担です。JAがないと農業、地域が成り立たない。このことを積極的に訴えていきたいと考えています。
(写真)大内一也・JA栗っこ代表理事専務
◆次期中計へスタンバイ
久慈 自己改革では、経済事業を中心にかなりの成果を上げてきたと思っています。職員のやる気を促すため、経営理念を見直し、徹底するようにしています。農家の要望が強い労働支援の体制も整備しました。生産指導には力を入れてきましたが、これからは販売をどう進めるかが課題です。 そして信用事業では、農業にこだわり、地域では普通の銀行と違う特長を出すことができなかったという反省のもと、支所のくらしの活動などで准組合員への働きかけを強めるなどに取り組み、それぞれ成果が上がってきたと思っています。
販売面ではエンドユーザーの声を尊重したサツマイモの栽培を行い、リンゴの輸出はベトナム、台湾、タイの3か国に拡大しました。労働支援は支援センターの斡旋で約50組成立しました。くらしの活動の1支所1協同活動、支所広報のコンクール、員外セミナーなどもいい方向に進んでいます。ことしは中期3か年計画の中間年です。専務を中心に金融渉外や利用事業の見直しを行い、次期3か年計画に向けて走り始めているところです。JA改革は全中の方針より、できれば半歩先を行きたいと考えています。
(写真)久慈宗悦・JAいわて中央代表理事組合長
吉尾 農業所得の増大に関しては、それぞれ品目別に戦略を持った生産者組織とするため、園芸で7部会、コメで3つの専門部会に再編しました。とりわけコメについては、独自の米販売で販路を開拓しながら、生産者手取りを増やす努力を重ねてきています。生産資材の引き下げについては、品目を絞り、注文書を農家のみなさんに分かりやすい形にするなど、工夫を凝らしています。
またコメの流通合理化として8万5000俵を収容できる高機能倉庫を新たに建設し、この秋から稼働しています。それから栗駒山の中腹を開墾地に、かつて「耕英だいこん」として名を馳せたダイコン栽培を復活させるプロジェクトを立ち上げました。これが契機となり、何人かの後継者、新規就農者が手を挙げています。
管内は畜産も盛んで、事業量はコメに次ぐ規模で約44億円の取扱高になっており、クラスター事業を活用してさらなる生産基盤の強化に努めています。今年、宮城県で開かれた和牛全共が刺激になって、若い人が畜産に意欲を示し、和牛繁殖の新規就農者が増えており、農協として積極的に支援しています。
地域活性化では8つの支店を核とした「JAフェスティバル」が盛況で、地域との結びつきを強めています。また支所周辺の清掃活動や職員の地区消防団への加入を促すなど、地域貢献にも力を入れています。
(写真)吉尾三郎・JA栗っこ代表理事組合長
大内 部会の再編は、当組合も合併から20年経過し、農家組合員のみなさんの営農形態も昔とはだいぶ変わってきたことが背景にあります。それぞれの部会は自主的に運営され、JAはそれをサポートするという位置付けです。
資材の品目選定や肥料設計などは部会が主導して行い、価格交渉などはJAが責任をもってしっかりやるということです。この秋に稼働した高機能倉庫はフレコン対応で最新の精米施設も導入し、そこを拠点とした販売戦略を今後展開していく予定です。エンドユーザーの声を聞きながら「作って売るコメ」から「売れるコメづくり」への転換をめざします。
特産のキュウリは規格外品を加工業者に原料として提供し、「栗駒漬」をつくっていただいています。ご飯によくあうと評判で、各所で展開する販売イベントでも飛ぶように売れています。
黒田 農業は柑橘中心です。大きな選果場の65億円を含め、柑橘の販売高は約80億円で、約97億円の農産物販売高のほとんどを占めます。4つの大きな共選場があり、そこでは出荷者の運営委員会が販売、価格交渉などの主体となっています。JAは課長、課長補佐級を事務方としてフォローするだけです。
平成21年に柑橘の専門農協を合併し、それまで大変だった経営が、総合農協になることで資金繰りが順調になりました。マーケットインの販売は専門農協からの伝統があります。南柑20号、ポンカン、ブラッドオレンジ、河内晩柑など、生産量日本一だと自負しています。新規就農者も増えています。暮らしと営農が充実すると生産者は自然に増えるものです。
内陸の山間部ではブロッコリー、キュウリ、サトイモを推進しています。果樹はユズが約3億円、栗や桃もあります。ユズや渋柿は地元業者や和菓子メーカーで加工しています。ブロッコリーは比較的順調で7000万円の販売高ですが、1億円作目を3つつくるよう、生産を呼びかけています。
清家 行政との関わりを大事にしています。山間部の町では、苗の半額を行政がみてくれます。山間部ではお互いが助けあわないと、地域も農業も守れません。
◆食料確保の基本政策を
久慈 水田の転作として、ほかの地域では飼料用米の生産が増えていますが、管内では以前から麦作に取り組んでいます。飼料米はそれほど増えてはいません。
黒田 飼料用米の将来性は、それを食べる家畜次第です。その畜産は日EU・EPAによる影響が心配です。日本型畜産はどうなるのでしょうか。水田でできる専用の飼料用米を育成したり、飼料用米の確保を法制化したりするなどの対策が求められます。また種子法が廃止されましたが、この分野は国家が関与するべきです。最終的に農家を守るのだという方針をしっかりだしてもらわないと。
大内 飼料用米は豚が多く消費しますが、その豚が日EU・EPAでどうなるか心配です。いま国・政府段階で食料自給率の議論はなされていないのでしょうか。
比嘉 今年の生産農業所得の統計が出ますが、数字は伸びるでしょうが、これは品薄の単価高のためです。しかし、量がないと食料自給率の向上にはつながりません。世代が替わる時なので、国には、次の基本計画で検討していただきたい。
黒田 そうです。自給率が38%になり、これ以上は落とさないように、国家の基本政策を32年の基本計画で議論してほしい。
【来年に向けて】
◆改革リードするJAに
比嘉 来年に向けた展望はいかがですか。
黒田 有名な和菓子メーカーが進出してくれました。将来は100人規模の雇用が期待できます。柑橘のほか栗、ビワ、渋柿なども原料用に契約栽培したい。実質的稼働は1月になる予定で、期待しています。
自己改革は信用・共済事業の機能を再編し、現在の貸し出し6店舗のほかは、貯金に特化させたい。買い物難民対策で移動購買車も増やしました。営農・生活資材等の仕入れ単価をできるだけ安くするとともに、内部の流通改革にも取り組むつもりです。
吉尾 やはりコメの販売対策が1丁目1番地で、販売拡大と業務用米「萌えみのり」の生産に力を入れます。現在「萌えみのり」の作付けは全作付面積7000haのうち、約400haですが、平成30年産では、これを1000haに伸ばす計画です。また新しい精米施設が来年3月に完成する予定で、関東圏のJAと連絡をとりながら、ゆくゆくは学校給食にコメを供給できればと考えています。
また、信用事業では貸付けを伸ばすため、子牛市場や農機具の販売会などに、金融の融資担当者を派遣して資金相談に応じる体制を整備したいと考えています。
一方で、宮城県北部の8JAによる合併の協議も進んでいます。31年4月に合併JAを発足させることを目標に話しあいが行われています。非常にタイトな日程となっていますが、10年後、20年後も組合員とともに地域を支えられるJAであり続けるため、最善の手立てを講じていきたいと思っています。
浅沼 職員の危機感が不足といわれますが、全中の教育センターのマスターコースの修了者をメンバーに加えたリーダーに職員7、8人のプロジェクトチームをつくり、事業改革を検討しています。併せて経営感覚をもってもらおうという目的です。
プロジェクトチームでは、施設運営事業の改善をはじめとして、生産資材を安くするとともに、供給量の確保に向けた対策を検討しています。また農繁期・農閑期における職員の流動化策の策定や、別々になっている金融と共済の渉外を一人の職員でできないかなどを検討しています。職員研修では、経営学を学んだ全中のマスターコースの修了者を活かしていきたい。職員が説明できないと農協改革も進みません。職員に期待しています。
清家 河内晩柑のジュースは認知症によい成分があるということで、愛媛大と県とのコラボで試作品をつくりました。来年は積極的にPRします。
久慈 担い手や法人も入っている生産資材委員会で、価格についてきちんと説明すると理解してもらえます。農協に対する組合員の理解を深めるため、来年もこうした組織活動を大事にしていこうと思っています。
比嘉 JAでもそれぞれ違いがあるということがよく分かりました。いろいろなJAがあるなかで、今日の3JAには、その取り組みが他のJAの刺激になり、引っ張っていく役割を果たしていただくことを期待します。
※前半は、【農業と地域守り抜くJA自己改革着実に】姉妹3JAトップが意見交換(前半)をご覧下さい。
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