JAの活動:農協があってよかった-命と暮らしと地域を守るために
【現地レポート・JA士幌町(北海道)】大手資本の搾取排し「農村ユートピア」創造(3)<JA士幌町の挑戦>2018年1月10日
・農民自ら加工・流通作物・乳製品で高付加価値
・“積小為大”へ備蓄
・コミュニティの核に
◆"積小為大"へ備蓄
昭和29年から始まった備荒貯金、その後の営農貯金、年金貯金、家計貯金、そして互助基金がある。特に特徴的なのは備荒貯金で、収益の95%を100%の収益と考え、病気や災害、住宅建設などの特別の出費が必要となったときの蓄えとして半ば強制的に積み上げる。引き出すときは組合長の決裁が必要で、農畜産物の販売額のなかから一定の率(5%)で天引きする。
(写真)農民資本でつくられたよつ葉乳業(十勝主管工場)
また営農貯金、家計貯金は「1年送りの農業」として、各組合員の営農と生活に必要な費用1年分をスタート時点で積み上げている。さらに互助基金は、昭和57年、まだ生活の苦しかったころ、1戸100万円の積み立てを行い、同じ額を農協が出して約10億円。これを経営の改善に資する資金としてそれぞれの条件によって上限を設け、無利子で貸し出すしくみだ。
JA士幌町の高橋正道組合長は「十分な内部留保があってこそ経営の安定化が図られ、組合員に安心感を与え、次の投資のバックボーンにつながる」と、JAを堅実に経営することの重要性を強調する。この考えで自己資本の充実に力を入れており、現在、同JAの組合員の出資金は62億4000万円で、1戸当たり約1400万円になる。事業基盤強化積立金として約85億円を有し、固定資産(取得額)は約730億円という、全国でもトップクラスの堅実な経営基盤を確立している。
◆コミュニティの核に
高橋組合長は、JAについて「組合員にとってJAはどうあるべきか、また何ができるか常に追求することが大事」という。その要点として経済・福祉・教育の3つを挙げる。特に経済事業では、農畜産物に付加価値をつけて組合員の所得を増やすとともに、JAの経営基盤を固めること、また信用事業では、経営や福祉に必要な投資を自賄いできるようにすることが重要で、そのため内部留保の確保に努めている。
こうした安定経営によるJAへの信頼が、9割台の事業利用率につながっている。そして「これが最も大事な核だ」として、人材力の大切さを強調。2年に1度、青年部、女性部、それに組合員と事務局の職員16人の海外研修などを行っているのもその一つである。
(写真)高橋正道・JA士幌町代表理事組合長
そして「士幌町農協が自分たちの組織であってよかったと思われるように、役職員はお互い精神的に高め合って行く必要がある」と言う。さらに「農協の役割は、地域コミニュニティーの核として文化・自然を含めた地域の生活環境全体をよくすることも使命だ」と、その先の農村ユートピアの創造を目指す。
【JA士幌町の概要(平成28年度末)】
●組合員戸数:411戸
●組合員数:739人(うち准組合員79人)
●販売総額:421億8700万円
●生産資材総供給高:133億800万円
●貯金総額:883億5300万円
●貸出金総額:107億200万円
●長期共済保証:688億7400万円
●職員数:171人
士幌町開拓と組合史
十勝地域の開拓は、明治25年からの植民地選事業と29年からの貸付けに始まる。翌年、北海道国有未開発地処分法が制定されて、本州の資本家や華族に100ha以上の大規模な土地が無償で処分され、小作農場制による開発が主流になる
士幌の開発は、明治31年、岐阜県で設立された美濃開墾合資会社の一行43戸が同じ年に中士幌へ入ってから本格化した。その後45年には旧佐倉藩主による2000haに及ぶ佐倉農場などが建設され、明治末期には平坦部の開発が一巡した。
昭和6年には士幌村産業組合が設立された。発足時の組合員は113名。これが翌年には310名、さらに次の年には320人と、年を追って増え、産業組合最後の年、昭和18年には841名となり、ほぼ現在の組合員数になった。昭和23年、農協法施行に伴い、新生士幌村農協となった。
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