JAの活動:JA全国女性大会特集2018 農協があってよかった―女性が創る農協運動
【座談会・女性が創る農協運動】「なりたい私たち!」その思い JAで実現(前編)2018年1月25日
<出席者>
海野フミ子さん(JA静岡市前理事、アグリロード美和代表)
高橋淳子さん(JA北海道中央会根釧支所根釧女性協事務局広報・消費拡大事業担当)
後藤彩月さん(熊本県・JA菊池畜産部酪農課指導員泗水酪農女性部事務局)
髙山拓郎さん(長野県・社会福祉法人松本ハイランド理事長(JA松本ハイランド前代表理事専務))
JAグループが取り組んでいる自己改革のなかで、農業と生活の主要な部分を占める女性の役割は大きい。それぞれ70代、40代、20代前半で、それもJAの理事経験者、農協中央会の職員、単位農協の指導員に集まってもらった。同じ農業・農協に関わる仕事ながら、世代・置かれた立場の違う3人の座談会では、農協運動のなかで、女性はどのような立ち位置にあり、何をするべきか、また何ができるかについて意見交換した。進行役は長野県社会福祉法人松本ハイランド理事長(JA松本ハイランド前代表理事専務)高山拓郎氏。
◆まず、ぶつかってみる
髙山 外からのJAに対する改革要請がますます強まっています。女性は農業を支える重要な役割を持っていますが、もう一方、生活者として、こうしたい、ああしたいということを自分のこととして、家族のこととして、そして地域のこととして受け止めることができる感受性を持っています。まず家族をよくして、その集まりである地域をよくすることが全体をよくすることになる。そのために何をしたらよいのかについて、単に発信するだけでなく、どうやって実現していくかという観点で、女性の活躍する場が広がることが重要と考えます。農協への女性参画は進んでいますか。
海野 平成7年から女性部活動に関わり、ずっと女性部の役員をやり、農協の理事も務めてきました。女性部活動を始めた平成7、8年ころ、仲間の女性と「アグリロード美和」という農産物の直売所をつくりました。そのころ初めて総代会に出席しましたが、出席者が男性ばかりだったことに驚き、女性の総代を増やす取り組みを始めました。平成14年に目標の20%を達成し、理事も、女性ひとりではなにもできないので、3人の女性理事枠を獲得しました。現在、女性は総代の26%、正組合員の24%を占めています。
女性で初めて農協の理事になったときは、女性枠でなく地域選出でした。立候補するとき迷いましたが、先輩たちから「もともと女性は何もないのだから、落選してもいいではないか」と言われてふっ切れ、とにかくぶつかってみようということで挑戦しました。
そのころ衆議院議員総選挙で静岡1区からJA女性部員が立候補し、私たち女性部も応援して当選させました。それで、やればできると自信がつき、そのときの仲間が、その後の女性部を引っ張っていきました。男性の理事のなかから、女性総代が20%いてもよいではないかという声が出てきたのも、そのころからでしたね。
(写真)海野 フミ子さん
髙山 どんな運動もそうですが、なにかやろうといってもなかなか周りが動いてくれないものです。それを動かしたという力はすごいですね。
高橋 北海道のJAは12の地区(6支所)に分かれており、私のいる中央会根釧支所は釧路地区6JA、根室地区5JAをエリアとしています。北海道全体では、JA大会で女性の参画を増やすことを決めていますが、なかなか進まないのが現状です。24年度からステップアップ方式で、最初はJAと意見交換などの話し合いの場をつくり、次に正組合員化、総代制のあるところは総代に、そして女性理事を出すという運動に取り組みました。
各JAには、女性参画について基本方針をつくるよう呼びかけましたが、道内で策定したのは108JAのうち半分にも満たない状況です。いま釧路は女性理事1名、女性監事2名で、根室はゼロです。女性の正組合員も、根室では今年度いっぱいまでに10%にしようと決めましたが、こちらもなかなか進んでいません。
JAの経営陣も女性自身もそうですが、なぜ女性が総代や理事をやらなければならないのかという雰囲気があるように感じます。まずは女性の正組合員や総代・理事の目標数値や地域のありたい姿を明確に定めることが重要だと思っています。北海道の農家は専業が多いので、酪農家などでは、夫婦が共に正組合員になると、家の仕事は誰がやるのかということになり、これまでのように女性が家で仕事をすればよいという考えが強いように思います。
しかし、専業であれば特に、そこで一生、農業をやるのですから、その地域をよくするには、特定の人だけの意見でなく、特に女性の目線、意見を加えると、その成果は掛け算になって、もっとよくなるJA、地域ができるのではないかと思うのですが。
◆いのちと暮らしが原点
髙山 男と女のネットワークは違いますね。女性はいのちと暮らしにもとづいて考えます。地域の多様な人々との結びつきや、都市生活者とのネットワーク構築が得意です。今のような農業やJAに対する外圧の大きいときには、そうしたネットワークで情報を交換し、そこで得た情報を協同組合の運動に活かさなければなりません。中央会が決めたから、JAの方針だからということではなく、自分たちの問題として考えることが必要だと思います。
JA松本ハイランドでは、女性参画センターを設置し、様々な女性組織に横串を通しながら組合員組織に対する情報発信に取り組んでいます。女性の正組合員を増やすのは私たちの役割だという意識が定着しており、女性の組合員比率が33%を超えています。女性理事が7人(地域選出1人)いて、JAで女性に関わる組織には必ず関わるようにしています。女性の皆さんが取り組んでいることをPRして男性の意識を変えていくことも大切です。JA菊池ではどうですか。
(写真)後藤 彩月 さん(熊本県・JA菊池畜産部酪農課指導員 泗水酪農女性部事務局)
後藤 農業大学校で酪農の勉強をして、いま勤めて2年目です。酪農家の指導員をしています。JA菊池管内の泗水地区67戸ほどの酪農家を担当し、やはり地区の酪農家の女性部事務局の仕事をしています。
高橋さんの北海道の酪農家の話にもありましたが、酪農は家業のようなもので、誰かが家にいて牛の世話をしなければなりません。女性が家を空けて女性部の活動やJAの運営に参加するには、ヘルパーを雇えるような企業的な経営をするのが理想的だと思いますが、外へ出て活動し、女性のネットワークをつくろうと思っても、その意識がボトルネックになっているように感じています。
海野 これから農協は営農指導にウエートがかかる時代になると思います。営農指導に農協の将来がかかっていると言っても過言ではありません。いまのように農家が疲弊していると、技術員がしっかり指導し、農業で生活できる農家を育てないと、何のために農協はあるのかと言われかねません。技術員は農家に入り込んで、しっかりやっていただきたい。男性と違い、女性の技術員は農家に深く入れるのではないでしょうか。若い技術員に期待します。
◆「すごいね」と思わせる
高橋 いままでこうだったからその通りやるべきで、新しいことはやってはいけないとか、女性とはこういうものだという思い込みが、男性だけでなく女性にもあるのではないでしょうか。
海野 かつて男は女を従えて農作業するもので、1人だと世間体が悪いなどという感覚があったように思います。しかし、いまは変わりました。男性はひとりで仕事をするし、直売所にも、奥さんについて来るようになりました。女性は、まず実行して、その成果を男性に見せることです。それを見て男性も変わります。直売所はそのよい例です。
髙山 そうですね。女性参画でも、単に集まるだけでは、男性から「なにやっているのか」と言われかねません。直売所の運営や農産物の加工などで現金収入を得て、「すごいね」と思わせることが大切です。女性はもっと出しゃばるべきです。出る杭は打たれるというが、打たれたらまた出ればいいのです。明治以後の開拓から始まる北海道は、そうした家や地域のしがらみは薄いように思いますが、どうですか。
高橋 若い人は違うかも知れませんが、まだまだです。あそこの嫁さんはいつも出かけているとか、お年寄りを施設に預けたとか、噂話にされるのがいやだという人が多いように感じます。
◆大小の歯車かみ合わす
髙山 JAのいろいろな行事などで、女性の参加が多くなったのは事実です。むしろ女性のネットワークを星の数ほどつくることが大事です。組織論でものごとを考えるから、かえって身動きが取れなくなるような気がしています。JAの組織もあれば、個人のグループもある。大きな歯車も小さな歯車もみんな噛み合えば何倍もの力になるのではないでしょうか。その組み合わせで、女性も社会に関われるような仕組みができればいいのです。JA職員の果たす役割は大きいと思います。
後藤 指導員として、農家から呼ばれたらもちろん行きますが、行きたくないところがあるのも事実です。しかし、酪農家はほとんどがプロです。教えてもらうという気持ちで訪問しています。若い酪農家も結構いるので、女性だけでなく、そういう人たちともネットワークをつくるようにもしています。九州や北海道の酪農にはそれができる基盤があるのだと思います。
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