JAの活動:第64回JA全国青年大会特集
【寄稿】若さと協同の力で切り拓け農業新時代【村上光雄・JA三次元代表理事組合長】(後編)2018年2月13日
◆農地はみんなのもの
さて第四期に入って、所有権はそのままとしても、耕作・利用をみんなでするようになったことは歓迎すべきことだと思う。何故なら我々の中山間地域では人口減少、高齢化そしてイノシシ・シカから集落・農業・農地を守るにはみんなの協同の力によるしか方法がない。
また、元来日本における農業はみんなの協同の力で成り立ち、営まれてきたものである。農地は水があってはじめて農地と言えるのであり、特に水田は水源を確保し用水路で水を引き込まなければならず、その設置、維持は個人では不可能であり、現在も同じでみんなの協同の力で守り続けられているのである。農業経営を行うにあたっても地域のみなさんの理解と協力がなければとうていなしえないことである。このように考えをめぐらしてみると、現在の姿はより本来の農地の利用の姿に近づいていると言えるのではないかと思う。
そこでJA三次では早くから「みんなで耕作する時代ですよ」と集落法人の設立に積極的にかかわり、一緒に課題解決に取り組んできた。そして50法人プラス大型農家で耕地の50%を目標にしてきたが、リーダー不足で34法人で足踏み状態となっている。といって集落法人がすべてではない。集落にはそれぞれ集落の事情があり、状況は異なっている。
従って法人格でなく任意組合でもいいし、機械共同利用でもよく、みんなの知恵を結集して、よりよい農地利用の形態を作り上げていけばいいと思う。私は中核農家がいて集落組合と協定を結んで耕作するのが理想だと思う。
◆若者の出番!絶好のチャンス!
ところが、この協同の力を発揮しみんなで耕作するためには若者の力がどうしても必要となってきた。現にどこの集落法人も後継者不足に悩まされている。それは当初から言われていたことでもあるが、地域に核となる若い担い手がいないから集落法人ができたということでもある。
つまるところは若い農業後継者がいないという振り出しに戻ったということでもある。いずれにしろ農業・農村・農協においても昔の青年部綱領にあるような先駆者がどうしても必要になってきたということである。まさに若者の出番である。
ここで若いみなさんに言いたい。農業後継者不足は今に始まったことではなく50年前と変わらない。しかし取り巻く情勢は大きく変わった。まず、いままで見てきた農地をめぐる情勢は雲泥の差である。少し触れたように、50年前は農地価格は高く、経営サイドから考えたらとても採算の合うものではないし、第一お願いしても手放してくれるものではなかった。
そこで請負耕作をしたが何処でも誰でもやらせてもらえる状況ではなかった。それに比べ今は、農地価格は買い手もいないから当時と比べれば二束三文といっていい。また取得しなくとも利用料を払うのではなく、逆にもらって耕作できる時代でもある。はっきり言って拡大しようとすれば、選り取り見取りで自分にあった農地を借り上げることが出来る。当時に比べればまさに夢のような世界である。
そして農業技術の格段の進歩である。私の時代にはまだ田植えは手植えであり、田植機が開発されてもまだかえって手間のかかるような状態であり、乗用田植機などとても考えられなかった。稲刈りも私の場合、牛の粗飼料確保のため稲ハデをしており、かなり遅れて結束付きコンバインに移行した。このようなことだから規模拡大には限界があり、圃場整備により稲作労働が省力され肉用牛規模拡大が可能になったことは救いであった。
このよう振り返ってみると50年前とは農業機械も栽培技術も様変わりである。さらにIT技術を組み合わせれば新たな栽培管理の途も開けるというものである。まさに農業の新時代を切り拓いていく絶好のチャンスの到来である。
農業を取り巻く情勢は厳しく、そしてまだまだ農業者は減少していくと思う。しかし人間がいる限り農業はなくならない。よく逆境のときこそチャンスと言われるが、このことは私の長い経験を通しても真実だと確信する。農業・農地が粗末にされている今こそ攻めの農業を展開すれば必ず未来が切り拓かれる。今こそ若者の出番であり、絶好のチャンスである。
◆持続可能な農業、社会を
これまで若者の出番であり、攻めの農業を展開する絶好のチャンスだと述べてきたが、単一経営による規模拡大のみを言っているのではない。私たちの目指すところは持続可能な農業であり、持続可能な社会である。その視点から見たとき単一経営はリスクが多く、基幹となる部門があって、関連した他部門を組み合わせた複合経営の方がよりベターだと思う。
そして規模拡大にしても地域に迷惑をかけない適正規模、家族労働プラス雇用でこなせる適正規模があるということである。つまり老若男女、家族全員が役割を持って助け合い、明るく健康な家庭を築くことのできる農業経営をするということである。
その逆の農業経営のために家庭・家族を犠牲にすることがあってはならないということである。くどいようであるが人間がいて農業があるのであり、農業があって人間がいるのではない。それでないと農業も社会も持続できない。
持続可能な農業・社会とは世代の「順々のくり」であり、親から子へ、子から孫へ、そして老人から若者へとの引き継ぎの連鎖により成り立つものである。また持続可能ならしめるためには世代間の助け合い、そして地域における助け合い、協同の力がなければならない。
とくに農業は、用水を継続的に確保するため、またイノシシ・シカからみんなの農地を守るためには協同の力によるしか方法はない。今日我々があるのも、農業協同組合があるのもその協同の力の積み重ねによって築かれた尊い結晶なのである。
といって昔のままでいいといっているのではない。農地所有意識の変化にもみられるように、先輩たちはその時代時代の変化に対応して改善、改革を繰り返して今に至ったのであり、我々も当然改善改革をして次代に引き渡さなければならない責務がある。それが持続可能ということでもある。
またそのことは外から言われて嫌々やるものではないし、岩盤にドリルで穴をあけるといった過去の歴史、積み重ねを粉々にするといった手法でない。あくまで過去の積み重ねの上にあたらしい既成事実を積み重ねていくことである。それが私たちの本当の自己改革である。
さあ、青年部のみなさん、あなたがた若者の出番です。そしていまは絶好のチャンスなのです。若さと行動力、協同の力で農業新時代を切り拓いてください。
幸い私の集落にも、この集落が好きだ、この集落で農業がしたいと野菜作りに挑戦している青年がいてくれます。協同の力でしっかりと支え、応援していくつもりです。
(参考書籍)
・「農地を守るとはどういうことか」 著者:楜沢能生 出版:農文協
・「評伝 宮脇朝男」 著者:大金義昭 出版:家の光協会
この記事の前編は、若さと協同の力で切り拓け農業新時代【村上光雄・JA三次元代表理事組合長】(前編)をご覧ください。
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(2025年1月1日付)2024年11月21日
-
【地域を診る】調査なくして政策なし 統計数字の落とし穴 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年11月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
-
加藤一二三さんの詰め将棋連載がギネス世界記録に認定 『家の光』に65年62日掲載2024年11月21日
-
地域の活性化で「酪農危機」突破を 全農酪農経営体験発表会2024年11月21日
-
全農いわて 24年産米仮渡金(JA概算金)、追加支払い2000円 「販売環境好転、生産者に還元」2024年11月21日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
JAあつぎとJAいちかわが連携協定 都市近郊農協同士 特産物販売や人的交流でタッグ2024年11月21日
-
どぶろくから酒、ビールへ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第317回2024年11月21日
-
JA三井ストラテジックパートナーズが営業開始 パートナー戦略を加速 JA三井リース2024年11月21日
-
【役員人事】協友アグリ(1月29日付)2024年11月21日
-
畜産から生まれる電気 発電所からリアルタイム配信 パルシステム東京2024年11月21日
-
積寒地でもスニーカーの歩きやすさ 防寒ブーツ「モントレ MB-799」発売 アキレス2024年11月21日
-
滋賀県「女性農業者学びのミニ講座」刈払機の使い方とメンテナンスを伝授 農機具王2024年11月21日
-
オーガニック日本茶を増やす「Ochanowa」有機JAS認証を取得 マイファーム2024年11月21日
-
11月29日「いい肉を当てよう 近江牛ガチャ」初開催 ここ滋賀2024年11月21日
-
「紅まどんな」解禁 愛媛県産かんきつ3品種「紅コレクション」各地でコラボ開始2024年11月21日
-
ベトナム南部における販売協力 トーモク2024年11月21日
-
有機EL発光材料の量産体制構築へ Kyuluxと資本業務提携契約を締結 日本曹達2024年11月21日