JAの活動:挑戦・地域と暮らしと命を守る農業協同組合 女性がつくる農協運動
女性だからできる活動で食と農、地域をつなぐ【宮永 均・JAはだの専務理事】2019年1月16日
神奈川県のJAはだのは総会に准組合員の出席を認め、事業において准組合員も正組合員も同等に扱っており、地域で存在感を高めているJAだ。その基盤には、都市化が進む中で、食と農を通じた地域活動を地道、かつ幅広く展開している女性部の存在がある。同JA宮永均専務理事に、女性部がいかにしてJAの運営に参加・参画してきたか、またその意義を報告してもらった。
◆男女平等 農村にも
地域社会に貢献する女性たちが増加している。近年、自分の意欲や能力を社会で生かすためにボランティアや社会福祉団体などで活動する人が増えてきた。子育て支援や子ども食堂の運営、高齢者・介護施設のサポートなど活動は多岐に渡っている。
1945年、女性は法律上男性と同等の地位を獲得することとなった。しかし依然として男性の権限は強く女性の地位は低いままであった。都市部では女性に対する差別を撤廃するため、男女平等人権思想を中心に婦人の社会的地位の向上を目指した社会運動が高まり始め、都市部における婦人の社会的地位向上の動きは前近代的な性格が強く残る農村部にも次第に波及して行く。農協における婦人の地位向上運動の一翼を担ったのが農協婦人部である。
(写真)JAはだの女性部のふるさと料理教室
◆女性の社会進出進む
JAはだのは、1963年秦野市内にあった7つの農協のうち5つが合併して誕生、組合員は2560人(正2208人、准352人)でスタートした。その後、1966年に残り2つの農協が合併し1市1農協となった。1947年制定された農協法では男女を問わず組合員加入ができたが、組合員の大半は世帯主である男性で、女性が組合員になることは秦野でもなかった。
一方では、1963年の合併と同時に誕生した秦野市農協婦人部には組合員家庭の主婦が全員部員であるという考え方であったため、部員は2500人加入していた。1966年の二次合併では3900人まで増加した。当時は生活購買を活動の中心とし、出回り始めたインスタントラーメンや菓子類の扱いも行われた。また同じころ、活動の充実をはかるために生活指導員を設置し、各種講習会が活発に行われるようになった。兼業化が進む中、肥料や農薬についての学習会が開かれるなど農業を営むうえで女性が重要なポジションにあることが浸透し始めたことがうかがえる。
他方では、美容講習やふとんの綿入れ変えなどの講習が人気で、女性の社会進出が着実に芽生え始めてきた。1968年には冠婚用貸衣装の開始や葬儀などの簡素化運動が始まり、さらに翌年には移動購買車の稼動がはじまるなど、婦人部員の意見要望が反映される事業が展開されるようになった。
◆教育文化活動広がる
1970年農協大会で決議された生活基本構想は、農協は農業生産と生活を守り向上をはかる使命があるが、都市化の進展により農業や農家の農業生産活動だけでは組合員の期待に応えることはできないとして、農協が組合員の暮らしと直結した積極的な取り組みを提起した。農協婦人部を中心とした生活活動が活発化し、部員は1975年に3300人になった。
このころ教育文化活動が盛んになり、「家の光」をテキストに講座などの学習会や生活文化活動が活発に行われた。また、同じころ「家族ぐるみで健康診断を」を合言葉に総合検診が始まり、婦人部活動の重要な位置を占めるようになった。
48年間が経過した現在では部員は2300人減少し、おおよそ1000人となっている。この間JAグループの女性参画の取り組みは、1979年全中総合審議会答申で一戸組合員という考え方を基本としつつ農業経営を実質的に主宰するか、または農業経営の一部門を分担し、これを主宰している青年婦人については組合員加入をすすめ、さらに1986年に開催された第18回全国農協大会では、後継者・婦人の正組合員加入等農協運営への参画を促進し、運動主体の幅を広げ、新たな世代や婦人の意向が反映できる、若く活力のある組合員組織とすることが決議された。
この間、生活環境の大きな変化もあり、部員や生活購買事業の取扱いなど年々減少していったが、新たな活動として環境問題や衣料のリフォーム、料理といった幅広い講習会や趣味グループが誕生するなど時代の変化に伴い多様な活動に変化していった。さらにボランティア活動や子育て支援など女性ならではの活動も始まり、JAにおける女性の地位は確実に向上していった。
(写真)宮永 均・JAはだの専務理事
◆「戸」から「個」へ
1991年第19回全国農協大会において、農業後継者・農家婦人について目標を設定し、正組合員への加入促進と併せて青年・婦人層の意思が農協の運営に反映できるよう、青年部・婦人部等から総代・理事への選出をすすめることが決議され、JAはだのでも女性部から選出された女性理事が1994年に誕生した。その後、2003年には2人、2009年には3人、2016年には6人と増え、現在役員の女性割合は16.67%となっている。
1994年第20回JA全国大会で「組織基盤強化の拡充と活性化をはかるため、従来の「戸」中心の考え方から「個」重視に改め、農業後継者・婦人の正組合員加入をすすめること。青年・婦人層に開かれた組織運営をすすめるため、青年・婦人代表の参与・総代・理事への就任と青年・婦人部員の営農・生活等各種委員会への参加をすすめ、併せてJAにおける事務局体制を整備し、青年部・婦人部の諸活動を支援するなど、一体的な活動を強化することが決議された。
また1997年第21回JA全国大会では、JA組織基盤の拡充強化・活性化を目指して、青年・女性等の正組合員加入、安定的事業利用者層に対する准組合員加入を促進するともに、組合員利用者の多様な組織化、青年・女性層のJA運動への参画促進、各層のJA運営への意思反映を強化と営農・女性層のJA運動の中核的な担い手である青年・女性層のJA運営への参加を促すことが決議された。
JAはだのでは上記の決議を踏まえ、2003年から組合員増加運動に取り組んでいる。組織基盤の強化と女性の正組合員化を大きな柱に実施してきた。現在女性の加入割合は正組合員が30%、准組合員が35%となり、JAはだのにとっての女性組合員は、事業運営や運動の上でなくてはならない存在となっている。
◆地産地消で地域の食文化を伝える
JAはだの女性部の素晴らしさは、なんといっても食と農と地域をつなぐ愚直な活動である。食農教育や食育の必要性が叫ばれて久しいが、JAはだのでは次世代を担う子どもたちをはじめ、すべての世代を対象とした「職能食農教育」に力を注ぎ、さまざまな取り組みを実践している。これからも地域や学校、家庭を通じて食と農の大切さを訴え続けていく。
JAはだのが実践する食農教育は、食と農、地域と自然環境の関わりを重視するとともに、農産物が命を育み、成長して行く過程を大切にしている。食への関心や興味を高め食の大切さ食を支える農の役割、地域の食文化などに対する理解を広げ深めることを目的としている。地産地消の発信拠点「はだのじばさんず」では、食料自給率(カロリーベース)の低下などが問題になっている中、秦野産、国産品のみを扱い地産地消の発信地としての役割を担っている。
地産地消は、地域農業の振興と地域の活性化、地元の産物の拡大だけでなく自然環境の保全にもつながる。環境を考える計算指標として、フードマイレージやバーチャルウォーターがある。どちらも地球環境に負荷をかけないための計算方法だ。地産地消をすすめることが農と自然環境との調和をはかり学ぶことにつながる。
JAはだの女性部では、市内の幼稚園に通う園児の母親を対象にふるさと料理教室を開いている。これは、秦野の農産物や手作りの味を紹介し、秦野に伝わるふるさとの味を地域に伝えようと開いているもの。秦野産のそば粉を使った手打ちそばや桜漬を使った蒸しまんじゅうなどのレシピを伝授している。秦野に伝わるレシピを集めた料理本「伝えたい秦野ふるさと料理集」を発刊し四季ごとの料理や落花生、そばなどを使ったレシピ全84品を掲載し大好評を得ている。核家族化が進む中、秦野の特産品を使ったふるさとの味を一人でも多くの人に伝え、地域の食文化に理解を深めてもらえばと期待をして取り組んでいる。
◇ ◇
一時は部員1000人を下回ってしまった女性部であったが、ここ数年は少ずつではあるが増加している。これは女性部員によるイベント等の応援隊(サポーター制度)を2017年から取り入れたことで、部員が自ら運営に参加できる仕組みが受け入れられている。役員の負担軽減や部員同士のつながり強化や活動のやりがいが生まれるなど成果が出ていると言えよう。女性だからできる活動をこれからも大切にし、いきいきと楽しい「JAはだの女性部」がこれからも輝き続け、ますます活躍することを期待している。
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