JAの活動:挑戦・地域と暮らしと命を守る農業協同組合 女性がつくる農協運動
【新春問答】変わろう!変えよう!農村女性が輝く社会へ 大金 義昭氏×姉歯 曉氏(2)2019年1月22日
・駒沢大学教授姉歯曉氏
・文芸アナリスト大金義昭氏
抜けきれぬ男性社会
生産性優先で再強化
大金 農畜産物自由化や少子高齢化の流れが加速して自給率が38%まで落ち込み、独立国家といえるのか、というような構造をつくってしまっていますが、怒りを行動に表す状況が生まれていないように思うんですね。
農業・農村をめぐっては、押しつけられた「遅れの重層構造」のようなものがある。「市場経済化・経済成長・生産性向上」といった一辺倒の物差しで、農業・農村は工業・都市よりも立ち遅れている、という語られ方がされてきた。女性は男性に遅れている、お嫁さんはお姑さんから何もできないじゃないかと叱られる。農家の女性は、この重層構造の最底辺で苦しめられてきたんじゃないか。
姉歯 まさに大金さんがおっしゃる「遅れの重層構造」に締め付けられ、農家の意欲ある女性たちが力を失っていく、そういう過程が「女の階段」の投稿から読みとれるんです。生産性は、無数にある物差しの中の、経済効率という視点に立ったときのひとつの物差しにすぎません。生産性が上昇することが良いことともいえません。
生産性で語ってはいけないものの方がこの世の中には多いのです。それなのに、農家女性が、そして家族の中では嫁が生産性で語られるわけです。人間まで生産性で語られることに心底怒りを感じます。
私が話を伺った女性のみなさんは、農業に希望と情熱を持って農家に嫁いでいます。自分が大事な食を支えなければと期待に胸を膨らませていたと皆さんがそう言います。そういう女性たちの思いを押し返し、諦めさせてしまったものは何だったのか、それが男性中心の家制度から脱却することなくきてしまった日本の農業の限界性でした。低賃金で国際競争を有利に戦うために、農業は安い農産物を提供してきました。しかし、それはただ働きを強いられる女性の労働を犠牲にして可能となったものだったのです。
もしこの時代を生きる女性たちが、憲法が保障する男女平等の社会を謳歌できたなら、社会の主役としてどれほど活躍する機会を得られただろうかと考えると、涙が出るほど残念です。
大金 日本は先進国でありながら、たとえば世界経済フォーラムが発表した「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」によれば、調査対象国149か国中110位と、最低ランクを低迷していますが、なぜ女性が踏み台にされたままの状態が続いてきたのでしょうか。
姉歯 社会学の研究者が指摘するように、支配層が恐れるのは外国からの侵略よりむしろ自国の内部にいて抑圧を受けている被支配層からの逆襲です。そういう人々が面と向かって抵抗してきたら大変です。だから最も好ましいのは、そういう人々が抵抗する気を無くせば良いわけです。
弾圧、抹殺されたくなければ自分で自発的に統制を受ける、逆らわなければなんとか平穏無事に生きていけると思い込ませればよい。あるいは、こうして差別を受けるのは、自分が劣っているから当たり前だと思わせる、そういうシステムを作り上げる、そのために手を変え品を変え支配層が作り上げてきたフレームワークの中に置かれている、それが今の日本の女性の姿なのだと思います。
大金 伝統的な女性観や家族観あるいは支配の構造から、日本人が容易に抜け出せないでいる。女性に対する社会的評価が低いために、女性の自己評価も低い、ということですかね。
姉歯 女性だから子どもが好きなのは当然だとか、子どもを産み育てる性なんだから同じように義父母も含めて言うなれば他人の家族にも愛情を抱くのが「普通」だというように、女性にはいろんな修飾句が付されます。それをひとつでも否定しようとすると、女性であることを超えて人間として不十分だ、という評価が下される。
そういう環境では、女性たちは、生涯、子どもや家族と別立てで自分の人生を切り開き、自立して生きることができません。
大金 著書の第6章「農家女性を追い詰める『日本型福祉社会』」がよみがえるんですが、公的介護を縮退させるために、結果的に女性に居宅介護を押し付け、家庭の不幸をもたらしていると、そうした問題を家庭から取り除けば、家族同士が愛情によって直接結ばれると紐解いておられる。なるほどと得心したんです。
姉歯 いくら家族で愛情を持っていても、世話する相手から暴言を浴びせかけられ、24時間休みなく相手をしなければならない状態では、家族間の虐待が生じるのも当然のことです。ひとりひとりが自立して自分のやりたいことのために時間を使い、介護のストレスを解消していく環境があれば、家族は愛情だけで結びつくことができます。そういう環境を作ることは、先進国であればできないはずがないんです。
大金 農業や地域を活性化させるには、女性の自己評価を高めることが大切だと思うんです。農業も介護も現在の政治・経済構造の中で、最も弱い立場にある女性に矛盾をしわ寄せしてしまっている。女性が立ち上がり、男性が意識を変える契機をどのようにつくり出せるでしょうか。
姉歯 自己評価を高めるには成功体験を重ねるのが重要ですね。加えて、きちんと政治に対峙することを忘れてはいけないと思っています。今、農家の女性は身近なところで自己実現を図ろうと思っても、うまくいかない時代になっています。グローバル企業やその利益を守ることに専念する政府との闘いをせずに、6次産業(農業や水産業などの1次産業が食品加工・流通販売にも業務展開している経営形態)に参画するだけではダメだとJAは言うべきです。6次産業の分野に生産者がそのまま乗り込んでいくだけでは、これまで地元の流通業や宿泊業が持っていた市場シェアの分を引き受けるだけの話です。
重要な記事
最新の記事
-
作物病害の原因となる植物群落の結露と気象条件の関係を定量化 農研機構2025年3月10日
-
JA貯金残高 108兆2105億円 1月末 農林中金2025年3月10日
-
米価下がる見通し 関係者の判断 大幅増 米穀機構調査2025年3月10日
-
花き振興部会第36回総会を開く JA鶴岡2025年3月10日
-
福島県白河市 美味しくて自慢の農産品が東京に集結 販売会開催2025年3月9日
-
農機自動操舵システム「FJD AT2 Max農機自動操舵システム」販売開始2025年3月9日
-
日本の食をデザインの力で世界へ届ける「農業デザインチャレンジ 2025」開催2025年3月9日
-
鳥インフル 米ニューヨーク州、ペンシルバニア州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年3月9日
-
森光牧場が挑む宮崎ハーブ牛の生産と持続可能な畜産の未来『畜産王国みやざき』2025年3月9日
-
新潟県産いちご「越後姫」東京・銀座で食べ放題イベント開催2025年3月9日
-
自然派Style特選丸大豆醤油「豊穣の恵」うすくち新登場 コープ自然派2025年3月9日
-
山形県庄内地域から「ゆざのチビちゃん丸もち」生産参加と取り扱い開始 生活クラブ2025年3月9日
-
共栄火災スポーツフェスタ「海の中道はるかぜマラソン大会」開催2025年3月9日
-
家族で楽しく「物流・ITおしごと体験」4月の事前予約受付中 パルシステム2025年3月9日
-
温暖化に対応したミカンとアボカドの適地予測マップを開発 農研機構2025年3月9日
-
【人事異動】J-オイルミルズ(4月1日付)2025年3月9日
-
「野菜ソムリエサミット」3月度「青果部門」金賞13品など発表 日本野菜ソムリエ協会2025年3月9日
-
本日10日は「魚の日」国産若うなぎ長焼きなど60商品を特別価格で販売 JAタウン2025年3月9日
-
シンとんぼ(132)-改正食料・農業・農村基本法(18)-2025年3月8日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(49)【防除学習帖】第288回2025年3月8日