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【新春問答】変わろう!変えよう!農村女性が輝く社会へ 大金 義昭氏×姉歯 曉氏(1)2019年1月22日

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・駒沢大学教授姉歯曉氏
・文芸アナリスト大金義昭氏

 戦後、農村とりわけ農家の封建的な家制度は否定されたものの、「家」の嫁の立場は変らず、その矛盾と苦しみを彼女たちは日本農業新聞の「女の階段」に投稿してきた。そこには、まさに農村女性の戦後史がある。いま女性は、自由に自らの意見を言い、行動できるようになったのか。この投稿を分析し、『農家女性の戦後史』を著した駒澤大学の姉歯曉教授と文芸アナリストの大金義昭氏が語り合った。

 大金 珍名同士の「新春問答」になりますね。どうぞ宜しくお願いいたします。
 農村女性の肉筆や肉声などを中心に編さんした拙著『風のなかのアリア~戦後農村女性史』(ドメス出版)から干支でおよそ一回り。女性自身による新著『農家女性の戦後史~日本農業新聞「女の階段」の五十年』(こぶし書房)が登場し、大変うれしく思いました。鋭利な戦後分析も見事ですね。上梓されたいきさつを伺えますか。

【座談会】駒沢大学教授 姉歯 曉さん 、文芸アナリスト 大金 義昭さん

(写真)左から、文芸アナリスト大金 義昭氏、駒沢大学教授 姉歯 曉氏

 

◆「女の階段」がつづる戦後農村女性の歴史

 姉歯 はい。 編集者から『日本農業新聞』の投稿欄「女の階段」をまとめた手記集を読んでみてほしいと紹介されたのが始まりです。日々のくらしの中の葛藤、農政への怒りや嘆き、それだけではなく、農業を通じて距離や年代を超えて結びつこうとする女性たちのパワーに惹きつけられ、是非本にまとめたいと思いました。

 

 大金 「女の階段」は1967年に『日本農業新聞』のくらし面に開設されました。このコラムは、家や地域のなかで思ったことが十分に口に出せないような時代に、農村女性の本音を綴る"社会に開かれた窓"のような役割を果たしましたね。投稿者同士のネットワークも全国に広がったこの動きをどのように思われましたか。

 

 姉歯 「女の階段」の初期に投稿していた女性たちは、戦後すぐに結婚した世代です。新憲法のもと、やっと家制度が完全に否定され、女性たちの人格が認められたことに全身で喜びを表した、そういう世代です。終戦直後に20代を迎えた年代の女性たちのうち、新聞を読み、投稿ができたのは比較的恵まれた家で教育を受けた女性たちでした。幼い頃から本を読み、文章を書いてきたのに、農家に嫁いだ瞬間にペンを取り上げられたのです。女性たちは、これからの時代、自由に発言し、生きていけると思っていましたが、実際にはそうはなりませんでした。
 本を読むことも文章を書くことも、怠惰な嫁のやることとみなされた時代です。その葛藤や締め付けられるような思いを誰かに聞いてもらいたいけれど、家族や地域ではそんなことはとても許されませんでした。そんな中で、この投稿欄に思いを吐露し、同じ思いを持つ全国の仲間を見つけることができたことが、どれほど女性たちを勇気づけたでしょうか。

 

 大金 文章を書いたり読書をしたりすることが農村では"異端児"と見做され、男性でさえ長い間認められなかった時代が続きましたからね。「そんな暇があったら田を作れ」というのが農村の「常識」でしたから、女性がペンを握るためには勇気がいった。その意味では女性自身の闘いでもあったろうと思います。「女の階段」をきっかけに女性が自分自身を開いていく様子に触れ、これは研究対象になるのでは、戦後史が語れるのでは、と思われたんですか。

 

 姉歯 そうですね、初期の投稿には家制度や農政への怒りや嘆きと一緒に農業への希望や夢が見られます。それが段々農政への怒りも遠のき、皆「農政は手の届かないところに行ってしまった」と口走るようになりました。いつから、なぜこうなったのか、農と食を守るんだと希望に燃えていた女性たちの障壁となったものは何か、未来の農業のあるべき姿を見通すためには、農業や農家女性たちが辿ってきた歴史的変遷をきちんと戦後史の中で読み解いていかないといけません。
 それに、これは農家女性たちだけの話ではありません。この本を読んで、まるでどこか他の国のことが書かれているようだと言われることがあります。私も最初、投稿を読んでいて同じように感じました。でも、目を凝らせば私たちの周りにもまさにそのままの形で、あるいは少しだけ形を変えて存在していることに気づくはずです。働き、家事・育児・介護を担う、そういう女性たちの抱える問題が凝縮して現れる農家の女性たちから多くのことを学ばせてもらいました。

 

 大金 なるほど、そんな著者の思いが、戦後分析の行間にも感じられます。食糧増産時代の後、特化していく米の生産調整が出てくる、高度経済成長がらみで公害問題なども発生するという追いかけ方をされていますが、当時は怒りの矛先が目の前に見えていました。現在は問題がグローバル化し、途方に暮れているような状態じゃないかなと思うんです。その辺はどのようにとらえましたか。

 

 姉歯 おっしゃるとおりです。私は、80年代が大きな節目になっていると見ています。もちろん、それ以前から財界も政府も基本的には自由貿易志向でしたが、それまでは体制維持のために労働者や農民に対して一定の妥協を許してくる余力がありました。そんな妥協も許されなくなるほどのシリアスな状況が表面化したのがこの時期です。真っ先に農業が切り捨てられていくことになります。
 自民党内部で農林族議員さえ排除される事態になったとき、本当はこの時点でJAは切り捨てられたのだと自覚して反撃に出なければならなかったのです。それができないまま今まできてしまった。農業がグローバル企業のために捨て去られることが決定的になった瞬間というのがあの時代だったと思います。
 農家の女性たちが「政治が遠くなってきた」と感じたのもちょうどこの時期です。それまでまがりなりにも米価引き上げや補助金獲得に力を貸してくれた地元の議員が、今や世界はグローバル化しているんだからこれからはそうはいかないと言う。グローバル化しているから日本一国では何も決められないと言われれば農家は反論できない。
 そうか、グローバル化は世の常だから仕方ない。農家もそう思わされるわけです。こうして、FTA、TPPが次々と国会を通っていってしまう状況になだれ込んでいくのです。本来であればFTAやTPPの問題に対しても、かつての米価闘争のようにJAが率先して反対のための大集会を開かなければならなかったはずです。

 

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