JAの活動:食料・農業・地域の未来を拓くJA新時代
【現地ルポ】JAこばやし(宮崎県) 災害時に真価発揮 肉牛の産地トップ築く2019年7月17日
-わがJAグループが目指すもの-
危機のときほど協同組織はその真価を発揮する。相次ぐ大きな自然・社会的災害に対してJAこばやしと組合員がとった対応は、そのことをよく教えている。牛の口蹄疫、そして新燃岳の爆発的噴火、その間の何度かの大型台風と、JAこばやしは大きな災害が相次ぎ、基幹品目である畜産と野菜、それにお茶が大きな被害を受けた。この危機を克服する過程で、JAと組合員の一体感の強さを改めて確認し、地域共生社会の実現をめざす取り組みへの自信を深めている。
「市場に子牛をつれてくるのは若い人が多い」と売参人は感心する(小林家畜市場のせり)
宮崎県は〝台風銀座〟と呼ばれる台風常襲地帯だが、平成22年の口蹄疫の発生、さらに鹿児島県と接する霧島連山の新燃岳が爆発的噴火を起し,大量の火山灰をばらまいた。いずれも想定しなかった大きな災害であり、JAはその対応に追われた。口蹄疫が確認された時は、ちょうど家畜市場でセリが行われていた。ただちにセリを中止し、移動ができない牛400頭以上をJAと西諸県地区連が預かって飼育した。
◆職員が真っ先に支援
また新燃岳噴火の時も、避難命令が出た地区の牛、約300頭を畜連の施設に預けたり、仮設の畜舎などに移動させたりした。新燃岳周辺はお茶の産地でもあり、広範囲の茶畑が降灰を被った。JAではただちに支援を決め、茶葉を洗う機械を導入して乗り切った。このような危機に対し、ただちに困っている組合員を支援するという、JA役職員・組合員一体となった取り組みが、今日のJAこばやしの組織運営・活動のバックボーンになっている。
平成28年の熊本地震のときもそうだった。大きな地震の3日目、週明けの定例会議でただちに救援を決め、現地の様子も分からないままアポもとらず、被災地で必要と思われる米、肉、パン、テント、炊飯釜などをかき集め救援トラックに詰め込んだ。現地に着いた第1便と連絡をとりながら、その都度必要な物資を聞き、第2、第3便を出した。
1か月ほど続けたが、坂下栄次組合長は「口蹄疫や新燃岳では全国のJAや食肉卸などのみなさんに助けられた。その恩返しの思いもある」。その気持が、考えるよりまず行動から始まった。
降灰を除去に職員が真っ先に駆けつけた
新燃岳噴火の時も,降灰で困っている農家の支援に真っ先に駆けつけたのはJAの職員だった。ビニールハウスの屋根に積もった降灰は、早く取り除かないと付着して除去できなくなる。各自が動力散布機を持参し、普段、JAを利用しない生産者も区別することなく除去した。「何度も台風を経験し、職員の間にはこうした行動が身についている」と坂下組合長は振り返る。
JAこばやしは、「まず,農家の経営を先に考える」(坂下組合長)が基本方針。この考えで,災害の多い地域ならではの、農業再生産緊急対策を実施している。将来の地域農業の礎を築くため,協同組合として、農業再生産を確かなものにしようというもので、繁殖では優良素牛の更新と増頭、飼養経費の圧縮、肥育では素牛価格高騰への対策などを組み込んでいる。
具体的には肉用牛経営安定のため,JAが子牛を購入して繁殖センターで育て、妊娠した雌牛を農家に払い下げる事業を行っている。確実に妊娠しているので、繁殖農家は安心して飼養できる。さらにJAが牛舎や堆肥舎などをつくり、農家に貸し出す方法も行っている。肉用牛経営の農家の投資リスクを押えようというものだ。
同組合長は「1頭の種雄牛をつくるのに5年はかかる。肉用牛は繁殖と肥育農家が協力しなければ産地を持続することができない。10年先を見越し、安全で安心できる産地をつくっていかなければならない」と言う。それが農家経営の支援に現れている。
◆直営農場を司令塔に
こうした事業を展開するうえで、JAが自ら認定農業者になって、その範を示している。
直営の農場「JAファーム」はその取り組みの一つで、畜産産地における小規模・高齢畜産農家への粗飼料供給体制の確立による飼養頭数の維持に努める。さらに耕作放棄地を活用したWCS(稲発酵粗飼料)、コーンロールの作業受託・販売、露地園芸作物の導入など、地域農業振興に向けた司令塔としての機能を持つ。
また園芸では平成30年の対策で、噴火被害に対し、秋冬飼料作物種子代の20%助成、加工ビニール一部助成などを行った。そのほか台風被害に対しても、加工大根のまき直し、サトイモの疫病防除など、こまかく支援している。
農業再生産緊急対策では、平成30年度では9669万円の予算を計上した。うち優良繁殖牛更新では1頭5万円で1580万円のほか、園芸関係で霧島連山噴火降灰被害、台風24号被害で3464万円の支援を行った。
スタートした平成16年から投じた支援は約18億5000万円に達する。このような地道な取り組みで、現在、和牛飼養頭数1万6500頭あまり、子牛市場の取り扱い1万2619頭と、全国第4位の産地になり、全国和牛能力共進会で宮崎牛が3年連続の全国制覇に結びついた。
肉用牛は地域の基幹産業であり、行政とも密接な連携をとっている。小林市には全畜種の飼養農家を対象とする市内8地区の畜産振興会で構成する小林市畜産振興連合会がある。また、肉用牛の育成、不受胎牛のリハビリ、緊急時の一時預かり施設、それに受精卵センターを備えた市営牧場があり、肉用牛を中心に小林地区の畜産を支えている。
さらに小林市には「きりしま農業推進機構」がある。JAや行政機関・関係団体、農業者などが一体となって地域農業ビジョンの作成、実現を支援する。そこでは集落営農づくりも進めている。現在,JA管内には22の集落営農があり、ほぼ全域をカバー。JAは各組織の事務局に職員を配置するなど、組織の育成に力を入れている。
◆役員は認定農業者が
JAこばやしの農産物販売高は平成30年度約220億円で、うち畜産が約180億円。全体で3年連続210億円を突破した。組合員は平成30年度末で8881人。うち正組合員は5382人。部会や協議会など35の部会があり、そのなかで作物別部会が30近くを占める。
またJA職員512人のうち、営農指導員45人を配置。「『営農なくしてJA無し』の経営理念のもと,常に組合員目線で現場主義に徹し、営農を基軸にしたJA運営に努めている」と坂下組合長。同JAの理事のほとんどが認定農業者となっており、各地区で行われる牛の品評会でも非常勤の役員が現場で活躍している。
(写真)坂下組合長
◎若い担い手育成を
JAこばやし肥育牛部会長 坂下信雄さん
単年度で9600万円の農業再生産緊急対策の支援で、多くの災害を乗り越えてきた。管内の農業は畜産が中心で、JAこばやしは畜産農協といってもいいくらいだ。生産者の高齢化を防ぐとともに、異業種からの参入者に対し、就農しやすいように農協はその受け皿となって、若い担い手を育ててほしい。180頭飼育しているが、枝肉価格が高水準にあり、農協と一緒に宮崎牛の知名度アップに努めたい。
◎先の先を読んだ対策
西諸県郡市和牛振興会副会長 今村鉄男さん
先の先を読んだJAの指導は心強い。振興会の会員や組合員の大先輩の指導を受けてきた。口蹄疫のときは、産地を維持するには子牛の確保が重要で、1頭当たり5万円の農業再生産緊急対策による繁殖雌牛更新の支援などに助けられた。先の先を読んで産地を維持する農協の指導があってのことだと思っている。常に生産者に近いところで、これからも心のふれあえる農協であってほしい。
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