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JAの活動:食料・農業・地域の未来を拓くJA新時代

「若手のホープ」に聞く 食と農と地域、JAへの思い (上)22019年7月19日

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大金義昭(おおがね・よしあき)大金義昭(おおがね・よしあき)

1945年生まれ。
栃木県宇都宮市在住。社団法人家の光協会編集局長、国際協力機構(JICA)専門家などを務める。主著に『野男のフォークロア』『農とおんなと協同組合』『風のなかのアリア 戦後農村女性史』『評伝宮脇朝男』『常野記』など。

 

◆効率を求めて畑を壊す 仲間と議論し共に成長

 大金 飯野さんは技術の継承という点で、父親との関係に後悔の念があるとおっしゃっていますね。

 飯野 ふわふわした気持ちで就農し、4Hクラブ(農業の将来を担う20~30代の青年が中心)に所属していたのですが、仲間たちがすごく効率の良い仕事をしている。それに比べると親父はそうそう金にもならないのに、頑固に「古典芸能」のような時代遅れとも思える農業を苦労しながら守り続けている。
 そこで、新しい作物なら僕に任せてもらえるかと聞いたんです。許しを得て小松菜を導入し、パートを採用して作付けを拡大しました。冬場はハウスがないからホウレンソウに切り替え、小松菜とホウレンソウでぐるぐる畑を回した。当時は高値で取引されていました。それで弾みがつき、生産量を増やしていったが、案の定、土を壊してしまった。
 種をまけば、作物は何の手だてもなくきれいに育つと見ていたのですが、自分のやり方を始めたら、畑がみるみる壊れていく。最初は畑が壊れるなんて思っていなかった。全部、天気のせいにしていました。雨が降ったから、台風が来たから、とね。

 黒田 分かる分かる。病気が多いとか、最初はその程度の認識なんだ。

 飯野 今年は虫が多いから、あの特効薬を使ってみようとか。作っても作っても経費が膨れ上がっていくだけで、資材の代金の引き落としやローンの返済日が来るのが怖かった。経営も雑ぱくでした。みな同じようにやっていたから悩みが一緒で、夜な夜なうちの納屋に集まって、ああでもない、こうでもないと議論しました。
 いま思えば、それが協同組合の良いところなんですね。何かに行き詰まったり壁にぶつかったりした時に、集まってみんなで議論する。議論が行き詰まると、誰かがその議論の方向は違うよとか、議論が堂々巡りしているじゃないかとか言う人が必ずいる。でも、そんな人を絶対に否定しない。そこに農協や青年部の根幹があると思うんです。そんな間柄によって、問題がひとつひとつ解決し、お互いが成長していく。
 同じメンバーで、今はたまにしか会わないけど、それはみんなの経営が順調の証しですから、それでいい。しかし、変化のスピードが速い現代は、雇用問題や規模拡大の悩みなどが早晩生じるに違いないので、その時はまたみんなでうちの納屋に集まって議論することになるのだろうと思っています。

 

サトイモ畑の飯野氏

サトイモ畑の飯野氏

 

 大金 当時の問題は結局、土づくりにあったのでしょうが、それはまた後でお聞きします。

 

◆農家を訪ね教えを乞う 学び多き青年部の活動

 黒田 私は就農して3~4年は「給料なし」でした。青年部に入り、飲み会があってもお金がない。クミカンで営農計画を立て、農協の監督下で営農していましたからね。だから青年部活動が苦手だった。彼女が出来て結婚しようにもお金がない。お金がなければ、世の中は何も出来ないんだと思った。そんな立場にいたから、誰よりも真剣に農協のことを考えたのだと思います。父にもいろいろ教わったけれど、父よりもはるかに立派な経営をしている素晴らしい人たちが、周囲にはたくさんいた。だから毎日のように、近所の農家を訪ね歩きました。みな親切に、何でも教えてくれました。

 大金 オープン・マインドですよね、先輩たちは。

 黒田 技術ばかりじゃなく、考え方も含めてですね。ちょうどそのころは国がWTO農業交渉をしていた時期で、結局妥結しなかった。国益を交渉で勝ち取れなかったのは、農業や農業者のせいだという言われ方をされ、そんなことはないと思いました。何の技術や知識もない自分が言われるなら、仕方がないし甘んじて受ける。しかし、経営を立派に展開している先輩たちが馬鹿にされているとしたら、とんでもないことだと納得がいかなかった。
 青年部に入っていたものの、青年部が苦手だったことは言いましたよね。それでも寛容な先輩たちに「いいから出てこい」「とにかく出てこい」と言われ続け、お金もないのにしんどいなと思っていたのですが、結局、あの先輩たちはきっと分かっていたのだろうと思う。このままこいつを一人にしておいては駄目だと。見放さないでいてくれた先輩たちのおかげで、今の自分がある。本当にありがたいですね。
 その後、JA全青協会長を務め、地元に戻ってどれだけ頑張っても、あの先輩たちに追いついた気がいまだにしない。農村で農業をやっていくことが、どれだけ大切なことかを教えてくれた先輩たちがいたことが、僕の宝であり財産です。

 

スイートコーン畑の黒田氏スイートコーン畑の黒田氏

 

 大金 その先輩たちから認められたい、という気持ちもあるんですか。

 黒田 そうですね。先輩たちが私を信頼し、頼ってくれるような人間になりたい。人間はそんなに強くない。青年部綱領などにより理念や理想を分かったとしても、それだけでその理想や理念に向かって走っていけるほど強いとは思えない。この人についていきたい、自分もあの先輩のようになりたいという身近な存在がいてこそ、行動の動機や勇気も生まれるのではないか。そういう意味で、青年部は人やリーダーを育てる学校なのだとつくづく思います。

 飯野 周囲とのジェネレーション・ギャップから孤立感を抱いていた自分も、同じような気持ちで4Hクラブや青年部の仲間たちに加わり、農業は生きる哲学なのだと学びましたね。先輩たちの言葉には力がある。農業体験に裏付けられた言葉は、ちょっと本を読んでいいなと感じた言葉とは違った重みや奥行きがある。僕はそんな先輩たちの言葉によって育てられたという気がする。

 大金 殺伐とした現代にあって、お二人とも「言葉の力」を信じている。それが魅力ですね。いのちを育む農業の魅力とも重なっているように思えます。

 

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