JAの活動:食料・農業・地域の未来を拓くJA新時代
「若手のホープ」に聞く 食と農と地域、JAへの思い (上)32019年7月19日
ーわがJAグループが目指すものー
座談会:黒田栄継(元JA全青協会長)×飯野芳彦(JA全青協参与)×大金義昭(文芸アナリスト)
◆いいのか規模拡大路線 多様な農業形態を追求
飯野 土は一見、同じように見えるけれど、種をまいてみると、片や生えない、片や生えるという真逆の現象が起こることがしばしばあります。そこで、土の中はどうなっているのかと考えていくうちに、結局、哲学になっちゃう。
黒田 まさにそうだと思う。優れた篤農家の視察先で話を聞く機会がよくあって、経営や技術や流通などの得意分野を勉強させていただいてきたが、必ず哲学的な話になるんですよ。みな宗教家みたいなんだ。あっ、そうか。行き着くところはそこなんだなと感じるのは、理想と現実のギャップを理解しているから、そのギャップを埋める思考が哲学になっちゃう。
大金 なるほどね。黒田さんが二宮尊徳の「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」といった言葉を引いて話されるのも、そんな事情と通じ合っているからかもね。飯野さんだって同じ。「現在の農地から得られる富は、先人の蓄積。現在の農地への施しは、未来のための蓄積」といった言葉を大切にしている。
黒田 わが家の経営はその後、頑張って好転させ、いまは弟が大学を卒業して1年半ほど就職した後に農業をやりたいと帰郷し、一緒にやっています。嫁いだ姉も同じ町にいて、私の家の仕事をしてくれています。父親からは、誰も「農業をやれ」と言われなかったけど、結局はみな農業に従事することになり、人手もそろったので怖がらずに、いろいろなことに挑戦することが出来るようになりました。
大金 26haの農地で、小麦・バレイショ・小豆・ナガイモ・ゴボウ・ユリ根・スイートコーンなど多種多様な作物を栽培し、十勝では珍しいタイプの経営展開ですね。
黒田 国が勧める規模拡大路線の農業だけが、農業ではないと思います。ビートにせよ、麦にせよ、バレイショにせよ、北海道では10a当たり10万円ほど稼げばまあまあという発想で、最近でこそ15万~16万円と少し上がってきていますが、本州では2~3haで数千万円稼ぐ人もいる。
飯野 私たちは露地で10a当たり年間70万円が目標で、100万円稼ぐ人もいる。
黒田 広島の視察に行った時は、ハウス1棟で4億円を稼ぐ人が、サンショウの葉を通年栽培していました。だから、いろんなやり方があっていい。十勝では畑作3~4品の輪作体系が定着しています。例えば麦4割・ビート3割・バレイショ3割というような作付け割合で栽培し、面積の規模が多少違っても生きていける。それが理想ですが、それではいつまでたっても26haの経営が、50haの経営にかなわない。僕のようなところは、いろんな工夫を凝らして、その課題を乗り越えていきたい。
大きいところは大きいなりに、小さいところは小さいなりに生きていくことが出来ずに、仮にみんなが面積を10倍の規模にしたら、農家戸数は単純に考えても10分の1になって地域が崩壊しかねない。町に子どもがいなくなることは、目に見えています。
人と違うことをすれば、いろいろな見方にさらされるけど、可能性があるならその多様性に挑戦したいとワクワクした気持ちで、就農した時からの面積を今のところ増やしていません。
飯野 全員が同じ土俵に立つ必要は、まったくない。
黒田 国もきめ細かな農政に転換すべきです。何で乱暴に、みんなが一斉に規模拡大路線を走らなければならないのか。農業経営の多様性、多様な農業形態の可能性を、腰を据えて追求すべきです。
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