JAの活動:女性に見放されたJAに未来はない JA全国女性大会
座談会:「報徳」の縁で姉妹提携 「違い」から学び合いへ(1)2020年1月27日
JAはだの女性部部長熊澤淳子さん
JAはが野女性会会長猪野正子さん
文芸アナリスト大金義昭さん
栃木県のJAはが野と神奈川県のJAはだの女性組織が、「姉妹提携」を結んで13年。片やイチゴを中心とする農業地帯、片や都市近郊の兼業地帯という「違い」を前提に、お互いの無いものを補いながら、より高みを目指し、交流を深めている。JAはが野の女性会会長の猪野正子さんと、JAはだの女性部の熊澤淳子さんに、それぞれの活動について聞いた。先輩から引き継いだ組織と活動を守り、次代へ引き継ぐこと、そのための人づくりの大切さを強調した。(進行役は文芸アナリストの大金義昭さん)
熊澤淳子さん(左)と猪野正子さん
◆専業農家の大黒柱に イチゴ作り小農教育
大金 JA全中の中家徹会長は「女性に見放されたJAに未来はない」と唱えておられる。その通りですね。激増する自然災害、家族農業を取り巻く厳しい経済・社会環境などを考えると、農業や地域や「協同組合としてのJA」が生き延びていくためには女性の力が不可欠です。しかし多くのJAでは、男性が相変わらず主導権を握り続け、女性はいまだに「縁の下の力持ち」の状態です。「女性なら引くな!」という気合いで、家庭でも組織でも地域でも、粘り強い取り組みがこれまで以上に求められています。
お二人のJAは首都圏にあって、それぞれが個性的で優れた組織・事業・経営の実績をあげ、女性組織同士も「姉妹提携」を結び、活発な交流を重ねてきました。そんな体験から具体的なお話をお聞きしたいと思います。自己紹介からどうぞ。
猪野 米・麦・大豆・ソバ・イチゴなどを作っています。飼料用米も含め、経営面積は150haくらいになります。人を雇い、2チームの作業班でこなしています。後継者も頑張っており、農地の貸し手である農家と一緒になって、「家族農業」として地域の農業や生活を守る農家でありたいと思っています。
自宅のある真岡市は二宮尊德が「仕法」によって村の再建に当たったところで、近くには二宮尊德桜町陣屋跡があります。報徳思想の影響でしょうか、夫は水田の水回りをしながら地区を巡回して見守り活動をしています。
イチゴは、夫の父が仲間たちとともに、昭和29(1954)年に足利市から導入しました。当時は苦労しながら地域に広めたようです。いまは私がイチゴ栽培を担当していますが、子どもたちの体験農業や高校生のインターンシップの受け入れなど、イチゴは現場での農業教育・食育の場として適しています。
大金 熊澤さんは、農業の環境と条件がかなり異なるようですが。
熊澤 その通りです。私は秦野市の山手にある農家です。生まれは群馬県の田んぼが広がる米農家だったので、こちらに嫁いで、坂が多いのと段々畑にはびっくりしました。「秦野」といえば葉タバコで知られていましたが、昭和59(1984)年ころには全部なくなり、嫁いだ当時は義父母が畑でラッカセイやサツマイモ・サトイモなどを作っていました。農作業はしなくてもいいよと言われていましたが、そういうわけにもいかず、軽トラックで出荷を手伝ったり、ウメを始めとしていろいろな作目を導入したりしてきました。
鳥害がひどいので、8年前には鳥の嫌がるニンニク作りを始めました。女性部の繋がりで固定客ができ、半分以上は顧客販売でした。3年ほど前からは、3か月で収穫できる葉ニンニクを取り入れました。
傾斜地が多くて危ないので、夫からトラクターの運転だけは止められていますが、刈払機での段々畑の草刈りなど、必要な農作業はほとんど全部やっています。自営業の夫は、日曜日に農作業する程度で、直売所出荷のことも農業のことも地域のことも、私がいないと何も分かりません。お蔭さまで、家庭内のことも含めて時間のやりくりがうまくなったかなと思っています。猪野さんに比べると猫の額ほどの農地ですが、精一杯やっています。
大金 "三ちゃん"農業から、まさに母ちゃんだけになった"一ちゃん"農業ですね。女性の支えがないと地域の農業が成り立たないという実態がよく分かります。
猪野 猫の額といわれますが、女性が頑張っていることに規模は関係ありませんね。夫が定年になると妻が農作業を指示することになるのでしょうが、男も女も関係なく、その時に必要な人が頑張るしかありません。
大金 秦野市は盆地で、農地の多くは山沿いの傾斜地にありますよね。耕作放棄地や鳥獣害などが増えているのではありませんか。
熊澤 耕作放棄地が大変なことになっています。数年、放っておくと木が生えてきます。茶園も放棄されたところが多く、放置された茶園で、大木になった茶の木を見た時には驚きました。
猪野 私のところは全く逆に平坦地で、田んぼの区画は30アールから50アール、1haのところもあります。大型機械がどんどん入っています。
大金 熊澤さんは兼業農家の担い手として、猪野さんは大型専業農家の大黒柱として、それぞれ経営に責任をもってご自分の役割を果たしておられる。農業形態の違いを超えて共通するところが沢山ありますね。猪野さんはマネジメントなど、ご夫婦の話し合いはどのようになさっていますか。
猪野 主に食事の時ですね。特に昼食時間はしっかり取って、息子も経営者になっていますので、3人でみっちり話し合っています。
◆農作業は何でもこなす 義母と交代で女性部へ
大金 お二人とも、地区外から嫁いでこられ、女性会の会長や女性部の部長を務めておられるのですが、JA女性組織との最初の出会いはどのようなきっかけだったんですか。
熊澤 生まれ育ったのが農家で母が農協婦人部に入っていて、嫁ぎ先でも義母が部員でしたから、当時の農協婦人部のことは知っていました。子どもが3歳のころだったでしょうか、義母から子どもの面倒はみるから婦人部員を交代しようと言われました。参加すると、あなたは若いのだから役員をやってくれと言われ、班長になりました。
当時、班では車の運転ができる人が少なかったので、お姑さんたちの送り迎えに重宝されました。班長以外にも、運動会の運営委員や選手に引っ張りだされました。もともと人前に出るのが嫌いではないので、いろんな役を引き受けました。
子どもが中学生になったころ、班長の仕事が一段落して、公民館の嘱託職員になりました。そこでは情報が得られ、いろいろな講座など勉強する機会があり、人間関係のつながりも広がって、大変に役立ちました。その後、女性部の支部長や副部長などをやり、いまは部長で2期、3年目になります。
大金 女性組織活動に参加した女性の典型的なお話で、説得力がありますね。猪野さんはいかがですか。
猪野 嫁いだ先は農家で、ここは江戸時代末期に村の立て直しをやった二宮尊德のお膝元です。嫁いでから、集落で好きなことをやっていましたが、何か物足りないなと感じていたころ、JAの生活指導員から、味噌づくりをやってみないかと声をかけられました。
味噌は義母がつくっており、まだ下の子をおんぶしているころだったので、あまり気乗りがしなかったのですが、行ってみると先輩たちから学ぶことが多く、楽しかったです。情報をキャッチできる喜びは、今までの楽しさと違うなと感じました。
これをきっかけに、同じような環境の仲間に呼びかけ、3人で若妻会をつくりました。その後も、集落に嫁いできた女性に片端から声を掛け、若妻会のない地区にも勧めて広げました。
大金 女性は家庭で何役も引き受けています。妻・母・嫁・姑と、いくつもの顔を持ちながら志の高い取り組みをしてこられた。そうした女性組織の幹部のみなさんにお会いするたびに、ほんとうに頭が下がる思いです。女性組織の活動を通じ、単位組織あるいは県段階の組織で、影響を受けた人はいますか。
◆多くの先輩に支えられ 「だめもと」で挑戦
猪野 JAで若妻会活動のときに出会った先輩たちに育てられたと思っています。特に全国フレミズ交流集会実行委員長を務めたとき、スタッフのサポートでフレミズとしての役割を、仲間とともに自覚できた経験は貴重でした。また、若妻会から次の世代の組織に移るときなど、先輩たちは、次の若い世代のことも考えてくれていたのだなと感じました。先輩からの叱咤激励はほんとうに感謝です。多くのみなさんに支えられました。そして女性組織にいるからこそ分かること、また組織の中にいるときには気づかずに外から言われて「あっ」と感じることなど、数多くありました。そうした支えと応援がなかったら、今の私はなかったでしょうね。
熊澤 影響を受けたのは、歴代の女性部長からですね。その中の一人は当時、JAの女性理事でした。前に出てどんどん女性を引っ張る人で、周りから何を言われても気にすることなく発言し行動する人で、私は班長でしたが「すごいな、女性でもここまでやれるんだ」と感動したことを覚えています。JAの理事は現在25人で、うち5人が女性です。
大金 女性パワーを受け止めるJAでないと、せっかくの地域の人材がもったいない。その点では、JAはだのもJAはが野も、女性がJAの運営に参画し、積極的に活動しておられる。
猪野 JAはが野では、平成22(2010)年に初めて3人が女性理事になりました。その一人として理事を2期6年務め、積極的に発言してきました。こうした女性の取り組みは、うまくバトンタッチすることが大事です。このために任期が終わると、女性組織の中で話し合い、次の人づくりをしています。理事OGと現役の理事の交流もあり、困った時には「大丈夫、仲間がいるのよ」と励ましています。
◇ ◇
大金 運動は、後継者をつくることが最大の課題ですね。お二人が所属する女性組織は、13年前に姉妹提携されましたが、どのような経緯でしたか。
猪野 きっかけは、JAはだのさんからのラブレターでした。それには、「活発な活動で魅力ある活動をされている貴会とJAはだの女性部の姉妹提携について協議していただき、今後の活動において親睦を深め、情報交換や意見交換を行い、お互いの組織の発展と、全国のJA女性組織の見本となるような活動を展開できればと考えております」とありました。
突然のラブコールに驚きましたが、役員で議論して受けることにしました。当時、私はJAはが野女性会の副会長でしたので、締結のときも同席し、歴史の1ページを刻みました。
※座談会:「報徳」の縁で姉妹提携 「違い」から学び合いへ(2)へ続く
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