米国のTPP批准 不透明に(下) 孫崎 享 氏 元防衛大学教授2016年8月30日
日本でも疑念・徹底議論を許されない強行採決
◆国民見捨てる政治家
こうした状況のなか、孫崎氏は米国の代表的新聞に掲載されたある論評に注目したという。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載された「同胞を見捨てる世界のエリート」(8月15日掲載)である。筆者はレーガン大統領のスピーチ・ライターだったペギー・ヌーナンという代表的な保守派の論客だという。
彼女はその論評のなかでこう指摘している。
「大きな問題は社会の頂点に立つ人々が底辺で暮らす人々から自らを切り離し、愛着も仲間意識を持つこともほとんどないという事態が至るところで起きていることだ」「ウォール街では頂点に立つ人々はかつて指導者としての資質を備えていたものだが、今では生きるだけで精一杯だ」「権力の座にある人々について思うのは、同じ国に住む人々を同胞だと思っていないことだ」――。
孫崎氏は、同胞を見捨てる世界のエリートという台詞を米国のもっとも保守的な論客が使うほど、米国社会の分断が深刻化していると指摘する。
その意味で「今回、米国では被害を受けているとみられる人たちが政治の流れをつくったということです。
トランプもサンダースも既存組織からではなく、むしろそれに反抗するかたちで一大勢力をつくった。みんなが自分の問題として立ち上がった」。
サンダースは負けたが政治力を持つことを証明し、TPP反対などクリントンに対して政策的な枠組みを課した。孫崎氏はこうした米国社会の変化に注目すべきだという。
◆批准阻止へ行動起こせ
一方、日本は臨時国会でTPP批准をめざす。
「アメリカも批准しないような状況が明らかになっているなか、国内に相当の反対勢力がいることも顧みずに批准しようとしているのは滑稽です。
参院選は東北の1人区で自民党は大敗しましたが、これはTPP合意の影響がものすごく大きい。東北の地域社会が今の安倍政権に疑念を持ったわけです。その疑念をますます助長させるようなことをやろうとしている。米国に従順なことを安倍政権は示そうとしていますが、日本がどうこうすれば米国議会が対応を変えるという問題ではない」と批判する。
それでも審議を行うなら農業分野の再交渉義務付けやISDS条項など協定文の問題をしっかりと議論すべきだ。(関連記事 【TPP】を批准させない! 全国共同行動がキックオフ)
(写真)TPPテキスト分析チームが編集・発行。農産物の関税撤廃問題、食品表示、ISDS条項など協定文の問題点を簡潔に解説している。(問い合わせ:アジア太平洋資料センターTEL03-5209-3455)
◎「長い道のり続く」ワシントンのロビイスト
米国ロビイストのなかにもTPPの早期批准に悲観的な見方が広がっている。
大統領選挙後の来年1月までのレームダック期間での批准については、議会多数派の共和党(野党)ライアン下院議長が8月4日「議会でTPPに対する十分な支持を得るための項目の修正がない限り、否決されるために採決を行う意味はない」と語り承認の見通しは全く立たない状況だという。
民主党も選挙綱領にTPP促進は明言されておらず、共和党も野党ながらTPPを後押ししてきたが、全国党大会で採択した政策綱領ではオバマ任期中の批准に後ろ向きな表現となっている。
オバマ大統領政権下で承認が得られず次期政権がTPP再交渉を主張し実際に交渉が開始されると、日本でこの秋の臨時国会で承認したとしても、再度12か国で署名をそろえて新たに議会承認を得なければならない。ワシントンの見方は、長い道のりが続く、だという。
・米国のTPP批准 不透明に (上) (下)
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