【緊急インタビュー(下)】あらゆるものに「値札」 TPPの本質に協同で対抗を ジャーナリスト・堤未果さん2016年11月9日
◆農協改革もセット
農業分野でいえばTPPと両輪で政府がすすめる「農協改革」のなかにある「全農の株式会社化」、同じくTPPとセットで進められている「医療分野の規制緩和」のなかで、特区内で医療法人を株式会社化するという箇所がありますが、あれも同じです。協同組合や皆保険制度は、「徹底した非営利主義」が根底にあっての存在です。それを一部でも株式会社化して値札を付ければ、食物連鎖の中に放り込まれてあっというまに価格競争にさらされる。そもそも「利益の最大化」が最大目的ではない協同組合や皆保険制度が、「株主利益の最大化」という180度違う目的を持つ企業群と彼らのルールで競争する必要などないのです。同じ海の中に放り込まれたが最後、「効率・価格」という部分で負けて大きい魚に食べられるでしょう。そして大きな魚(株式会社)の腹の中にのみこまれてしまったら最後、「効率や利益」以外の部分を軸にした「協同組合」には戻れません。
◆対抗軸に多様性を JAの活動に期待
TPPの本質は世界を統一市場にすること。それは私たちの生活のなかにあるあらゆるものに値札を付けること。モノだけではなく人々自身にも値札がつく。子どもたちの未来を作る教育や、共同体、伝統、文化、芸術、食の安全など、数字で価値が測れないのも後に続きます。TPPのヨーロッパ版であるTTIP(内容は同じ)にヨーロッパの人々が農業従事者を筆頭に激怒して反対しているのも、聞けばこれと同じ理由です。
ニューヨークで出会ったあるシティグループの幹部は私にいいました。「この世の中に、カネで買えないものなどない」そんな世界に子どもたちを住まわせたいでしょうか?
一度失ってしまったら戻れないものがあります。日本にある協同組合も、ここまで作りあげるためには大変な時間と努力、より善き社会を作りたいという人々の思いがあったでしょう。
日本の場合は一つひとつの地域にJAがあって、それぞれが創意工夫をしていています。実はTPPに象徴されるすべてに値札をつけるという考え方を進める側にとって、この「多様性」というものが一番邪魔なのです。多様性、お互い様の価値観、四半期で利益が出ないものを救い上げて総合的に助け合う共済制度など、これらは全て「効率よく利益を出す株主至上主義」とは対極にあります。
現在日本各地から呼ばれて、東西南北のJAや医師会などを回っていますが、一つひとつの地域に、素晴らしい名産品や共同体や人々の暮らしや知恵があり、そのたびに驚きと発見があり、私の国はこんなに貴い「多様性という宝もの」をもっているんだと改めて気づかされます。そして各地域でそれらが維持されている最大の理由は、JAのような協同組合の存在なのです。
◆世界へ連携の輪を 二国間協議に警戒
--今後の国会審議などに向けた提案をお願いします。
今のままだと政府は国会を延長してでもTPP採決をしたいでしょう。でも今回は本家本元のアメリカ大統領選挙の結果が、危険要素が多すぎて全く読めない。
ただ、どちらの大統領になったとしてもアメリカ自体が大統領選挙の後にカオスになってゆく可能性が高いので、すぐにTPP批准というのは難しいでしょう。日本政府がやっているように、私たちもあちらの議員に会いにいったり、ロビイング活動をしても効果的ですね。気をつけなければならないのは、TPPの減速と入れ替わりに浮上してくるだろう「日米二国間協議」の方です。次はこっちが別の名前とパッケージに入れられて登場するでしょう。目を離してはいけません。
農業分野に関しては、TPPが減速しているこの間にもどんどん進む「農協改革」の方を注視する必要がありますね。この時重要なのは、「医療の規制改革」とセットで見ることです。農業だけだと一般市民の関心は得にくいですが、医療とセットで説明することでより一般の人々が興味を持つでしょう。ヨーロッパではTTIPは民衆の反対で一旦決裂しましたが、日本の様に選挙後に翻るリスクを見据えて人々は気を緩めていません。彼らともつながってノウハウをどんどん交換しましょう。大切なものを守る行動に、終わりはないのです。
・【緊急インタビュー(上)】ジャーナリスト・堤未果さんー協定の翻訳なしで審議できないはず、民主主義を取り戻す 国会を国民が変えよう、すべてに値札付け TPP協定の本質
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日