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【緊急インタビュー(上)】あらゆるものに「値札」 TPPの本質に協同で対抗を ジャーナリスト・堤未果さん2016年11月9日

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 TPP協定の承認案をめぐる国会審議は衆院TPP特別委員会で暴挙ともいえる強行採決が行われ批判が高まっているが、政府・与党は衆議院本会議で早期に採決する方針で緊迫した情勢が続いている。国会審議の問題点を含めTPP協定が狙っているものは何か、改めてジャーナリストの堤未果さんに聞いた。

◆協定の翻訳なしで審議できないはず

--TPP協定をめぐる国会審議は11月4日に衆院特別委で強行採決という事態になりました。そもそも今度の国会審議をどう思われますか。

ジャーナリスト・堤未果さん 何よりも悔しいと感じたのは、条約の内容を採決する側の国会議員の大半が理解しないままの審議である事です。昨年秋のTPP大筋合意後、年末にはニュージーランド政府が原文を公開し、それからほぼ1年経っています。8000ページもあるといっても、たとえば農水委員会所属の議員であれば、農業に関わる部分だけでもきちんと自分で翻訳をする、それをなぜ各議員がやってこなかったのか。そのために国民は政党助成金を払っているのであって、政党助成金は党が不動産を買うためのものではないはずです。
 国会議員は国民の代理として、こんなに大事な協定を採決するという重い1票を持っているのだから、最低限中身を精査するのが義務だと思います。外務省が翻訳を出していますが約3分の1に過ぎません。国会審議である野党議員が鬼の首でもとったように誤訳を指摘していましたが、そもそも3分の1しか翻訳がないことが問題で、これでは審議そのものができないはずなのです。
 私も協定文を読みましたが、何せ企業弁護士が書いていますから通常の国家間の条約以上に量が多いし難解な法律用語が満載でややこしい。だからこそ、例えば最も重要だと言われるISD条項に関わる部分だけでも徹底的に翻訳して国際法のプロを呼んで1行づつ徹底的に検証するということをなぜしなかったのか。この1年、議員の先生たちは何をしていたのかという思いがぬぐえません。

◆民主主義を取り戻す 国会を国民が変えよう
 
--国会、国会議員そのものの問題点が露呈したということですか。

 自民党は「TPPは絶対許さない」といって政権を取り、その後立場を翻して交渉を推進してきたことを批判されていますが、その根っ子にあるのはわが国の政党が力を持ち過ぎているという問題です。安倍政権が官僚の人事権を握ることでTPPに反対の農水官僚を押さえ込んだように、党もまた、公認権という名の絶大な人事権と財布を握っているのです。党の方針に逆らえば除名さえされる。国会議員は本来それぞれの地域から選ばれて国会に送られている存在なのに、その信念が党の意向に反していれば動けない、という矛盾した環境に放り込まれるのです。米国のある下院議員は私に言いました。
「党議拘束なんかあったら地元の有権者や地方紙が許してくれないし再選できなくなる」
 しかし、日本の場合は選挙が終わって一旦永田町に入ると議員は有権者ではなく党を見る。野党第1党の民進党も、みていると党内ばかりに目が向いているように思います。
 ただ、それは仕組みに問題があるからです。
 TPPは、国際条約を中身をよく知らずに採決し批准になだれ込むということ自体が論外ですが、それとは別に、私は今回のTPPは点ではなく線だと思うのです。
 原発再稼働にしても安保法制にしても、その根底にあるのは累積してゆく「今の国会の仕組みは限界ではないか」という疑問符です。やはり国会を変えていこうという声を私たちが外から上げないと、TPP採決が終わっても、この腐った政策決定プロセスが変わらなければ、今度は別の分野で、同じように理不尽な形で社会はどんどん変えられてしまう。
 このことに私たち自身が気づいて、そこに本当に怒りの声を上げなければいけない。
 民主主義にはやはりメンテナンスが日々必要です。思考停止してお上に任せてしまうのは楽ですが、それでは私たちは幸せになれないと思ったら私たち自身がメンテナンスをする必要がある。TPPの国会審議で改めてその事を切実に感じました。

◆すべてに値札付け TPP協定の本質

--では、改めてTPP協定の危険性について、これが発効するとどんな社会になるということでしょうか。

 一言で表せば、企業の権限が個々の国民国家を超えて、これからは社会の中のあらゆるものに値札がつくということです。お金では表せないものにも値札がつく。
 たとえば今まで農協がお互いさまでやってきた助け合いや、誰でも保険証一枚あればその日のうちに安く一定レベルの治療が受けられる制度にも値札がついてゆくでしょう。値札がつくということは全部、「○○の沙汰も金次第」、ということです。モノやサービスが欲しければ自分の財布と相談して、ということですね。
 推進派はこの間、判で押したように「グローバル化は素晴らしい」「市場競争にさらせばサービスの質は上がり、価格は安くなって国民に恩恵があるじゃないか」と言い続けてきました。一見もっともらしく聞こえますが、そこには重要な要素が抜け落ちています。
 日本国内から顔を上げて、外の世界に目をやれば分かりますが、現在世界で起きているのは国境を越えたすさまじい企業の寡占化です。市場原理が正常に機能するための必須条件である「フェアで平等な自由競争」は弱肉強食のなか、どんどん消滅し、一部の巨大企業の独占市場になっています。アメリカで「オバマケア」という民間皆保険法が導入されましたが、政府の言った通り医療保険料が下がるどころかどんどん高騰している、こんなはずじゃなかったという悲鳴が各州であがっていますが、これもわかりやすい例の一つでしょう。

【緊急インタビュー(下)】ジャーナリスト・堤未果さんー農協改革もセット、対抗軸に多様性を JAの活動に期待、世界へ連携の輪を 二国間協議に警戒

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