【クローズアップ・国の審議会システム】国民不在の政策決定 転換を(下)2016年12月12日
一人ひとりが政治の目利きに
◆審議会政治の狙い:法政大学・山口教授
審議会を利用して政策を決定していくのは1980年代の中曽根政権の第二次臨時行政調査会などから。山口教授は「考えてみるとその種の審議会を活用するシステムがめざす政策の方向性は一貫している」と話す。
中曽根政権では国鉄の分割民営化、少し時間を経て小泉政権での郵政民営化と規制緩和、そして今回の安倍政権での農業の成長産業化と農協改革である。
「自然に制約されている農業も頑張れば競争力のある輸出産業になれるという幻想と、だから農協に問題ありというネガティブなイメージを振りまく。それは協同組合をつぶしていくことだと思います。国鉄から始まって郵便局、そして農協。大きな資産を持っているが、単なる利潤原理とは違う公共性や共同性という原理で動いているものはじゃまで、それを壊して単純な利潤追求だけで土地利用も資本の移動も全部自由にできる体制をつくる。今の成長戦略の根本的な発想です」。
利潤が上がらなければ公共的なサービスをやめるという発想が30年も続いている。その結果がたとえばJR北海道の経営の行き詰まりと地方の疲弊だ。山口教授は「誰も住んでいない島をめぐって戦争をしかねない雰囲気がある一方、今まで人が住んで国土を形成していた地域がどんどん打ち捨てられ、住みたくても住めない状態になっていく。この矛盾は何か。国土の多様性、社会を構成する人間の多様性を大事にしていく発想を持たなければなりません」と話す。
◆協同組合の価値を考える:青山学院大学・関名誉教授
規制改革推進会議の「意見」について青山学院大学の関英昭名誉教授は農協の各事業部門だけを見て全体を見ない発想があることを指摘する。不採算部門を切り捨てる分割の発想に通じるもので「協同組合の持つ社会的経済の役割をまったく理解していない」と批判する。
さらに関教授が指摘するのは個人ではなく法人ありきの考え方である。農業も家族経営より法人化を進め、協同組合ではなく株式会社化へと誘導しようとしている。
しかもそれを国が計画的に進めようとしている。「政府の農協改革の議論をみると、国家統制経済をめざしてでもいるのかと思います。個人や自由、平等という価値よりも法人や国家に価値が置かれていると感じます」。
一人は万人のために、万人は一人のために、という協同組合の精神にはしっかりと「個」があるということだろう。
そのうえで関教授は協同組合を次のように理解すべきだと強調している。 それは家族・村落共同体的な組織で、利益ではなく連帯感に基づき、共感や倫理を重視する組織でもある面(ゲマインシャフト)と、合理性や効率性など経済性を重視する会社などの組織でもある面(ゲゼルシャフト)の両面を持つというものだ。企業だけの社会であれば合理的に利益を追求するが、しかし、それに歯止めをかける原理がない。
関教授によれば国家がルールを定めて歯止めをかける時代もあったが、グローバル経済では国家の地位は低下してしまっている。国家が市場に振り回されているということは日本に限らず多くの国が直面していることだ。 一方、人的なつながりで組織された協同組合のような団体は組合員の相互扶助や、他人への思いやりなどを重視する。そうした事業を展開するが、それは組合員のためであり、広く地域への思いやりを持つという倫理を合わせ持つのは協同組合しかないというのが関教授が強調していることだ。その意味で「社会のセーフティネットとしての協同組合」という価値を認識してほしいと言う。
こうした認識に立つとともに改めて問われるのが政治と政策決定である。
法政大学の山口教授は「選挙で勝って国会で多数を占めている政党の内閣だから、その内閣がやることはすべて国民の信託を得ているというのが安倍政権の基本的な論理で途方もない開き直りの論理ですが、最後は選挙で勝っているというところに行き着く」と指摘、やはり変えるには民意を示すしかない。
JAに対しても「JAが追求してきた理念を支持する人が増えている。各地で農業を続けていくことが国民も助かることになるというシナリオをぜひ打ち出してほしい」と話す。
関教授は違憲状態だと裁判所に判断されている国会を早く正すことも課題として、政治と政策のあり方に「お任せではなく目利きができる農業者になってほしい」と期待している。
来年の課題が見えてきた。
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