【クローズアップ・国の審議会システム】国民不在の政策決定 転換を(上)2016年12月12日
一人ひとりが政治の目利きに
12月8日、JA全中の奥野長衛会長は定例会見でこの秋の農政議論について、「農業の構造を変えていこうという議論のなか、いきなり『業』が『協』にすり替えられた。怒りを感じた」と振り返った。いうまでもなく政府の規制改革推進会議農業ワーキンググループが11月11日に公表した「農協改革に関する意見」のことである。期限をつけて全農の購買事業からの撤退や組織のあり方などを見直すよう求めたほか、信用事業を行うJAの半減、准組合員の利用規制問題の調査加速などを提言した。現場からは自己改革を進めている民間団体への不当な介入だ―などの反発の声が上がり、11月21日にはJAグループが緊急集会を開いた。集まったJA組合長らからは「規制改革会議にいったいどんな権限があるのか」、「現場を知らない委員ばかりでないか」「農業WGは解散すべきだ」など激しい批判の声が出た。規制改革推進会議をはじめとして政策決定には官邸の審議会が大きな影響力を持つ。この政策決定の仕組みの問題点とJAグループの課題などを識者に聞いた。
◆官邸主導 何でも決定
4年前の平成24年12月の安倍政権発足後、首相官邸に「農林水産業・地域の活力創造本部」が設置された。農業の成長産業化をめざす安倍政権が攻めの農林水産業を推進する核となる組織で、この本部で決めるのが当面の基本的政策が盛り込まれる「農林水産業・地域の活力創造プラン」である。
11月に提起された「農協改革に関する意見」は与党との調整を経て「農業競争力強化プログラム」として取りまとめられ、それが「活力創造プラン」に盛り込まれた。内容はJAの信用事業の見直しなど具体的な問題は削除されたが、全農改革をはじめJAの組織、事業についても政府がフォローアップしていくとされた。これを盛り込みプランを改訂、政府として決定したということになる。
こうした具体的な政策決定には、今回に限らず農林水産省がもちろん関わる(農水省にも「攻めの農林水産業推進本部」がある)が、規制改革会議(9月からは後継組織として規制改革推進会議となった)と産業競争力会議も政策を提起し大きな影響力を持つ(下図)。
(平成25年度 食料・農業・農村白書から)
規制改革会議は内閣府の役割を定めた法律のなかに設置することが規定されているから、一応、法律に根拠がある。一方、産業競争力会議は安倍政権発足直後の閣議決定で設置を決めた組織で現在は未来投資会議に代わった。いずれも首相の諮問機関で委員は首相が任命する。
規制改革推進会議についての批判のひとつに農業の現場を知らない人がなぜ委員になるのかというものがある。本紙も農業WG会合の議事録に委員が「農業のことは素人」と発言したことを取り上げた。
この問題について8日のJA全中の記者会見で比嘉正浩専務は、委員が選任される際に「JAグループからも委員に入れてバランスをとるべきだ」と主張したと話したが、現行のメンバーを見るとその意向はくみ取られていない。
こうした規制改革推進会議の問題について政治、行政が専門の法政大学の山口二郎教授に聞くと「最初に結論ありきであってあまり知らない人のほうがいい。いろいろな人の政策を聞きながら政策を考えるという発想はない」と批判する。
(写真)11月21日に開いた農協改革をテーマにしたJAグループの緊急集会
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