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【寄稿 白石正彦・東京農業大学名誉教授】協同組合運動の闘いの源流から学ぶ(前編)2018年1月11日

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1.協同組合運動の闘いの源流から学ぶ意義

白石正彦・東京農業大学名誉教授 国際連合は、2015年9月17日に、17分野の目標を明示した「持続可能な開発のための2030年アジェンダ(行動計画)」(2015年を起点に2030年を目標)を採択しました。これらは各国政府の課題であるだけでなく国際協同組合運動の取り組み課題と共通する点が多く、さらに、2016年11月には、「協同組合において共通の利益を実現するという理念と実践」がユネスコ無形文化遺産として登録された点を注視する必要があります。
 一方で、「国民のための国家」から「グローバル資本の影響力が多大な国家」に変質しつつあるなかで、貧富や格差の拡大や地球の温暖化、農地の荒廃等が広がっているのではないでしょうか。このため協同組合運動は、国家、経済・社会のグローバルなビジョンの中に市民や労働者、農林漁業者、中小商工業者等をメンバーとした協同組合を位置づけ、鮮明化して地域・足元から開拓者精神をもった活動の展開を深め、広げる大転換期にあります。
 こうした大転換期ですので、世界と日本の協同組合運動が"諸困難を打ち破ろうと努力してきた闘いの歴史"を学ぶ必要があります。

(写真)白石正彦・東京農業大学名誉教授

 

◆英国のロッチデール公正先駆者組合とロッチデール原則
 
 ヨーロッパの協同組合運動の源流について、産業革命によって資本主義体制が最初に成立した英国と遅れて資本主義体制が成立したドイツにおける源流を確認します。
 英国のロッチデール公正先駆者組合は、ロバート・オウエンが提唱した協同組合社会づくりのビジョンを地域・足元から築くために、1844年に当初は28人の織物職工等の労働者がそれぞれ1ポンドの出資金を拠出して、協同組合らしい運営規則を定めて工業地帯であるマンチェスターに近いロッチデールにおいて創設されました。
 この背景には、産業革命による弱肉強食の資本主義経済社会の中で、労働者は貧困から抜け出すために(1)労働組合運動や(2)チャーティスト運動(国会議員の普通選挙権要求運動)に加えて、(3)協同組合運動に取り組んでいましたが、特に協同組合運動は模索状態でした。
 このためロッチデール公正先駆者組合はこれまでの協同組合運動を見直し、第1段階では当時の生活購買における不良食品(粗悪な食料品)や計量の不正(秤が不正確)、掛け買い慣習による借金生活等にみられる商人との不公正な取引の見直しと自らのくらし方の改善に焦点を当て、購買店舗運営から出発しました。
 この組合の運営原則は以下のような10項目に特徴があります。(1)市価によって供給する(商人との摩擦を避ける)。(2)組合員の出資金に対する配当は、預金金利程度に抑制し、剰余金(収益)から最初に控除する(出資金は営利目的ではなく、組合員のコストであり、そのコストを公平に支払う)。(3)出資配当後の剰余金は組合員の購買高利用に比例して配分する。(4)組合員に掛け売りはしないで現金で供給し、仕入れ商品も現金決済とする。(5)組合員に品質の純正な食料品を正確な秤を使って正直に供給する。(6)組合の議決権は男女を問わず平等で、1人1票とする。(7)組合の資金は寄付に頼らず、組合員自らの出資金による。(8)組合員をよく教育する。(9)組合の事業および運営のため、定期的に会合を開く。(10)組合財務をよく管理し、監査し、組合の財産の状況を組合員に知らせる、という点です。
 このうち、特に、1人1票による民主的運営と利用高に応じた剰余金の配分は、協同組合運動の根幹に関わる運営原則で、いわゆるロッチデール原則として、欧州諸国をはじめ世界的に影響を及ぼし、国際協同組合同盟の原則にも採用されました。

 

2.欧州の協同組合運動の闘いの源流

◆ドイツの農村協同組合とライファイゼン原則

 ドイツの農村協同組合は、創設リーダーであるフリードリッヒ・ライファイゼン(1818~88年)が有名です。19世紀においては後進資本主義国のドイツの貧困層の多くは、高利貸資本による収奪に苦しむ農民でした。農民は、農産物・資材の価格変動や自然災害による不作などいろいろなリスクを抱えており、不作になった場合に高利貸や家畜商からの借入金等の返済時期に返せないと農地や家畜を取り上げられ、没落することを余儀なくされていました。
 ライファイゼンは、農村地域の自治体の長であった時期に、農民や農村の貧困を解決するために貧農救済組合(1949年)、福祉組合(1954年)などの取り組みをしました。しかし、自治体や行政の力には限界があるということを認識し、農村協同組合をつくりはじめるのです。
 ライファイゼンの最初の農村協同組合は、自助に基づいた農村信用組合を1862年に結成し、その後信用事業を中心に購買・販売・利用事業など兼営形態で展開します。そこには以下のような(1)~(10)のいわゆるライファイゼン原則の適用に大きな特徴があります。
 (1)農村の教区、村落など、できるだけ小さな区域を設立単位とし、この地区の住民だけ(農業者中心)を組合員として受け入れる。その場合、組合員は他の組合に加入してはいけない。(2)組合員の無限連帯責任制とし、ドイツ協同組合法の基礎の上で設立される。(3)いかなる営業持分も形成せず、またいかなる配当をも組合員に与えない。(4)会計士を除いて役員は無報酬。(5)組合員には貨幣を安全に、適度な利子で供給し、またそのための貨幣をできる限り好都合な条件と十分な返済期限で調達する。(6)組合員の物質的・道徳的状況を改善する。(7)利ざやによって獲得される利潤を不分割の共同財産として集積する。(8)組合員の権利の譲渡は認めない。(9)信用事業を主とするが、販売・購買事業等もおこなう。(10)キリスト教的隣人愛、自助を信条とする。
 このうち、無限連帯責任制とは、農村集落単位の顔見知りで協同組合をつくり、その協同組合が破たんした場合は、メンバー全員の財産で外部からの借入者に弁済する自立、自己責任、自己管理の方式です。このため組合員相互の結集力が強く、その結果、高利でない資金が外部から調達できたのです。
 このようなライファイゼン原則は、日本の産業組合法(1900(明治33)年)にも影響を及ぼし、産業組合を設立する場合には、無限責任、有限責任、保証責任のいずれかを選択でき、1905(明治38)年には61・9%が無限責任でした。さらに、世界の信用組合や農村協同組合にも大きく影響を及ぼしました。

この記事の続きは、【寄稿 白石正彦・東京農業大学名誉教授】協同組合運動の闘いの源流から学ぶ(後編)でお読み下さい。

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