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【クローズアップTPP11】1885品目関税撤廃 来年早期発効も2018年7月10日

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・自給率さらに低下懸念

 米国を除く11か国による新しい環太平洋連携協定として国会で批准したTPP11は協定発効に必要な国内対策などの関連法案が6月29日に参議院本会議で成立した。政府はその後、必要な手続きを経て7月6日、国内手続きの完了を協定の寄託者であるニュージーランドに通報した。これでメキシコに続き2か国が国内手続きを完了したことになり、あと4か国が手続きを終えれば60日後に発効することなる。政府は来年の早い段階での発効も視野に入れている。発効すれば農林水産物の81%が関税撤廃されるというこれまでにない状況となる。国内対策によってただちには影響を受けない品目もあるとされるが、中長期的に生産基盤の弱体化につながらないか懸念される問題も多い。

◆農産物はTPP引継ぎ

clos1807100204.gif 米国のトランプ大統領が昨年1月の就任後、TPPからの離脱を表明したことを受けて、米国抜きの11か国で再交渉が進められたのがTPP11だ。ただ、NZやカナダでは政権が代わりTPPへの姿勢に変化がみられ、米国抜きの協定にメリットがないとするベトナムやマレーシアが消極的姿勢を示したりするなど、交渉は難航する局面もあったが、日本が主導して昨年11月にTPP11として大筋合意し、今年3月チリで署名式が行われた。
 TPP11の内容はもとのTPP協定を組み込み、そのうち特定の規定を凍結させるというのが骨格。凍結されたのは知的財産権関係などで、市場アクセス分野は凍結されないため12か国で合意したTPPの内容が実施される。
 ほかに6か国が批准し、それぞれが国内手続きを完了すれば、60日後に発効することも盛り込まれた。また、協定の見直し条項もある。それは米国が復帰しもとのTPP協定の効力が発生する可能性がある場合、あるいは逆に米国が戻らずTPP協定が発効する見込みがない場合とされ、締結国のどこかが要請すれば交渉をするというものだ。ただし、後述するようにこの協定見直し規定の実効性は不透明だという指摘は多く、一方で参加国の追加や、発効から7年後の再協議など、さらに自由化が迫られれる懸念もある。

【表1】TPPによる関税撤廃率

  

◆重要品目も守られず

 まずTPPで農産物について日本はどのような合意をしたのか、改めて整理しておきたい。
 農林中金総研のまとめによると、2328品目の農林水産物のうち、関税撤廃するのは1885品目。関税撤廃率は81%になる。このうち即時撤廃率は51・3%だ。
 重要5品目(〔1〕米、〔2〕小麦・大麦、〔3〕砂糖・でん粉、〔4〕乳製品、〔5〕牛肉・豚肉)586のうちでも、174品目は関税が撤廃される。米ではビーフンやシリアル、麦ではビスケットやクッキー、牛肉では牛タン、豚肉ではソーセージなどの加工品だ。TPP交渉に参加するにあたって国会決議で重要5品目の「除外・再協議」を求めたが、重要品目でも29.7%を関税撤廃するという合意内容は国会決議との整合性が問われたままだ。
 関税撤廃を免れた重要品目も関税削減や輸入枠の設定に合意した。
 米は米国に7万t、豪州に8400tのSBS(売買同時入札)方式の輸入枠を設定する。TPP11では豪州向けの8400tが発効することになる。SBS方式では現在も10万tの枠があり、外食向けなど業務用米の手当に活用されている。
 牛肉は38.5%の関税が16年目に9%まで削減される。いずれも米国には適用されず豪州が有利になる。7月にも行われるとされる米国との二国間交渉で、今後、米や牛肉のさらなる自由化を迫られる可能性もある。
 乳製品はTPP枠として脱脂粉乳・バターの低関税輸入枠を設定。生乳換算で6万t(発効時、6年目以降7万t)となっている。豚肉も関税が削減され、麦も輸入差益(マークアップ)が削減されるほか、小麦で国別枠(米国、豪州、カナダ)を設定、砂糖も加糖調整品などの関税撤廃・削減が行われる。
 政府はこの合意に対して、たとえば米では、新たな輸入枠にはそれと同量の国産米を政府備蓄米として買い上げる対策や、牛肉や豚肉では価格低下でコスト割れした分を補てんするマルキン対策を法制化するとともに、補てん割合を9割に引き上げるなどのTPP対策を打っている。ただし、影響は長期間にわたると考えられるため、実際の影響分析と対策見直しを継続的に議論していく必要がある。

【表2】重要品目の関税撤廃率

  

◆「見直し」行わず

 そもそも米国抜きのTPP11交渉なら、米国枠として約束した条項をなぜ見直さなかったのかという批判は強い。
 とくに乳製品の低関税枠7万t分は実質、豪州とNZからの脱脂粉乳とバターの輸入増加で埋まってしまい、さらに米国からの現行の輸入量が加わればもとのTPP協定以上の輸入量となって打撃は大きい。「TPP11はTPP12以上に深刻、最悪だ」と批判される理由だ。
 政府は協定6条にある見直し規定をもとに米国の分も考慮して合意した乳製品輸入枠を縮小するよう、いずれ交渉していくとしている。政府は昨年11月の大筋合意の場で「各国が6条に関わる日本の懸念を十分理解した」と説明しているが、米国と競争関係にある豪州やNZが一旦拡大できた輸入量を削減することに応じるかは疑問だ。大筋合意時の共同声明でも「各閣僚は見直しの範囲がTPPの現状に関する状況を反映するためのTPP11改正の提案に及ぶ可能性がある、との見解を共有した」と書かれているだけで、見直しを約束させるような文書はない。
 セーフガードの発動基準も米国の参加を前提として基準値がそのまま残された。
 牛肉のセーフガード発動基準値は発効時59万tとなっている。2016年の牛肉輸入量は520.6万t。輸入国は豪州が27.7万t、米国が20・7万tだった。セーフガードの発動基準まで6万㌧ほどあることになる。しかし、TPP11では米国の輸入量は発動基準にカウントされない。そのため2016年度の実績では豪州からの牛肉が倍増して40万tになって、全体が60万tになっても発動されない。政府は関税の高い米国産から豪州産に置き換わっていくので全体の輸入量が単純に増えるわけではないと説明するが、セーフガードが機能するかどうか懸念されている。

【表3】TPPにおける重要品目の合意内容

  

◆なぜ「影響なし」なのか

 TPP11によって農産物への影響がどの程度あるのか政府は試算をしている。それによるとTPPでは生産額878億円~1516億円減少するとしていたが、TPP11は米国の影響がないために609億円~1093億円の減少になると、少なく見積もった。その見積もりに問題がないか、もあるが、体質強化策などによる生産コスト低減や品質向上などが図られるため、TPP11が発効しても国内生産量は維持され自給率は変わらないとしている。
 「対策を打つから影響はない」との論法だが、これは影響試算ではなく、政策の努力目標に過ぎないのではないか。
 また、試算対象19品目の生産額は6兆8000億円であり、野菜などの1兆6000億円程度がそもそも除外されていることも忘れてはならない。また、農林中金総研の清水徹朗前基礎研究部長によると、みかんやリンゴ、鶏卵など、品質差があるから影響がない、としている品目が多く、実際にはある程度の影響が懸念されることや、関税が撤廃されるソーセージやパスタ、小麦粉調製品など、加工品の影響を軽視、無視しており、影響は3~4倍になる可能性も指摘している。
 カナダ政府はTPP11で対日輸出が8.6%、約1449億円増えると試算している。大半が農林水産物だという。カナダの対日豚肉輸出はTPP11によって約524億円、36%も増加すると見込む。牛肉も約310億円、94.5%とほぼ倍増を見込む。この試算を日本政府の試算とくらべると、カナダ一国で豚肉は生産減少見込み額の倍以上となることになる。
 このような試算はいうまでもなく生産現場を不安にする。参院内閣委員会は付帯決議で影響試算について「他のTPP参加国における試算例や各県の試算例も参考に、より精緻なものとなるよう」見直しを求めた。その他、協定の修正などにも「再生産が可能となることを基準として協議に臨むこと」も求めている。
 しかし、具体性に乏しいとの指摘も出ている。日米協議や日欧EPAの署名など、今後も日本農業の未来にとって正念場が続く。政治がしっかりと役割を果たすべきだ。

 

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