【東日本大震災から9年】宮城ルポ・被災地の農業に新たな息吹き2020年3月9日
3・11東日本大震災から丸9年―。農業関係では、東京電力福島第一原子力発電所の事故による被災地を除いて農地の93%が復旧(2020年農水省まとめ)し、用排水施設もほぼ100%復旧した。特に農業地帯だった宮城県南部の沿岸地帯の亘理町や山元町などでは、イチゴの大規模施設や野菜の団地が誕生し、新しい農業の息吹が感じられるようになった。だが、農地は復旧したものの高齢化に伴う担い手不足から、農地を持て余し、不耕作地になっているところも少なくない。この農地を使ってゼロから露地野菜の栽培に挑戦する企業がある。亘理町で約14haを経営する建部元晴さん(49)は建設業の傍ら、自ら農業に従事し、未利用の農地を活用し、微生物を利用した新しい農業経営を目指している。
春耕の準備をする建部さん(遠方にはまだ未利用地も)
宮城県南部の太平洋側にある亘理町は東日本大震災による大津波で、町の面積の半分近くが浸水し、特に沿岸部に集中していた農地は、その6割以上が海水を被った。除塩とヘドロ撤去で、大方の農地は復旧し、水稲等の作付けが行われている。特に水稲では50~100ha規模の大型法人経営が出現しており、隣接する山元町でも、震災前から盛んだったイチゴの産地が復活。近代的な大規模イチゴ団地が誕生しており、2018年度232戸が、約64haで304億円の販売額をあげるまでになったが、耕作放棄されて、人の背丈ほどもある雑草が生い茂る農地も少なくない。
◆"自然農法"を実践
亘理町で農業に新規参入した建部さんの本業は建設業で、(株)建部商会の代表取締役。事業の拠点は愛知県だったが、拠点を亘理町に移し、農地の復興事業を請け負っていた。そのとき気になっていたのが、圃場整備の完了した優良な農地が放置されていることだった。
もともと建部さんは農業に関心があり、愛知県でもEM菌や酵母菌を使った微生物農法に取り組んでいた。インドネシアに北海道から中古のコンバインを持ち込み、米の収穫作業の請け負いや、農業実習生派遣などの事業に従事した経験もある。特に愛知県の南知多で、化学肥料を使わず微生物によって「自然と共生」の農業を実践している熊崎巖氏の薫陶を受け、「作る人、食べる人、そして環境にもよい」価値を農業にみる。
「農業も、短期間でいかに儲けるかという〝拝金主義〟が横行している。大事なことは農業で安定した生活ができることで、金儲けが目的ではない」という。この考えで、単に労働力としてのみしか考えない現在の外国人技能実習制度の問題点を指摘する。「東南アジアの農業は、いまだ鍬と鎌による農業が支配的。日本でトラクターやコンバインの技術を教え、その国で効率的な経営ができるようにしなければならない。
そうすれば実習生派遣の費用を捻出し、より多くの実習生を派遣し、日本の農業・農法を伝えることができる」と指摘。東南アジアでそのような農場と、派遣のシステムをつくりたいと考えている。建部商会のもう一つの柱である建設業ではミャンマーの実習生が6人おり、彼らは建部さんの農業をみて刺激を受けているという。
大区画に整備されたほ場とイチゴのハウス
◆未利用地を有効に
国や場所は違っても、亘理町で農業を始めた動機には、建部さんのこのような「農業観」がバックボーンにある。野菜の栽培は愛知県での微生物農法の実績があり、熊崎氏とともにミャンマーで農業技術指導をしたこともあるが、亘理町での農業は文字通りゼロからの出発だった。目指すは畑作の大規模経営で、農業用の機械は大型経営の多い北海道から調達。機械の見立ては建設業の経験が生きる。北海道の日高から導入した18インチ3連プラウは緑肥のすき込み、天地返し作業などに活躍している。
昨年、約14haの借地でダイコン、ニンジンを栽培。販路も自ら開拓する。生産した野菜の販売は業務用が中心で、今年度は加工用のバレイショ、ニンジン、ニンニクなどでカルビーやカゴメとの商談も進んでいる。実際の生産・販売はスタートしたばかりで、昨年は100t余りの出荷量しかなかったが、今年の計画ではダイコン500t、ニンジン100t余りを目指している。
計画では、2023年ダイコン、ニンジンの出荷量2700t。機械や設備は50~60haのキャパシティがある。「農家の希望があれば、原則として全て受け入れる」と建部さん。亘理町は災害復旧や震災後の国や県の事業で整備した圃場が約1100haある。排水の悪い圃場もあるが、今後、高齢化が進み、農地を使ってほしいという農家は増えると建部さんはみている。
常時作業に就いているのは建部さんと、女性一人を含む3人だが、「規模を大きくすると、未利用農地を有効に利用するとともに、地域に新しい雇用もつくることができる」と、建部さんは、農業に参入した企業の存在意義を強調する。
亘理町では、個人による30~50haの水稲法人経営が多い。圃場整備が完成し、大規模稲作が可能になっていることと、高齢化や担い手不足で耕作を諦める農家が少なくないためだが、水稲の法人は経営主の高齢化によって経営の持続が困難になる可能性もある。
"自然農法のダイコン"がみごとに育った
◆担い手育成が鍵
亘理・山本町をエリアとするJAみやぎ亘理営農部の大槻克明部長は「大震災から9年経ち、農業機械の更新期に入っている。農地集積は進んでいるが、営農継続をあきらめる法人が出てくるおそれがあるが、せっかく整備した農地を有効に活用したい」と言う。山元町にはJAも出資する農業生産法人「やまもとファームみらい野」があり、トマトやネギなどの野菜を栽培している。
同JAは水稲だけでなく、野菜の生産も視野に入れているが、水はけの悪い圃場もあり、拡大を阻んでいる。亘理町に関して同JAは担い手農家を中心に営農継続についてのアンケートを実施している。
(関連記事)
・本当に復興したのか-農業復興の進捗状況を取りまとめ 農水省(2020.03.04)
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