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【クローズアップ・都市農業】商工連携で「産業化」-川崎市2020年3月27日

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 神奈川県川崎市は農商工等連携推進事業で都市農業の活性化に取り組んでいる。特に都市農業を商業・工業と同じ「産業」として位置付け、可能性を広げようというもので、飲食店と連携した野菜の直売、福祉団体と連携した遊休農地の活用などのほか、ICT企業や大学との連携による新技術の導入など、さまざまな連携を進めている。民間同士の主体的な取り組みを重視する農業活性化の一つのあり方を示している。

飲食店で地元・川崎産の野菜をアピール飲食店で地元・川崎産の野菜をアピール

 川崎市は工業都市のイメージが強いが、4地区の農業振興地域を含め、北西部を中心に全体で約560haの農地があり、市街化区域内農地の約7割、290haを生産緑地が占める。農地面積は市域全体の4%にすぎないが、多種類の野菜をトップに、梨、柿などの果樹、花き・植木などが生産され、それぞれのルートで販売されている。

 ただ、農地と農家数の減少は続いており、農地は10年前に比べ100ha余り減り、農家数は同じく10年前に比べ500戸余り減って1172戸となっている。うち販売農家は595戸で、認定農業者は約50戸。「担い手は30代後半から40代が多く、消費地に近いという条件を活かし、スーパーなどに直接販売するなど意欲的な農家が多い」と川崎市経済労働局都市農業振興センター農業振興課の川口愛農政係長は言う。

 こうした背景の中で、川崎市は平成28年「川崎市農業振興計画」を策定。キャッチフレーズは「『農』を育て・創り・活かし・繋ぐ」で、「農業者が都市的立地を活かした健全な農業経営を行い、『生業』として息づき、併せて安らぎや潤いなど多面的な機能を果たしている貴重な空間である農地を守っていけるような施策を講じる」としている。

 この中で、基本戦略として、①持続的・自律的な農業経営に向けた支援、②農業振興地域等の活性化、③多様な主体との『共創』による『新たな産業価値』の創造、④多面的な機能を有する都市農地の維持・保全と活用の4つを掲げている。

 農商工連携推進事業は、この振興計画のなかに位置付けられる。大都市である川崎市の商工業は、産業としての集積度が高く、生協のOBや大学の関係者も多い。こうした人たちが繋ぎ役となってさまざまな連携がによるモデル事業が生まれている。


アスパラガス栽培の現地講習会援農ボランティアによる苗の植付け

◆アスパラの栽培も
 そのモデル事業の一つに平成28年度事業で取り組んだ明治大学農学部と生産組合との「アスパラガスの新たな栽培方法」がある。新規ホーラー(定植器具)を使った「採りっきり栽培」で、アスパラガスは通常、定植後3年目から収穫が始まり、10~15年かけて繰り返し立茎し、株を養成して収穫するが、「採りっきり栽培」は初年度の株養成だけで翌春に採りきってしまう。病気のリスクが軽減できるため、初心者でも取り組みやすいという特長がある。

 新規ホーラーは風や低温にさらされにくく、慣行では3~5月定植のところを2~3月に早期定植できる。明治大学のキャンパスでセミナーを開いたり、生産組合のほ場で講習会や実証試験を行い、普及に努めた。

 同じく28年度に実施したICT企業との連携では、土壌の環境を把握することで作物の生育状態に合わせて培養液を供給するシステムがある。都市農業では限られたほ場を有効に活用し高収益をあげるために施設栽培を導入している農家が多い。養液管理を自動化することで、農作業の軽減、生産性の向上が期待できる。設置したトマト農家では1日平均30分の省力効果があった。

 また福祉団体との連携にも取り組んできた。やはり28年度事業で、既存の施設や農地を使った障がい者による農作業のトライアル(試験)を実施。農家・福祉施設のマッチングを進めた。

 技術だけでなく、レストランとの連携では、平成元年度モデル事業で、市内の農家の生産した野菜や惣菜をメニューに使用したり、店頭で販売したりして、川崎産を消費者にアピールしている。

 また同じく平成元年度事業に「多摩川梨」のブランディング事業がある。同市最北西の多摩区の梨は「多摩川梨」で知られるが、近年、転入者が増えて知名度が低下した。このため梨の農園主が連携したブランディングやパンフレットデータの共有化をめざす。


◆学生が包装デザイン
 6次産業化の分野では、民間企業と和光大学との連携による農産物の受託加工に取り組んだ。販売に適さない果実を農家から買い取り加工を請け負う。市内洋菓子店と連携したジャム生産、学生の感性を活かしたパッケージデザインの検討などで連携している。

 このほか、農業者と援農ボランティアのホームページを作成する企業などもあり、連携の仕方はさまざまだが、多様で大都市だけにさまざまな企業・団体・組織がある。農業はその繋ぎ役として大きな役割を果たしており、大都市ならではの都市農業のあり方の一つを示している。

 川崎市農業技術支援センターも、この事業にとって大きな役割を果たしている。10人余りのスタッフが、市内の農業者への果樹、野菜、花きの各分野に係る農産物の生産技術の向上を支援する事業や、市民の農業に対する一層の理解と参加を促進するための事業を行っている。


都市農業活性化連携フォーラム都市農業活性化連携フォーラム

◆JAも独自に支援策
 JAも市の有力な協力者であり、JAセレサ川崎は平成23年度から5年ごとの農業振興計画を策定し、連携を強めている。川崎市は1市1JAで、「行政とJAのエリアが同じなので、連携しやすい」と、同JA都市農業振興課の矢沢宏樹課長は指摘する。市とJAの定期的な情報交換は欠かさず、アスパラガスのように市の事業で挙がったものをJAの振興計画に取り入れたものもある。JAには直売所「セレサモス」が2か所あり、端境期のアスパラガスは消費者に喜ばれており、「今年度から本格的に取り組みたい」と期待する。

 こうした農業を中心とする農商工連携事業の成果は、毎年1、2月に開く「かわさき都市農業活性化連携フォーラム」で報告し、事業にかかわる農・商・工業の交流・情報交換の場となっている。


※写真はいずれも川崎市提供

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