問題多いTPP合意 農協研究会があぶり出す2016年2月29日
現場の視点に立ってTPP(環太平洋連携協定)合意の問題点と課題を探り、対応を検討するため、農業協同組合研究会(会長=梶井功・東京農工大学名誉教授)は2月27日、東京都内で第24回研究会を開き、畜産と米の産地JAの報告をもとにディスカッションし、TPPの持つ多くの問題点をあぶりだした。
研究会ではTPPが日本の農業に与える影響について、農林中金総合研究所の清水徹朗基礎研究部長が、総括的に報告した。同部長は、政府が発表した食品の安全面や国内の農業に与える影響について分析。
「政府は、交渉で頑張ったというが、今回の合意の中に、7年後の再交渉に向けた改革の芽が多く潜んでいる」と警鐘を鳴らす。
国内農業への影響では、特に牛肉・豚肉への影響が大きいとして、「輸入牛肉の価格は3割程度低下するため、競合する乳雄、F1の価格が低下する」と予想する。セーフガードについては、発動基準が現在の輸入量を大きく上回っており、今後の消費減を考えると「ほとんど機能しない」とみる。
また国内農業への影響について政府の試算は努力目標であって、(1)現実の生産量の減少をみていない、(2)全品目をカバーしていない。(3)品質差を根拠に影響ゼロとしている品目が多いなどを挙げ、「過小評価している。実際は政府試算の3~4倍の影響の可能性がある」と分析する。
酪農の現状と影響については北海道浜中町農協の石橋榮紀組合長が報告。TPP以前に、すでに酪農の生産基盤がどんどん弱体化しており、このまま進むと、和牛の母牛である乳用雌牛が減り、牛肉の供給にも影響することを指摘し、「国民の命を守るため、生乳や牛肉の確保に国は責任をもつべきだ。TPPは批准もしていないのに対策だというが、一時的な選挙対策でなく、国内酪農のあり方について本質的な議論が必要だ」と、国の役割を強調した。
畜産クラスター政策について、「これまでの政策の焼き直しにすぎない。浜中町農協でやっているクラスターは、人、牛、餌の順で整備しているが、国のクラスターは機械のみだ」と批判した。
また政府の農協改革について、「政府の考える改革の9割は、すでにやってきた。一つやってないのは金融事業の分離だ。そんなことをやったら地域の農業ができなくなる。それだけはだめだ」と、地域における総合農協の役割を強調した。
米への影響については米どころ宮城県のJAみどりのの阿部雅良専務が報告。同専務は、これからの米の需給調整について、農協のイニシアチブによる安定価格の実現を提案する。「農水省に頼らず、全国の農協に法人経営も加え、全体の作付を制御できないか。それで不足したときは輸入すればよい。価格の乱高下で困るのは農家であり、農協である」として、JAグループによる自主調整の必要性を指摘した。
また鹿児島県の指宿で肉用牛を飼育する農事組合法人小川共同農場の小川久志会長は、「変転する世界に生き抜くことを考え、TPPも1つのチャンスとしてとらえるべきだ」と言う。これまで肉牛輸入圧力のなかで、高級牛肉の生産に努め、和牛常時飼育1800頭の農場に育て上げた。「TPP合意は日本の農業の歴史の転換点とみている。可能な限り情報を集めて生きる道を探りたい」と、これからの経営継続に強い意欲を示した。
ディスカッションでは、遺伝子組み換え食品の安全性について「国はなにもいわない。ジャーナリストも書かない。だれが日本人の命をまもるのか」など、TPPでアメリカの安全基準による食品輸入の増加を心配する意見が多く出た。
「米の法律が変わるたびに、われわれは振り回された。自分たちの営農と生活は自分で守るという姿勢が必要だ。農協にその力はある」、「JAはTPP阻止の取り組みが難しいなら、地産地消の大号令をかけるなど、国民運動を呼びかけたらどうか」など、JAグループに期待する声があった。
梶井会長は最後に、「これからもTPPの問題点をさらに煮詰め、基本的な問題点はどこにあるのかを明らかにしていきたい」と、研究継続の意志を示した。
(写真)TPPの問題点を洗い出した農協研究会
(関連記事)
・「現場からみたTPP合意の問題と対応」研究会開催 (16.01.20)
・【TPP】農協研究会がTPPで討論 (15.11.30)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(132)-改正食料・農業・農村基本法(18)-2025年3月8日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(49)【防除学習帖】第288回2025年3月8日
-
農薬の正しい使い方(22)【今さら聞けない営農情報】第288回2025年3月8日
-
魚沼コシで目標販売価格2.8万~3.3万円 JA魚沼、生産者集会で示す 農家から歓迎と激励2025年3月7日
-
日本人と餅【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第331回2025年3月7日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「コメ騒動」の原因と展望~再整理2025年3月7日
-
(425)世界の農業をめぐる大変化(過去60年)【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年3月7日
-
ラワンぶきのふきのとうから生まれた焼酎 JAあしょろ(北海道)2025年3月7日
-
寒暖差が育んだトマトのおいしさ凝縮 JA愛知東(愛知)2025年3月7日
-
給付還元利率 3年連続引き上げ 「制度」0.02%上げ0.95%に JA全国共済会2025年3月7日
-
「とやまGAP推進大会」に関係者約70人が参加 JA全農とやま2025年3月7日
-
新潟県産チューリップ出荷最盛期を前に「目合わせ会」 JA全農にいがた2025年3月7日
-
新潟空港で春の花と「越後姫」の紹介展示 JA全農にいがた、新潟市2025年3月7日
-
第1回ひるがの高原だいこん杯 だいこんを使った簡単レシピコンテスト JA全農岐阜2025年3月7日
-
令和7年度は事業開拓と業務効率化を推進 日本穀物検定協会2025年3月7日
-
【スマート農業の風】(12)ドローン散布とデータ農業2025年3月7日
-
小麦ブランの成分 免疫に働きかける新機能を発見 農研機構×日清製粉2025年3月7日
-
フードロス削減へ 乾燥野菜「野菜を食べる」シリーズ発売 農業総研×NTTアグリ2025年3月7日
-
外食市場調査1月度市場規模は3066億円2019年比94.6% コロナ禍以降で最も回復2025年3月7日
-
45年超の長期連用試験から畑地土壌炭素貯留効果を解明 国際農研2025年3月7日