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【TPP】農と暮らしの未来 国会で徹底審議を2016年4月8日

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 TPP(環太平洋連携協定)の国会審議が4月5日から始まり、7日からは衆議院のTPP特別委員会で協定の承認案と関連法案が審議入りした。TPPは21分野を対象にしており農産物、自動車などの関税のほか、投資やサービスに関わるルールを加盟国間で定めようというもので、農業はもちろん食の安全性や医療、地方経済などに幅広く影響を及ぼす。政府は経済成長効果を強調するが、グローバル資本による暮らしへの影響を懸念する国民の声は絶えず、国会では徹底した審議が求められる。ここでは改めて国会決議との整合性がもっとも問われる農業分野について、合意内容と協定文から見えてくる問題点を整理したい。

◆情報隠し 批判相次ぐ

国会で徹底審議を 全30章で構成されているTPP協定文は、本文と付属書を合わせて英文で6000頁を超えるといわれる膨大な条約文である。政府は2月4日の加盟国の署名後に和訳を公表したが、協定本文と日本に関わる付属書だけで全体が公開されているわけではない。しかも、協定文の正文は英語とフランス語、スペイン語とされており日本語は採用されていない。国会審議はこうした状況で行われている。
 さらに政府が衆院TPP特別委員会に提出した交渉経過等に関する資料はほとんど「真っ黒」に塗られている。合意後も4年間は交渉経過を明らかにできない約束に各国は合意しているが、7日の審議では「国会決議が守られたかどうかは国会で判断をというなら情報開示を。これではどう決議に合致したのか分からない」(民進党・玉木雄一郎衆院議員)などの政府批判が相次いだ。
 表は農水省がまとめたTPP関税交渉の結果だ。重要5品目でも約3割が関税撤廃となる。この合意内容の是非も問題だが、どのような交渉経過でこうした結果になったのかは、現在の政府説明では明らかにならない。
 こうしたなか市民団体、農業団体、労働団体などがTPPテキスト分析チームを立ち上げて協定文を独自に分析し問題点をまとめている。協定文の分析からTPPは「異次元の農業つぶし協定」だと警告を発している。nous1604080901.gifnous1604080902.gif

◆協定文に「例外」なし

 農産物に関わる協定は第2章「内国民待遇及び物品の市場アクセス」とその付属書で規定されている。これを分析し、史上最悪の農業つぶし協定だと指摘しているのは、市民によるTPPテキスト分析チームの岡崎衆史・全国農民連国際部副部長だ。
 協定文が公表されて浮かび上がった根本問題のひとつが、TPPはあらゆる農産物の関税を撤廃することが原則であることだ。交渉参加にあたって安倍首相は、3年前の日米首脳会談で「一方的にすべての関税を撤廃することを求められるものではないことを確認」できたと強調した。そして、合意内容についても他国が100%近い関税撤廃率を約束したのに対して、日本の農林水産物のそれは81%にとどまったから「例外」を確保した勝利だと胸を張っている。
 しかし、第2章・4条は「関税の撤廃」が条文の内容で、「いずれの締約国も......現行の関税を引き上げ、又は新たな関税を採用してはならない」とされ、さらに「各締約国は...漸進的に関税を撤廃する」と規定している。つまり、協定文は関税撤廃に向けた「一本道の条文」(岡崎氏)となっている。
 しかも、この4条には「いずれかの締約国の要請に応じ...関税の撤廃時期の繰り上げについて検討するため、協議する」ことも規定している。関税撤廃に向け、一本道をさらにアクセルを吹かせて進ませようと規定されているのである。
 原則としてすべての関税撤廃をめざすFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)でも関税撤廃の「除外」や「再協議」の品目はある。この4月で発効から3年めに入った日豪EPAでも米は関税撤廃の「除外」とされ、小麦や乳製品などは「再協議」とされている。日本がこれまでに結んだ13か国・地域とのEPAでも除外品目を規定している。
 TPP交渉参加に関する国会決議で米などの重要品目について「引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。十年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと」としたが、ここにある除外と再協議はまさにこれまでのEPA協定を念頭にしたものだった。 ところがTPP協定にはそもそもこのような「除外」や「再協議」の対象は存在しないというのが岡崎氏らの指摘だ。
 「例外を確保した」とは首相も強調するが、「例外」など条約上で確保されてはいないという。
 ということは、「除外」「再協議」という規定そのものを認めないような協定文に合意してしまうのであれば、なはから国会決議など守れるはずがないことなる。だからこそ「例外」と言い換えたのか。
 米国通商代表部(USTR)の「貿易のための農業政策諮問委員会」は2月に「どの品目も除外されなかったことに留意し、TPPの適用範囲を称賛する」との報告書をまとめているという。


◆小委員会の狙いは?

 農水省の発表では関税撤廃の例外を獲得した443品目のうち関税削減も関税割当も設けず関税を維持したのは156品目だった。その他はすでに無傷ではないということである。
 また、関税撤廃に向けてアクセルを吹かせる仕組みは先に触れた4条のほか、18条に規定された「物品の貿易に関する小委員会」にもある。任務には関税撤廃の繰り上げなど貿易促進を図ること。協定発効後の5年間は年1回以上会合を開くことになっている。さらに同25条には「農業貿易に関する小委員会」の設置規定もあり、この委員会も「農産品の貿易...その他の事項を促進すること」となっている。
 日本がこれまでに結んだEPAに農業貿易に関する小委員会は存在しない。TPPテキスト分析チームは、こうした小委員会が今回の大筋合意で関税撤廃率が低い日本に対して、さらに自由化を迫るための「特別な仕組み」になる懸念があると指摘している。
 また、協定発効から7年後、日本は米国、豪州、NZ、カナダ、チリから要請があれば協定の見直しに応じることを付属書2Dで約束している。この見直しは、政府が獲得したという「例外」も対象となる規定だという。政府は、お互いに見直し規定は約束しており一方的に見直しが求められるものではないと説明しているが、見直し協議は「市場アクセスを増大させる観点から」行う義務づけがこの付属書の規定だ。さらなる関税撤廃を迫られることなりかねない。
 このほかにも農業貿易委員会のもとに遺伝子組み換え農産物に関する作業部会を設置する規定が盛り込まれている。食の安全性の観点とは別に、実は物品の市場アクセスの章にGM農産物の生産と貿易を促進する仕組みがあるのではないかという懸念もある。
 国会審議では、協定文から浮かび上がるこうしたTPPの本質と懸念をしっかりと明らかにする必要がある。


【TPP条文】(政府訳)
○第二・四条 関税の撤廃
1.いずれの締約国も、この協定に別段の定めがある場合を除くほか、原産品について、現行の関税を引き上げ、又は新たな関税を採用してはならない。
2.各締約国は、この協定に別段の定めがある場合を除くほか、原産品について付属書二-D(関税に係る約束)の自国の表に従って、漸進的に関税を撤廃する。
3.いずれかの締約国の要請に応じ、当該要請を行った締約国及び他の一又は二以上の締約国は、付属書二-D(関税に係る約束)の自国の表に定める関税の撤廃時期の繰り上げについて検討するため、協議する。
(略)

○第二・十八条 物品の貿易に関する小委員会
(略)
3.物品貿易小委員会の任務には次のことを含める。
(a)締約国間の貿易を促進すること(この協定に基づく関税の撤廃時期の繰り上げその他適当な事項に関する協議による促進を含む)。
(b)締約国間の物品貿易に対する障壁(この協定に基づいて設置される他の小委員会、作業部会その他の補助機関の権限内の障壁を除く)、特に非関税障壁の適用に関する障壁について対処し、適当な場合には、これらの事項を検討のため委員会に付託すること。(以下略)

付属書二-D 日本の関税率表 一般的注釈
9(a)オーストラリア、カナダ、チリ、ニュージーランド又はアメリカ合衆国の要請に基づき、日本国及び当該要請を行った締約国は市場アクセスを増大させる観点から、日本国が当該要請を行った締約国に対して行った原産品の待遇についての約束(この表における関税、関税割当及びセーフガードの適用に関するもの)について検討するため、この協定が日本国及び当該要請を行った締約国について効力を生じる日の後七年を経過する日以後に協議する。


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