農政:現場で考える食料自給率
消費者は農協事業利用で自給率向上(2)【小林光浩・十和田おいらせ農協代表理事専務】2018年8月29日
4. 農協の食料自給率向上事業が国家的プロジェクトとなる可能性
今、全国的に右肩上がりに向上している農業の姿は、地産地消の販売事業である。いわゆる農協のファーマーズマーケット事業。私が提案している地産地消の産直販売事業・食料自給率向上事業は、この(1)ファーマーズマーケット事業を中核とした消費者に近づく多様な産直の販売事業であって、さらに(2)地元の消費者を組合員とした地産地消の農産物を安定提供する事業と、(3)地産地消の教育活動事業を含む総合的な産直販売事業のことである。
私が考える一農協における事業規模は、地産地消の産地化の担い手となる直売部会の農業者が1500人程度を確保する。その販売額は、30㌃の農地に4品目程度を随時販売できるように計画栽培・計画出荷することによって年間100万円程の販売額となる。なおこの数字は、全国における直売部会員の平均値となっている。従って、一人当たり100万円で1500人だと15億円程度の販売規模となる。農協の産直販売の手数料は15%なので、15億円の販売手数料収益は2億2,500万円の事業となって農協経営の採算目処が期待できる。
一方の地元の消費者組合員となって地産地消の農産物を購入してもらう人が2万人程度確保できれば、一週間に一回、地産地消農産物ボックスの宅配利用だけで、一人当たり1回1000円として、週4回、年間48回で4万8000円の販売となることから、2万人で9億6000万円の販売が期待できることになる。さらには、直売施設の販売や中外食産業への産直販売・インターネット販売等を合わせれば相当の販売金額が期待できるであろう。こうした取り組みを全国展開することによって、今回のテーマである我が国の食料自給率の向上が期待できることになる。
仮に、農協の直売部会員の規模1500人は、県段階になれば1万5000人規模となることで、県下の直売部会員による産直販売額は150億円の販売規模となる。これを全国展開すれば、150億円の47都道府県で7050億円の販売規模となろう。まるでタダの数字遊びのようではあるが、全国の農協が地元の消費者を参加させた地産地消販売事業を展開するという「農協による食料自給率向上事業」を積極的に取り組むのであれば、国家プロジェクトとなる可能性が出てくるであろう。
こうした取り組みを夢物語ではなく、農協の事業として確立する取り組みを本気で取り組むことが求められる。その時に、農協の食料自給率に向けた取り組みと、その果たす社会的使命に対する評価が、国際的に高まることであろう。
5. まとめ(新たなこれからの農協づくり)
先進国最低レベルにある我が国の食料自給率を向上させるには、もはや政府に任せて置ける状態にない。農業者を中心とした組織であり、農協事業を通じて協同組合社会づくりをすすめ、日本農業の発展と地域社会への貢献をしなければならない我が農協においては、農協事業によって食料自給率向上をすすめなければならない。
そうした食料自給率向上の農協事業は、(1)消費者の望む安全・安心な国産農畜産物を安定的に供給する体制を確立することと、(2)安全・安心な国産農畜産物を優先して消費する体制とを同時に確立しなければならない。
そのためには、(1)消費者に対して安心・安全・新鮮・美味しい・こだわりの地産地消の産地化をすすめることと、(2)国産農畜産物を優先して利用する地産地消の意識を持った消費者を多く育成・確保すること、(3)その消費者に対して地産地消の産地化生産した農畜産物を優先して安定的に提供することである。
この取り組みの仕組みを事業として構築することができるのは、協同組合社会づくりをすすめる農協の使命である。
農協は継続することができる事業として、(1)地産地消の産地化をすすめる農業者を確保・育成し組織化して、(2)地産地消の産地化をすすめ、(3)地元の消費者を組合員として地産地消の教育活動をすすめ、(4)その組合員である消費者に対して優先して安定的に地産地消の産地化で生産された農畜産物を提供する、この取り組みが「農協による食料自給率向上事業」である。そしてさらには、(5)全国の農協が地産地消の産地化と地産地消の消費者の組織化の取り組みを全国的なネットワークを組むことで、農協の組合員である消費者に対して、多種多様な安全・安心な国産農畜産物を安定的に提供するのである。
この農協による食料自給率向上事業の全国的・国家的なプロジェクトとして取り組み、事業確立した姿は、農業者は消費者のために食料を生産・確保する、消費者は農業者のために生産された食料を優先して利用するという、利他心(他の人の利益を考える心)をもった協同組合社会づくりの大きな成果を得たもので、農協が食料自給をすすめる高尚な取り組みの姿である。
| 1 | 2 |
(食料自給率 関連記事)
・【特集】自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
(小林光浩氏 関連記事)
・農協は協同組織であり「競争組織」ではない(18.03.06)
・【座談会】組合員の思い 言葉に、かたちに(1)(17.10.24)
・【第39回農協人文化賞記念シンポジウムより】受賞者の経験活かそう(17.07.21)
・JA十和田おいらせ(ホームページ)
重要な記事
最新の記事
-
宮崎県で鳥インフル 今シーズン国内12例目2024年12月3日
-
【特殊報】キウイフルーツにキクビスカシバ 県内で初めて確認 和歌山県2024年12月3日
-
パックご飯の原料米にハイブリッド米契約栽培推進【熊野孝文・米マーケット情報】2024年12月3日
-
第49回「ごはん・お米とわたし」作文・図画コンクール 各賞が決定 JA全中2024年12月3日
-
大気から直接回収した二酸化炭素を農業に活用 JA全農などが実証実験開始2024年12月3日
-
江藤農相 「農相として必要な予算は確保」 財政審建議「意見として承っておく」2024年12月3日
-
鳥インフル ポーランド4県からの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月3日
-
鳥インフル ニュージーランドからの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月3日
-
【田代洋一・協同の現場を歩く】JAみやざき 地域密着と総合力追求 産地県が県域JA実現2024年12月3日
-
今ならお得なチャンス!はじめようスマート農業キャンペーン Z-GISが4カ月無料 JA全農2024年12月3日
-
全農日本ミックスダブルスカーリング選手権「ニッポンの食」で応援 JA全農2024年12月3日
-
JAグループの起業家育成プログラム「GROW& BLOOM」最終発表会を開催 あぐラボ2024年12月3日
-
「乃木坂46と国消国産を学ぼう!」クイズキャンペーン開始 JA全中2024年12月3日
-
日本の酪農家 1万戸割れ 半数の酪農家が離農を検討 中央酪農会議2024年12月3日
-
全国427種類からNO.1決定「〆おにぎり&おつまみおにぎりグランプリ」結果発表 JA全農2024年12月3日
-
JA全農 卓球日本代表を「ニッポンの食」で応援 中国で混合団体W杯2024開幕2024年12月3日
-
「全国農業高校 お米甲子園2024」に特別協賛 JA全農2024年12月3日
-
【農協時論】協同組合の価値観 現代的課題学び行動をする糧に JA全中教育部部長・田村政司氏2024年12月3日
-
「上昇した米価が下がらない要因」などPOPデータを無料配布中 小売店で活用へ アサヒパック2024年12月3日
-
料理キット「コープデリミールキット」累計販売食数が2億食を突破2024年12月3日