農政:与野党の政策責任者に聞く「どう進める? 今後の農政」
食料安保を根幹に【国民民主党・玉木雄一郎代表】2019年8月21日
国民民主党は党首の玉木雄一郎代表がこのシリーズのインタビューに応じた。8月20日、立憲民主党と衆参で統一会派を組むことで合意したが、玉木代表は「野党再編の起爆剤、接着剤の1つは農政」と強調し野党で農政を議論する場を検討したいと話した。
--参院選では農業の現場で何を感じましたか。
今の安倍農政に対する不満と不信が根強くあることです。どうしても産業型、大規模型を追求するので、いわゆる地域政策としての農政が不十分で、中山間地域は非常に不安を感じていました。
米政策については、米の直接支払い交付金がなくなり生産調整もなくなって、今年は果たして米価が維持できるのかという不安が、米どころを中心に非常に広がっていると感じました。安心して営農継続できる所得補償の仕組みが必要だということではないでしょうか。
要は何でもかんでも市場原理だけではうまくいかないというのが農業、農政の実態です。産業政策に偏ったいまの農政を、地域政策とバランスがとれたものに変えていく必要があります。
一方で、野党がばらばらになっているので、とにかくまとまってくれ、という声もありました。私は野党を再編していく起爆剤、接着剤の1つは農政だと考えています。地方の多くの農業従事者が感じている農政への不安、それに対する答えをしっかり提示してまとまることが、野党が浮上していくきっかけになると思っています。
◆野党間で農政議論
--野党で農政について議論、検討を続けるお考えはありませんか。
先日、衆参で統一会派を組むことで立憲民主党と合意しましたが、立憲民主党も力を合わせるところは合わせようと変わってきたと思います。まず農政で野党で一緒になって検討、議論する場をつくりたいですね。その際、戸別所得補償制度はわれわれのひとつの考えですが、時代に合わせてバージョンアップしていく必要があります。
1つは地域別に単価を柔軟に変えたほうがいいのではないかということです。生産コストは地域によって違うので、たとえば農政局単位で単価を変えてもいいでしょう。もう1つはヨーロッパでも進んでいる環境加算のような仕組みです。低農薬、無農薬など、食の安全に配慮したかたちで農産物を作る。あるいは動物福祉に配慮して農畜産物を作るという取り組みをしたら加算措置を講じる。それからGAPを広げ、輸出につなげていくためにもGAP加算といったことも主張しています。このような加算措置を導入してバージョンアップした戸別所得補償制度を次の衆議院選挙で問いたいと思います。
◆国のかたち問うべき
--基本計画の見直しについてはどう考えますか。
問題なのは、正式な諮問も受けずに関係者からのヒアリングなどをすでにやっているという点です。通常であれば1年ぐらい前に正式に諮問して、部会などでヒアリングをして決めていくということですが、現時点で正式な諮問をしていません。こういう中で政府に都合のいいデータだけを集めているのではないかという疑いもある。だから、まず官邸農政の修正を図らないといけない。とにかく結論ありきで官邸が何か決めて、その方向に強引に持っていくような農政では現場と完全に乖離します。もう一度、現場の声を聞くということが大事です。
一番大事なのは食料安全保障を、もう一度きちんと国の根幹に置くことです。結局、今の農政は産業型農政一本ですから、工業製品と同じような扱いにしかなっていないわけです。しかし、他の製品やサービスと違い、農業や農地には多面的機能があります。市場原理では測れない価値があるということに重きを置かないと、農政の重要な方向性を見誤ってしまう。そのため食料安全保障を国の根幹に置くべきであって、自国民が自国内で作る農産物で自国民を一定程度賄う、という大きな国としての基本方針がないと、自給率は下がる一方です。実際、生産基盤がどんどん弱っています。とくに農地と担い手、これがどんどん細っている。生産量が減ることによって価格が上がり、みかけの生産額は増えていますが、その裏で進行している生産基盤の弱体化は予想以上に悪化し、食料安全保障の観点から非常に問題です。
私の持論は、改憲議論は9条よりも食料安全保障を憲法に書きこむような骨太の議論をすべきだということです。これはスイスが憲法に導入していますが、条文を読むと人口の一極集中を防ぐためにも農業や食料安全保障が大事だと書いてあります。
今、日本で起こっている問題はまさに一極集中、人口減少、高齢化です。一次産業がある程度、全国津々浦々で元気であること、その前提としてある程度国内で自給をするんだという食料安保の柱がないと、どんな基本計画も絵に描いた餅になってしまいます。だから国家の政策として語るべきは、まず食料安全保障です。
私は農業は国防だとも言っています。地方にも人が住んでいるから攻められないわけで、誰も住まない土地になれば外国人が購入するなど、それこそ国の根幹が揺らぐことになる。これは国のかたちの問題です。
国のかたちとして都会だけではなくて地方もある程度、豊かさと活力を持って維持するためにはどうするのか。そのためにはやはり農業が必要です。とにかくお金を出して海外から買えばいいというところから抜け出して、きちんとした生産基盤が国内に維持されている、そこで雇用が生み出される、農業所得が確保される、こういう基本的な絵姿を国民全員で共有しなければなりません。そういう議論を農林水産省を中心にしっかりとやるべきです。
◆密約ないかしっかり注視
--日米交渉がヤマ場を迎えています。
政府は過去の経済連携協定が譲歩の上限だと言っていますが、そもそもTPP協定が過去の経済連携協定のなかに入るのかどうか、確定していません。トランプさんはTPPから離脱するといって大統領になっているわけだから、TPPを気にするわけがない。6月の日米首脳会談でも8月になったら大きな数字が出てくるとトランプ大統領が発言している。結局、選挙の前には国民に伏せておいて、選挙が終わったら、農産物、とくに牛肉の分野で大幅に譲歩する密約がありうる。ここは相当注視しなければならない。
もし日米間で大幅な譲歩があり、それを隠したまま参議院選挙をしたとするなら、けしからん話です。この問題は、閉会中審査として予算委員会の開催を求めるとともに、国会を早く開いて交渉内容を明らかにしろと求め続けるしかありません。
◆「農協改革」の改革を
--JAグループの改革への取り組みについてどう思いますか。
JAグループは官邸主導の押し付け改革に振り回されるな、と言いたいです。これまで総合農協として地域に根ざして地域の社会インフラとして存在し続けてきた誇りを取り戻していただきたい。
その点で官邸主導で進んだ農協改革を一度、見直したほうがいい。心配しているのは、公認会計士監査への移行や産業政策重視によって、採算性を非常に求められた結果としての営農指導軽視です。つまり、改革の結果、農協は農協でなくなりつつあるのではないか。もう一回、農家や地域のみなさんにとって自分たち農協の存在意義はいったい何なのかということを考えた改革を進めてもらいたいし、一人は万人のために万人は一人のためにという協同組合運動の原点を忘れてはいけない。そこにもう一度戻って「農協改革の改革」をするべきです。
准組合員の利用規制の問題も自分たちで決めればいい。組織の裁量に委ねられるもので、まして国が口を出すものではありません。
(関連記事)
・戸別所得補償復活で地域農業の持続を 衆議院議員立憲民主党・亀井亜紀子農林水産部会長(19.08.20)
・農村地域の維持に 農協が役割発揮を 衆議院議員稲津久公明党農林水産部会長(19.08.19)
・水田フル活用政策 複数年助成を検討 参議院議員・野村哲郎自民党農林部会長(19.08.08)
・【国民民主党・玉木雄一郎代表に聞く】SDGsと整合性ある自由貿易体制づくりを(18.12.05)
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