農政:JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で
【JA改革の本質を探る】北海道力・国力は農業・地域に宿る 「地域と歩む」 育つ心情(上)2016年10月3日
地殻変動――始まった地域からの戦い――海道野党共闘の現場から
飯澤理一郎
北海道大学名誉教授
7月11日、報道各社は与党の勝利を報じる一方、東北・信越など11の一人区で野党候補の当選を伝えた。前者は予測通り、後者は“想定外”だったのかも知れない。その立役者は野党候補の一本化、すなわち「野党共闘」。「野党共闘」と気楽に言ったが、国政選挙で32にも及ぶ一人区で候補の一本化が成立したのは、寡(か)聞にして知らない。前代未聞の“奇跡”“珍事”と評しても良いかも知れない。
◆TPPと農協改革が引き金
理念や諸政策などが異なり、なかなか共同歩調を取り難い政党間で、この度、かくも広範にそれが成立したのはなぜだろうか。「安倍一強」と言われる中での「安保法制」の成立や「アベノミクス」なる経済政策の下での貧富の差の拡大など、様々な要因が上げられよう。確かにそれらを無視することはできない。しかし、ここでは特に「TPP」問題と「農協等『改革』」問題を上げておきたい。なぜなら、両者とも農業・農村社会の盛衰、地域社会の興亡に深く関係するからである。
周知のように、昨年10月、TPPは多くの疑念を抱えたまま、また反対が渦巻く中で、突然、大筋合意に達した。以降、"丁寧な説明"を標榜(ぼう)し、各地で説明会などが開催されたが、丁寧な説明とはほど遠く、むしろ、"丁寧"の意味合いが我々の理解と相当異なっているのではないかとさえ感じるほどであった。その後の情報開示要求に対しても、守秘義務を盾に"ノリ弁型"ばかりであった。説明・開示が至って"丁寧"で、充分"納得"したとお思いの方は読者諸賢の中に、いかほどおいでだろうか。
そして2月には署名式が行われ、早くも3月には「TPP承認法案と関連法案」(一括法)が国会に提出された。過年、「国の形を変える」とか「平成の開国」などと叫んだ人がいたが、相当大きな変動・変質が想起される協定・関連法案をわずか2か月弱で国会提出というのは、余りにも急ぎ過ぎると思うのは我々だけであろうか。"密約があるし、うさん臭いところもある"ので、"臭いものには蓋をしろ"式で早く片付けようとしているのでは、と疑いたくもなる。
ところで、政府が強調するようにTPPの農業への影響は本当に軽微に収まるのであろうか。聖域5品目も含め「無傷のものはない」と言われる中で、生産額こそ若干減じるが生産量は維持できると言うのは信じて良いのであろうか。とすれば、米の買入措置や新マルキンなどのTPP対策は、全ての不安・疑念を振り払って余りある"魔法の杖"なのであろうか。我々には、とてもそう思えない。疑念の中、成立したWTO体制の経験がそれを如実に示しているからである。膨大な予算をつぎ込んでWTO対策が実施されたにも関わらず、米価は奈落に沈み、農業構造は脆弱の度を深め、食料自給率は軒並み低下した。その轍を踏むわけにはいかない。ストップTPPの狼煙が農村から、地域から広がり、大きなうねりとなっていったように思えるのである。
TPPで揺れる中、2014年春「農協等『改革』」が突如として持ち上がった。その最大の狙いは農家の創意工夫の発揮と所得の増大、"儲かる農業"の構築だと言う。農家の創意工夫を押さえ、自由闊達な諸活動を妨害してきた元凶がJA組織などであるから、それを「改革」しなければならない。あたかもJA組織が"儲かる農業"の形成を阻害し、敢えて"儲からない農業"の構築を手助けしてきたかのような言い方である。
◆耕地維持、景観、生活インフラを提供
しかし、我々には根拠薄弱な言いがかりのようにしか思えない。各地を歩いて感じるのはまさにその逆のことだからである。例えば、産地づくりや有利販売を考えて見よう。その販売相手は全国規模の巨大企業とならざるをえない。確かに、零細業者や消費者の場合もあるとは言え、残念ながら物の数ではない。"小異を捨て大同に"つき、"主産地"を形成し"共同販売"することが必要なことは猿にでも分かることである。事実、「食料基地」北海道の産地のほとんどは、そうした展開を遂げてきたのであり、その中軸にJAがありホクレンがあったのである。全国的にも大同小異と言えよう。これを"縛り"と言うなら、自由とは"勝手気まま""わがまま"のことでしかない。また、わざわざ"所得を減らす"ためにやったわけではなく、まさに真逆である。
そして、強力な農畜産加工業を展開し、さらに、生活購買事業(Aコープなど)、金融・共済事業、ガソリンスタンドなどを営み、あまつさえ病院事業や介護事業など、組合員が必要とするあらゆる事業を営んできたのである。もちろん全ての事業が採算ラインにのっているわけではない。もしかして、他の民間企業や医療機関が"農村で、地域で事業を展開してくれるなら、それに超したことはない"と思っているのかも知れない。しかし、我々にはそれが事業間・JA間の"協同""協働"の力であり、地域に根ざし地域から決して離れないJA組織の真骨頂と言えるような気がしてならないのである。
そして、JA組織の様々な創意工夫・尽力の中で「耕地全利用体系」がまがりなりにも維持されていることを特に強調しておきたい。それは美瑛の丘や富良野のラベンダー、十勝の防風林風景などを持ち出すまでもなく、"無償で"美しい自然・景観を提供し、北海道の誇る観光資源にもなっているのである。そればかりではない。採算割れで撤退したスーパーや交通機関、撤退した金融機関や郵便局、ガソリンスタンドなどの穴を埋め、かろうじて地域で暮らせる偉大な生活インフラの役を果たしているのである。
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