農政:JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で
【現地ルポ】沖縄県伊是名村 一県一農協の強み発揮2016年10月6日
生産と販売基盤強化まで
地域のくらしも支える
JAおきなわが1県1JAとして誕生して14年になる。
現在のJAの概況(平成27年度)は、正組合員5万315名、准組合員8万2597名、計13万2912名。正職員1807名、常用的臨時職員118名。購買事業高463億円、販売事業取扱高579億円、信用事業貯金残高8339億円、同貸出残高3006億円。長期共済保有高1兆3521億円。事業総利益197億8900万円、事業利益8億8000万円、経常利益29億6900万円、当期剰余金24億4900万円だ。
沖縄県の農業産出額は、23年度の800億円を底に、JAの努力もあり年々右肩上がりに伸長。26年度には901億円となっている。この900億円の農業生産を支えているのは、サトウキビ153億円、野菜123億円、花卉90億円といった耕種作物と、169億円の肉用牛、133億円の養豚など畜産だ。そして後にみるように、離島の農業はサトウキビと肉用牛が支えている。
JAおきなわの正・准組合員の県内人口に占める割合は9.1%、世帯数では24.5%だが、伊江島・伊平屋島・伊是名島・久米島・渡嘉敷島・粟国島・南大東島・北大東島・多良間島の9つの小離島に限ってみると、組合員の割合は25.9%、世帯数では61.3%と圧倒的に組合員比率が高い。しかし離島では一部の例外を除いて人口は減少し、高齢化が進んでいる。
今回訪れた伊是名島の農業生産額は5億4000万円(26年度)だが、うちサトウキビが3億5000万円と64.8%、肉用牛が9000万円で16.7%、合計4億4000万円、全体の81・5%を占めている。また、南大東島ではサトウキビが82.7%、肉用牛が10%で農業生産の92.7%を占めるというように島による違いはあるが、基本的にサトウキビと肉用牛が島の基幹産業である農業を支えている。
一県一農協となったことで何が変わったのか。
もともと人口が少なく、しさらに減少している離島にもきちんと支店が置かれ、地元の農業とくらしを支えていることがまずあげられる。例えば、伊是名島(村)では島内を移動する手段は車しかないが、ガソリンスタンドはJAのスタンドしかない。島内全部を見たわけではないが、農協直売所のほかには何でも屋のような商店が1軒とフェリー乗り場のお土産中心の店しか見なかった。
島ごとに農協があった時代には、必要であっても経営的には投資が難しかった。しかし、単一JAになり経営的にも健全性が確保されている現在は、さまざまな施設や機器への投資が実現し、島の農業やくらしを豊かにしている。それが何よりも大きな成果といえる。 そして昨年完成した伊是名村製糖工場を実質経営しているのはJAだが、JAでは行政と連携し、老朽化した製糖工場の建て替えを進め、伊是名村のように行政が所有しJAが指定管理を受ける形のものを伊是名を含めて5工場で実現している。
さらにJAは離島における耕作放棄地対策として、JAによる「完全受託方式」を実施、与那国では耕作放棄地18haにJA職員(製糖工場職員)がサトウキビ苗を植え付けて生産。年間3600t台だった生産量を27年には6135tへと大幅に増大した。
JAでは「受託方式」から、いくつかの離島では「直接経営」を行うことを今年の総代会で決めている。また、伊是名では休耕地への苗の共同植え付けをし、5000t生産量を増やした。伊是名ではJAで苗用のほ場も確保し、生産基盤を強化する施策を進めている。
与那国や伊是名だけではなく、JAが経営をしている離島の製糖工場管内ではいずれもサトウキビ生産量が確実に増加しており、粗糖と黒糖の販売額を27年の12億1800万円から30年には16億2000万円へ30%強拡大する計画だ。
このように、離島の経済とくらしを支えるサトウキビでは、休耕地におけるサトウキビの生産から製糖まで、すべての段階がJA抜きでは成り立たない状況となっている。
また、離島だけではなく沖縄本島や石垣島・宮古島などでも、さまざまな地域振興策をJAは実施している。それは大宜味村での加工用シークヮーサーの取扱数量の拡大(24年の536tから27年1903tへ)といった農業振興から、本島北部地区や宮古地区での移動販売車による買い物弱者救済といったくらしの支援まで幅広い。
農産物販売面では、従来からの受託販売に加えて、買い取り販売に力をいれており24年の9億3100万円が27年には15億1500万円へと拡大、これを「倍増する計画」だと普天間専務はいう。そのために8月には関西営業所を開設した。
また、ファーマーズマーケットは、本島や宮古、八重山(石垣)などに10カ所設置されているがその販売額は27年に70億円を突破、29年には80億円を計画している。いまや沖縄県民にとっては、毎日のくらしになくてはならない存在となっている。
「地方創生」とか「地域再生」「地域振興」というが、お題目ではなく、実際に地域にしっかり根をおろし、地域の人々や行政と一体となって、地域のために戦っているのが、農協という協同組合であることを、沖縄で、伊是名島で実感することができた。
◆伊是名村 美しい海とキビ畑の島 "熱い"農協への信頼
伊是名島(村)は、沖縄本島北部、今帰仁村の運天港からフェリーで約1時間。周囲16・7kmのほぼ円形をした島だ。島の南東から北東へ100m前後の山が連なり分水嶺となっている。世帯数796戸、人口1520人。農家戸数は292戸、経営耕地面積は542haで、平成27年度の農業生産額は5億5900万円。うちサトウキビが243農家で2万1975t生産し、生産額は4億4885万円だ(JAおきなわ伊是名支店提供資料から)。
前田村長と普天間専務との対談のあと、JA伊是名支店の高良精利支店長の案内で、何人かの生産者と会い、JAのサトウキビ苗のほ場や製糖工場を見せてもらった。
サトウキビ部会の末吉満部会長は「キビは水が大事」だが、平成20年に地下ダム(国営)ができ潅水の問題がなくなり、「よいキビができるようになった」。さらに製糖工場が新しくなり農協がしっかりやってくれているので安心だと語ってくれた。 ハーベスタで収穫中だった和伊耕産の宮城安志社長は「農協が一つになっていろいろやってくれるので良かった」という。
水稲農家で、野菜パパイヤやサトウキビも生産している東江恵一郎さんは、昔は「米の2期作で、1期目は自分たちが食べる分、2期目は子どもたちの学費や生活費で、米の結いもあった」と教えてくれた。そしてサトウキビ苗の共同植え付けが生産拡大につながっていると評価する。
共同植え付けをする製糖工場でリストを見せてもらうと84件38・31haの申し込みがあり、順次、職員が植え付け作業(除草剤の散布まで)をしているという。この工場では年間3万tを目標にしており、目標の達成には、生産者の高齢化もあり共同植え付けは欠かせないという。
島内はどこを走っても必ず美しい海が見え、その手前にサトウキビ畑が広がる、文字通りサトウキビで成立っている島だと実感する。
そして、前夜、食事を一緒にした元気で明るい農協の支店職員のみなさんが、島の農業を全力で支えていることも。
(写真)JAのキビ苗畑(伊是名)。新しくなった伊是名の精糖工場。ハーベスタでサトウキビを収穫。
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