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農政:JAは地域の生命線 国の力は地方にあり 農業新時代は協同の力で

【提言】リーダーはミッションで動け(上) 石田正昭・龍谷大学農学部教授2016年10月11日

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総合農協の発展なくして地域社会の発展なし
反復的にワークショップ
関係者みんなが意思共有
・「農協の使命」つねに考察
・ビジョン提示権限を委譲

 最初に、このたびの東北・北海道を襲った台風で大きな被害を受けられた方々に衷心よりお見舞い申し上げる。はからずも日本最大の食料基地が、雨にも風にも弱い現実を見せつけられた。この大変な時に、JA帯広かわにしの有塚利宣組合長と管内酪農家のご厚意により、私のゼミの一年生4人が酪農実習をさせて貰っていて、多大なご迷惑をおかけした。ここに深くお詫びとお礼を申し上げたい。

石田正昭・龍谷大学農学部教授 有塚組合長と話していると、常に感じるのは「リーダーはミッションで動く」ということ。私心を捨て、他人のため、地域のために、情熱を持って動いている。何かあると、国の政治家や役人たちが組合長の許へやってくるが、これはそのことを表している。
 ミッションとは「使命」。なので、農協リーダーたるものは「農協の使命の僕たれ」という意味を持つ。農協の使命とは何か、これを考え抜く力の涵養が重要だ。人と相談しながら自らの考えを熟成させる。その結果はシンプルに表現し、何回も口にし、明文化する。一回口にすれば、誰もが理解してくれると思うのは間違い。誰も理解などしていない。
 ミッションで動く、の「動く」は、思索で留まってはならないという意味を持つ。何かが終わったら、次に何をやるのかを考え、実際の行動に移す。動くとはいっても、自らが動くのではない。人を見極め、その人の得意なことを責任を持って実行させる。人を動かすにはミッションではなく、明確なビジョンの提示と権限の委譲が必要だ。このプロセスを繰り返すことによって、人も組織も元気になる。


◆まやかしの「農協改革」

 何やら国は、今回の農協法改正で、農協のリーダー像を「ミッションで動く」から「カネで動く」に変えてしまったようだ。総合農協から専門農協への転換を方向づけるとともに、理事の構成に外形的基準を設け、ビジネス重視の集団に変質させようとしている。私は利他的ではなく、利己的な代表理事の専横によってつぶれてしまった専門農協をいくつか知っている。自分の農業経営と農協との境目がなくなってしまったことが経営破たんをもたらした。
 そもそもが「お国のための農協」、という農協法第1条が時代錯誤だ。農協のミッション・ステートメントたる第1条は「この法律は、農業者の協同組織の発達を促進することにより」で始まり、「もつて国民経済の発展に寄与することを目的とする」で終わる。私は昨年5月の農協法改正に関する衆院参考人質疑で、この「もつて国民経済の」を、「もつて地域の」に修正すべきだと主張した。何人かの衆院議員は賛意を示したようだが、もちろんそんな字句修正の要求を、国は一顧だにしなかった。
 いうまでもないが、そこには字句修正には留まらない理念の修正が含まれている。安倍首相は、昨年2月12日の第189回国会の施政方針演説で「農家の皆さん、そして地域農協の皆さんが主役です」と高らかに謳い上げた。農協法改正案が上程された国会でそう述べたのだが、地域農協が主役であるにもかかわらず、地域農協の事業分割・事業譲渡、准組合員事業利用規制との間にどのような整合性があるというのか。もちろんTPP大筋合意と同批准、米生産調整廃止、農外企業出資の農業法人の参入促進との間にも整合性はない。国は農協を思うがまま動かしたいだけなのだ。

◇   ◆

 国ではない、地域のために存在し活動する、という農協理念は、協同組合が持つ普遍的性質でもある。産業組合法成立前の明治25年、群馬県勢多郡野中村(現前橋市野中町)に野中積縄(つみなわ)組合が誕生した。組合長の清水及衛(ともえ)は、火災や借金に苦しむ農家が多かったことから、この窮状を救うため、縄を綯う組合をつくった。組合員は毎晩、一房(両手を広げた長さの20倍)の縄を綯い、その売上金を5年間積み立てて組合員の借金返済に充てたほか、農業知識を学ぶための学習会の費用を捻出した。
 産業組合法成立後の明治35年、この組合は野中信用組合として再出発したが、及衛は二宮尊徳の教えを理想に掲げ、組合員たちは「正直で偽らない」「感謝の気持ちを持って仕事に励む」「毎月貯金して災害に備える」を申し合わせた。貸付に当たっては、人間性を重視する基準を設け、「仕事に勤勉であるか」「所得に応じた生活をしているか」「家庭が円満か」などを設定したとされる。
 こうした地域リーダーはめっきり数が減ってしまったが、そこに流れるリーダーシップのあり方は今も昔と変わらない。最も大切なことは、地域社会(コミュニティ)のニーズに注意深くなければならないということ。コミュニティのために何をやるのかを絶えず考え、日常の仕事の中にビジョン(現実の明確化)を体化させていく。役職員一同がリーダーのいうミッション、ビジョンを目にし、耳にし、それととともに生きるようにする。最終的には協同組合は社会を変え、人を変えるために存在するのだ。

・【提言】リーダーはミッションで動け(下) ◆地域に固着の農協問題

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